一章 6 夜を切り裂く
※WARNING※
この章は、現在、修正を行っています。
ストーリーを早く知りたい方以外は、お待ち頂くことで、より一層、お楽しみ頂けるかと思います。
昼と夜の境界、橙色が紫色へと変わる一瞬の白色を、かつてより、『オウマガドキ』と形容する。
意味由来に当てる文字は多種あれど、全てに共通するのは、不穏不吉のであるということだ。
疑心、暗鬼を生ず。
そこに人が居ることはわかるのに、それが誰かはわからない、明かりがなければ、わずかな先も見辛くなるような時間に、かつての人は鬼を見たのであろう。
「誰か!」
そして、街灯が照らす現代。
神秘が薄れ、夜でも相対する人の顔がよく見えるようになった今では、闇に妖しい影を見るものは少なくなった。
「助けて……助けて!」
代わりに、さらに恐ろしいものを見ることになるとは知らずに。
「クソッ! 何だよ!」
路地を走る少年を、黒い服で全身を包んだ人が追う。
服はもちろんのこと、髪から口元を覆う布、音鳴らす靴も、果ては手袋さえもペンキで塗られたかのように黒く、唯一、白いのは、髪の隙間から覗く目元だけである。
確かに暗くなりつつあるが、まだ夜ではない微妙な時間において、その黒さは明らかに異質なものとして少年の目に映っていた。
さながら影のようについて回る黒い人物は、少年のように走ることなく、日常を歩むかのようにゆっくりと迫る。
「止めろよ、来るな!」
拒絶する少年の服と皮膚は所々破け、赤く染まっている。引っかけたにしては綺麗に、まるで鋭い刃物できる切られたかのような傷を作っていた。
しかし、その場に刃物など見あたらない。
後ろからの追跡者を気にしながら走るあまり、いつもなら気にもとめないような足下の危険に少年は気が付いていなかった。
余りにわずかなアスファルトのヒビに、傷ついた少年の足は躓く。傷ついた足は乗り越えることさえできなかったのだ。
「くっ……」
地面に転がって、なお、必死に後ずさる少年の元へと、影が歩み寄る。
街灯の下に立って少年を見下ろす影が、片方の手袋を外した。
すると、どうだろう、外した手袋から金属色の物体が伸びていく。初めは握った手の親指側と小指側の両端から伸び、ある程度の長さからは、親指側のみが伸びていった。
薄いが幅はあり、緩く弧を描くのは、むき身の鋼。
鞘も鍔も、柄さえもない、黒色の刀であった。
影が少年の横を通り過ぎる。
背後で風を切る音が聞こえると、誰かが横を通り過ぎて、全身に鋭い痛みが走った。
よく考えれば逆に起きる事象に気づいたなら、すべてが終わっていた。
「ごめんなさい。本当に」
男にしては高い、女性としか思えない声を最後に、血塗れとなった少年の意識は途絶える。
上を向いた影が口元の布を外して上を向くと、分け目から髪が左右に流れて、隠れていた顔が露わになった。
時を越えた黒き鬼は、可憐で、儚く、鬼と呼ぶにはあまりにも、美しかった。
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