一章 3 角やら武器屋ら 2

 エマは民間団体の職員である。

 有角種のみで構成される『ホリクト』という団体で、その支部は世界各地で良く見られる。主な活動は個人差のある角の形状や性質を登録して貰い、現在の有角種についてを観測、人種の保護に充てることだ。

 登録時に貰えるカードが、基本的には一生使える身分証となるため、角が生え揃うと、多くが親によって連れて来られる。


 というのが、表向きの仕事内容だ。


 本来の役割は、『守護者のサポート』にある。




 ホリクトの発足は、角狩りの時代にまでさかのぼる。

 当初よりホリクトが人種保護を目指していた点は変わらない。

 ただ、目の前に迫る明確な問題に対してだけというのが違うところだ。


 彼らは角狩りに対抗するため、『守護者』という存在を作り出した。

 エネルギーの吸収率や使用効率が優れている有角種を探し集め、小さい頃から教育をおこなう。そうして他の有角種を守り護る存在──『守護者』とするのだ。


 守護者は世界各地に配置され、ただ、教えられた通り、角狩りから有角種を守り続ける。

 やがてその守護者が老化劣化や負傷によって使い物にならなくなれば、ホリクト登録者内より選ばれた『後継者』を育てさせ、また新たな守護者を誕生させる。


 有角種は物作りに関しては、他人種の追随を許さない。

 それは自らを守る仕組みにさえ及んだのだ。


 そして、不要となってなお、この仕組みは受け継がれている。




 エマはその守護者を維持する部署の一員だ。

 守護者を出動させ、守護者を世間から隠し、次の守護者の候補を探す──守護者のサポーターとして業務に当たっている。


 そんな彼女が、何故、武器商などをしているかと言えば、消えた後継者を探すためだ。


 数年前、一人の守護者から、後継者が逃げ出したとの連絡が入った。守護者自身が追跡をするも、一瞬の隙を突かれて、逃走を許してしまったという。


 報告を受けたホリクトは、後継者が潜伏している可能性のある全ての町に、職員を派遣することを決めた。

 そこに立候補したのがエマである。


 だが、実のところ、彼女には個人的な思惑もあった。

 それは自らの失った角の一部を探すことだ。


 彼女の角は少し先端が欠けている。折れるというほどではなく、まさしく欠けるというのが相応しい。

 幼少の頃、未だに残っていた角狩りによって失ってしまったそうだ。


 折られた角が生えてくることはない。

 だが、もしも自分の折れた角を見つけられたのなら、もう一度、繋ぐことは可能である。

 特殊なアクセサリーでエネルギー体にしても、外せば元の角になるくらいだ。折れた角と折られた角の断面をあわせるだけで、簡単に元に戻る。


 また、折れた角が元の場に戻ろうとするように、折られた角も欠けたものを取り戻そうとする。

 それは持ち主に、直感として現れる。


 以来、彼女は後継者探しに加えて、自分の角探しをおこなっている。

 自らの角が出回りそうな、社会の裏側などに身を置いて。

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