第88話、【香○県大勝利】これぞ超磁力兵器に対する切り札だ⁉

 ──西暦2008年。




 日本国は、『某国』の超磁力兵器によって、絶滅の危機に瀕していた。




 すでに主要な政治機関や都市部や工業地帯は、大陸から侵攻してきた大軍に占領されており、全面降伏するのも時間の問題かと思われた。


 ここ東京霞ヶ関の国政の中枢部もすでに、首相を始めとする閣僚や上級官僚が全員拘束されており、もはや自衛隊をも含むすべての行政機関の指揮系統は、完全に麻痺していた。


 実は何と、異世界からの転生者に身も心も完全に乗っ取られることによって、『なろう系』Web小説等でお馴染みの『オーク』そのままとなってしまっている、大陸の某国家の兵士たちの筋骨隆々たる巨体に取り囲まれて、もはや悔しそうに唸るばかりの総理大臣閣下。


「……くそう、我が愛する国民に指一本触れてみろ、この卑怯者のオーク野郎どもが! 絶対に許さないからな!」


 そんな面罵をすぐ間近で受けながらも、にやけた笑みを微塵も揺るがすこと無く、いかにも余裕たっぷりに言い放つ、この場の指揮官と思しきオーク兵。


「ブヒヒヒヒ、無駄だ無駄だ。我が『異世界コミー軍』は、すでに十年以上前から、密かに日本人たちの身体に転生を行い、身も心を乗っ取っていき、政界やマスコミや芸能界やスポーツ界や、そして何よりもインターネットを中心として、様々な工作活動を行ってきて、更にとどめとして、昨今の全世界的な『人種差別撲滅』の名を騙った、新秩序の建設のための『文化の大革命』を展開し、完全に異世界独自の『コミー思想』を叩き込んでおるのだ。もはや反抗する人民なぞ、ただの一人もいまいて」


「日本人を、舐めるな! たとえ最後の一兵卒になろうとも、闘い続けてやるぞ!」


「……だから、『無駄』だと言っておろうが? 我々の使用した、『工業地帯インダスト○ア一號』なる超磁力兵器によって、世界中の電子機器はおシャカになっておるのだ。コンピュータやネットワークに完全に依存している現代兵器は、もはや起動自体が不可能なのだぞ?」


「な、何だと⁉」


「大人しく、我らの『異世界コミー主義』を受け容れ、『日本自治区』となり、我々異世界人のために、一生奴隷労働に励むのだな!」


「おのれ! 散々日本からの転生者がもたらした、『NAISEI』や『読書の習慣』や『現代兵器の伝播』等によって、文化や産業基盤を発展させて、この世界の基準レベルに当て嵌めれば、後進国から先進国へとランクアップして、GDPにおいては何と世界2位まで上り詰めることができた『恩義』を、完全に仇で返しやがって!」


 そのように憎々しげに宣う総理であったが、むしろそれを聞いて烈火のごとく怒り狂う、異世界指揮官殿であった。




「──ふざけるな! 何が『恩義』だ! 我々異世界エイジア大陸の民を、中世レベルの低文化だと見下して、政治社会システムにやりたい放題手を加えて、富や軍事力の独占による日本人による支配体制を確立して、巧妙なる搾取システムを構築するわ、挙げ句の果てには王族の子女すらも含む指折りの美女や美少女を、転生勇者のためだけの『従軍ハーレム』に強制徴用するわといった始末! 貴様ら転生日本人なんぞは、我ら異世界エイジア大陸にとっては、救世主なんかではない、ただの卑劣極まる『侵略者』だ!」




 まさに、積年の恨みを晴らすかのような、異世界指揮官による、裂帛の怒号。


 その大迫力に完全に気合い負けしてしまう、日本国の指導者。


「……うぐぐ、だ、だが、我々には、『最後の切り札』が、残っておるのだ。今に見ておれよ!」


「ぶひひん、負け惜しみも、大概にしておけ。すべてのシステムが止まっている今、魔法も使えない日本人が、我々オークの魔導部隊に対して、何ができるとでも言うのか?」




「──こうするんだよ、猪豚コミー野郎!」




「「「なっ⁉」」」




 その時、突然の大音声とともに、数十名ほどのオーク兵の全員の身体に、何か白い大きなロープのようなものが巻き付き、完全に自由を奪ってしまったのだ。


「こ、これは⁉」


「触手か?」


「い、いや、違う!」


「……まさか、まさか」




「「「──『DO』、だとお⁉」」」(※すでにこの時点の異世界においては、日本の香○県からの転生者によって、うどんが伝えられております)




