第38話、『作者』という名のチートスキル。
「──私は女神です、詳しいことは省きますが、あなたは私たち神の手違いによって、トラックにはねられてお亡くなりになったから、その代償として、異世界に転生させて差し上げます。つきましては一つだけ、特殊なスキルを授けますので、何か望みがあれば、遠慮無くおっしゃってください」
「……ああ、それだったら、『作者になれるスキル』をくれないか?」
「は? 作者って……」
「知らないのか? 去年あたりからWeb小説界隈で流行っているんだけど、Web作家自身が自分の作品内で作成した異世界に、実際に転移や転生をしてしまって、そこでスマホやタブレットとかで現代日本のネットと接続して、自作のWeb小説の内容を書き換えることによって、目の前に迫っていた魔物の大軍とかを、一瞬で消去したりできるようになるんだよ」
「何ですそれ、むちゃくちゃな⁉ 小説の内容を書き換えるだけで、魔物の大軍が消滅するとか、そんなことあり得るわけがないでしょうが!」
「え〜、元々異世界って、むちゃくちゃなところじゃないのお? それに何といっても文字通り、その作品世界においては神にも等しき『作者』サマなんだから、魔物を消し去ることなんて、お茶の子さいさいでしょうが?」
「確かに、異世界においては、魔法等が普通に存在しているところも多いでしょうが、だからといって、あらゆる論理性や常識を無視して、『何でもアリ』なむちゃくちゃな世界というわけではなく、ちゃんと一定のルールに基づいているのですよ」
「一定のルールって、具体的には?」
「それこそあなたのおられた現代日本で言うところの、量子論や集合的無意識論です。──実はこれらに則ると、いかなる世界もけして、改変や消失させたりはできなくなります」
「はあ? 世界を改変したり消滅させたりすることが、絶対にできないなんて、それじゃ今までのSF小説やライトノベルは、何だったんだよ⁉ 某超人気SFラノベなんか、宇宙人のヒロインが世界を改変して、最終的には新たなる世界に上書きされて、消滅したってことになっていたぞ⁉」
「知るか、その超人気SFラノベを始めとして、すべてのSF小説やラノベが、間違っているだけの話ですよ」
「──おいおいおいおいおいおいおいおいおいっ⁉」
「では、そういった馬鹿げた作品を生み出している、考え足らずのプロの作家連中でもわかるように、一から丁寧に説明して参りましょう。あなたは先ほど、『作者は自分の作品世界の中においては神にも等しき存在である』とか何とかおっしゃっていましたが、いったん作品の中の世界──多くはファンタジーそのままな異世界に転移してしまえば、その方はもはや作者なんかではなく、単なる『小説の登場人物』や、一介の異世界人となってしまい、当然あたなが期待するような『作者としての何でもアリのチートスキル』なんて、使えなくなってしまいます」
「はあ? 異世界転生すると、『作者』ではなくなってしまうだってえ⁉ な、何で、そんなことになるんだよ?」
「だってそうじゃないですか? もし本当にその作品の作者自身が転移したら、それ以降作品を創る者がいなくなってしまうから、作品は続行できなくなり、下手したら異世界そのものが消滅してしまうかも知れませんよ?」
「おっしゃる通りじゃん! 何、今までの『作者』系Web小説作家って、こんな至極当然のことにも気づかずに、作品を創っていたの?」
「よって、『作者』が実際に、自作の異世界に転移や転生をすることなぞ絶対に無く、異世界の中に登場してくる『作者』は、あくまでも単なる『小説の登場人物』ということになるのです」
「じゃあ、俺が要求しているような、『異世界の中で使える作者としてのチートスキル』なんて、絶対に実現不可能なのか?」
「いえ、実は、できないこともありません」
「え、そうなの⁉」
「先ほどの例で言えば、現代日本に居続ける本物の『作者』さんが、自分の作品の中に、『作者のチートスキルを持ったキャラ』を登場させればいいだけですから。──ただしこの場合の『作者としてのチートスキル』は、非常に限定されたものとなります」
「作者の力を、限定するって、どういうふうに?」
「先ほど申した『世界と言うものはけして改変できない』というのは、あくまでも『物理的』に改変できないだけであって、『精神的』なら──具体的には、人間や魔族や魔物の記憶を書き換えるといった方法であれば、世界を文字通り書き換えることができます。例えば『戦争を無かったことにする』場合であれば、世界中の人々から『戦争の記憶』を消し去ることによって、事実上『戦争を無かったこと』にできますが、だからといって、戦争によって死んでしまった人々を甦らせたり、荒廃した国土を元通りにするといった、『物理的改変』のほうは、けしてできないことになっております」
「ええー、そんなんで本当に、『戦争が無かったこと』になるわけ?」
「さっきあなたがおっしゃった、『魔物の大軍を消し去る』ことも、事実上可能ですよ?」
「えっ、どうやって?」
「魔物たちの頭から、『戦意』を消失させて、どこか別のところに行くように仕向ければいいのです。──ほら、物理的改変を行わなくても、ちゃんと自分の望み通り魔物たちを追っ払って、大ピンチをしのげたではありませんか?」
「ほんとだ! やり方はしょぼいけど、ちゃんの望みは達成している! しかもその理屈だったら、ドラゴン等の強力な魔物を、自分の家来にすることだってできるわけだよな?」
「ええ、『記憶や知識』を書き換えればいいだけですので」
「だったら、『カワイこちゃん(死語)』たちの『記憶や知識』を書き換えれば、ハーレムも作り放題ってこと?」
「はい、そうですが…………それらについては、注意事項がございます」
「どんな」
「この精神的改変は、本人たちの意思を無視して、無理やりあなたの願望を押し付けることになりますので、ドラゴンや女の子たちに、あなたに対する憎悪を蓄積させていき、何かの拍子にあなたの支配から逃れることができたら、全力で
「怖っ! 精神的改変、怖っ! つまりこれって、洗脳とかマインドコントロールとか、そういった類いの代物なのか⁉」
「そうです、そもそも『作者としてのチートスキル』なんて超反則技を、安易に使おうとすること自体が間違いなのです。そもそも、『目の前の魔物の大軍を消滅』させたり、『魔物でも美少女でも意のままに』できたりしたら、最初の二、三回ほどなら構わないけど、Web小説として長期的に連載していくことなぞ無理があり、事実ほとんどのこの手の『作者小説』が、途中で挫折しているといった有り様でございます」
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