四章 2 来客
※WARNING※
この章は、現在、修正を行っています。
ストーリーを早く知りたい方以外は、お待ち頂くことで、より一層、お楽しみ頂けるかと思います。
「なるほどね」
椅子に座り直したリンがつぶやく。
知るうる限りの経緯をウンノから聞いたリンは、空中に図を描く魔術を使いながら話を簡潔に表す。
「つまるところ、切り裂き魔を見かけたら写真を撮るように頼んでいたオガミさんに、たまたま撮れたので切り裂き魔の写真を渡しに行ったと。で、その帰り、いつの間にか自動販売機でジュースを買おうと、路地に入ったグレ君が襲われたと」
「はい……」
血を吹き出した似てもいないグレに、ウンノとコレットと思しき魔術の線が近づき、リンのまとめが終わる。
図はともかく、間違ってはいないリンの話に、ウンノはとりあえず頷いた。
ベッドの上のグレは未だに目を覚まさず、小さな寝息を立てている。
「それはやっぱり、復讐と見るべきなのかな。それとも目的が……」
悩むリンにウンノは黙って待つしかなかった。
今のウンノはリンの請求という首輪に繋がれる犬も同然で、リンの目的も意図も考えるだけの力はない。
ただ、請求を減らしてもらえるか否かの不安にのみ、思考は費やされている。
無駄に緊張するウンノと悩むリン、眠るグレ。
三人も人が居るのに、静けさが部屋を埋め、魔術の図だけが空中に浮いている。
奇妙な状況も、しばらくすると、部屋の扉を叩く音によって沈黙を破られた。
「ごはん、できました」
開いた扉からは夕飯を作っていたコレットの顔が覗いて、すぐにまた扉の向こうへと戻っていった。
「お、待ってました!」
真っ先に立ち上がったリンが、コレットの顔が出た扉へと向かう。
「時間かかったね」
「すいません。でも、お肉はとろけるようにしました」
「それは楽しみだ」
リンとコレットの会話が扉の向こうに消えていくのを追って、心配そうにグレを見た後、ウンノも紙をポケットに入れてから、リンに続いた。
扉の向こう側は、やはり廊下で、既にいい匂いが漂ってくる。先に通ったリンとコレットが開いたままにした引き戸から漂ってくるようだ。
ドアを通りすぎるとウンノの目の前には、三人の食事には明らかに不釣り合いな、食堂のような広いスペースが現れた。
ウンノたちが出てきたドアとは反対方向にキッチンがあり、そのキッチンもキッチンと言うより業務用の調理場と行ったようだ。
「広すぎませんか?」
遙か遠く、キッチンの近くに見えるリンに、ウンノが大きな声で話しかける。
「そうなんだ。マンション一棟あるからって広くしすぎた」
同意を示すように大声で返答するリンと、食事の用意を進めるコレットの元へとウンノも急ぐと、より匂いがはっきりとしてきた。
「カレー?」
特徴のある比較的なじみ深い料理の香りの正体をつぶやいたウンノに、キッチン内のコレットが頷いてみせる。
強い匂いの正体を知って、広い空間と廊下をもってしても漂ってくる原因を、ウンノは納得した。
キッチン側の机に着席しているリンの向かい側へ座ったウンノの元へ、コレットがカレーライスを運んでくる。
途端にウンノの食欲は消え失せた。
なぜなら、コレットの運んできたカレーは、赤かったのだ。
まるで、いつかの血のように。
「いただきます」
目の前でリンがカレーを口に運ぶ。
手術をしてから時間が経っているとはいえ、ウンノには信じ難い光景であった。
「どうしたの?」
一向に手をつけようとしないウンノに気付いたのか、隣に座るコレットがウンノを見る。
「何で、赤くしたの?」
カレーを凝視するウンノに、コレットが首を傾けた。
「トマトが安かったから……?」
「そっか、そうだよね……」
そうだろう。
理由なんてないのだろうが、ウンノにはどうしても、血に見えてしまって、聞かずには居られなかった。
手をつけようとスプーンを手に持ったウンノだが、コレットは理由を考えて口に出す。
「後は、きっと、火の色だからかな……」
「ん?」
「前に言ったでしょ。私は森を燃やすんだ。その、炎の色かな」
昔、聞いたコレットの夢。
それは、町のはずれにある森を燃やすことだった。
悩んだ末、彼女はその夢を理由にあげたのだ。
「ありがとう」
困らせてしまったことへの謝意からか、気を使ってくれたことに対してか、ウンノはお礼を述べると、カレーに手をつけ始める。
「あ、そうだ」
早くも半分ほどカレーを食べたリンが、フィンガースナップをすると、ウンノのポケットから紙が宙に浮かんだ。
「カレー、美味しいし、材料費、コレット君が払ってるし、今回は支払い良い」
手元に引きつけた紙を、リンは手のひらの上で燃やした。
「あ、ありがとうございます!」
「次は無いからな」
頭を下げるウンノにリンは釘を刺す。
申し訳なさそうに俯くウンノを見て、リンが再びカレーを頬張ろうとするも、すぐにスプーンを置いた。
「来客だ……ちょっと、行ってくるよ」
立ち上がったリンは、ため息混じりに扉へと向かった。
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