「その通り! 『ゲームは、一日一時間』! 日本国の最後の切り札、香○県の登場ですよ!」




 何だか、ふざけたことを言いながら、颯爽と姿を現す、やけに古風な燕尾服にほっそりとした長身を包み込んだ、縁なし眼鏡の知的な青年。




 ──その背後に、なぜだか全員の顔と体つきがそっくりそのままな、十数名もの美少女を引き連れて。




「おお、香○県知事殿、待ちかねていたぞ!」


「大変遅れてしまって申し訳ございません、首相閣下。日課の『うどん捏ね』に、手間取っておりまして」


「構わん構わん、何せ香○県人にとっては、『カルマ』みたいなものだからな」


「「わはははははははは!!!」」


 大勢の敵軍を前にして、ほんの少数の援軍が現れただけで、もはや勝利が確定したとでも言わんばかりに、朗らかに笑い合う、総理大臣と他称『香○県知事』の二人。


 それを見て、うどんでがんじがらめに縛り付けられながら、悔しそうにわめき立てる、異世界大陸軍の指揮官。


「──いやさっきから地の文で、『うどんうどん』言っているけど、本当にこれって、うどんなのか? 何この、ワイヤー入りのロープ顔負けの頑丈さは? 転生者が異世界に伝えたうどんとは、まったく違うではないか⁉」


「ふふふ、本場香○の讃岐うどんは、ひと味違うのですよ」


「ひと味どころじゃねえよ! ──ええい、今更援軍が来たところで、軍事システムが完全にダウンしているのには、変わりはあるまい! 魔導戦車部隊、攻撃開始!」


『──だ、駄目です、指揮官!』


『コミー大陸魔導部隊、機甲師団所属戦車、全車活動不能!』


「な、何だと⁉」


 何とも不可解なる、戦車兵からの魔導無線を聞くや、慌てて機甲師団のほうを振り向く指揮官殿。


「──はああああ? 何じゃ、ありゃあ⁉」


 思わず奇声を発する、オーク隊長。


 それもそのはずであった。


 何とすでにすべてのオーク軍魔導戦車が、巨大で長大なうどんに、がんじがらめに縛り上げられていたのだ。




「くくくくく、我が香○県においては、日本──否、全世界で唯一、完全なる『NOメディア』が実践されており、このように敵側の磁力兵器によって、国中の電子システムがダウンしてしまおうとも、戦闘を続けることが可能なのですよ」


「コンピュータやネットワークが完全に機能停止しているのに、どうやって戦闘行動を行うと言うのだ⁉」




「うどん、ですよ」




「「「……はあ?」」」




「我々香○県人は、生まれた時からうどんに慣れ親しんでおり、今や意のままに操ることができて、更にはうどんのほうでも、どのような要求にも完璧に応えてくれるので、たとえすべての電子機器がダウンしていようが、敵の強大なる軍隊を相手取って、十分に闘うことができるのですよ」




「「「いやだから、それってもう、うどんでは無いだろうが⁉」」」




「いえいえ、こちらも何度も申していますように、香○のうどんは、『特別あつらえ』なのですよ。──何せ、クトゥルフ神話において名高き、不定形暗黒生物『ショゴス』によって、構成されているのですからね」




「「「へ? ショゴスって……」」」




「『讃岐丸』の皆さん、目にものを見せて差し上げなさい」


 そのような、香○県知事の号令一下、背後の少女たちが、一斉に口を開いた。




「「「──集合的無意識とのアクセスを要請。大日本帝国海軍所属、特設水上機母艦『讃岐丸』の、兵装情報をダウンロード!」」」




 その途端、少女たちの周囲に、光り輝くうどんのようなものが現れたかと思えば、みるみるうちに大砲のようなものへと変化メタモルフォーゼしていったのであった。




「「「──四一式150ミリ砲、発射!!!」」」




「「「うわあああああああああああああっ⁉」」」




 少女たちによる『艦砲射撃』の雨あられによって、あっけなく壊滅状態となる、異世界コミー大陸軍。




 すごいぞ、香○県!


 見直したぞ、香○県!


『香○県ネット・ゲーム依存症対策条例』に関連して、何かとディスって、ごめんなさい!


 つまり、香○県の『NOメディア』政策は、こういった『磁力兵器戦』を見越した、深謀遠慮だったのですね?


 これからも香○県の皆様におかれましては、腐りきったWebメディアなぞ見向きもせずに、うどん作りに邁進なさってください!







※【参考映像】『未来少年コ○ン』オープニングムービー。(大嘘)


※すでに防衛省及び自衛隊においては、(別に香○県には関係無く)『磁力兵器』対策を進めており、実際には作中のような状況にはなりませんので、どうぞご安心を。

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