第34話、人の嘘を見破ることのできるスキル。
『転生法』第800条、『人の嘘を見破るスキル』については、存在自体を抹消すること。
現在、すべての異世界において使用することのできる、科学技術と魔法技術とのハイブリッドの申し子、
──つまり、
では、なぜに『転生法』では、転生者のうち希望者に
さぞかし、この条文を初めてご覧になった、現代日本の異世界転生希望者の皆様は、疑問に思われることだろう。
その多くは、Web小説や商業ラノベの愛読者であられるだろうし、場合によってはその中には、自ら『嘘を見破るスキル』を題材にした作品を作成されたことがある、小説家(予備軍)の方も含まれているかも知れない。
そもそも『人の嘘を見破るスキル』なぞ、Web小説や商業ラノベにおいては、それほど珍しいものではなく、むしろ定番の一つと言っても良かった。
日常的な恋愛等の、男と女の駆け引きの場において。
ギャンブルやテーブルゲーム等の、心理戦中心の勝負の場にいおいて。
権謀術策渦巻く王侯貴族たちの、権力闘争の場において。
弁護側と検察側が知力の限りを尽くして対峙する、法廷の場において。
海千山千の魑魅魍魎が跋扈する、商取引の場において。
国際紛争等を解決するための、国家間の交渉の場において。
すでに戦争状態下での軍師や参謀としての、戦略立案の場において。
──数々のWeb小説や商業ラノベの主人公たちが、『人の嘘を見破るスキル』を駆使して大活躍してきたことは、皆さんよくご存じのことであろう。
なのに、何ゆえ『転生法』では、『人の嘘を見破るスキル』を絶対的に禁止しているのか?
──それは上記で紹介したような、『人の嘘を見破るスキル』をテーマにしたWeb小説や商業ラノベが、学校や職場という一般社会から逃げ出して、自分の部屋にひきこもって、ゲームやネットや二次元美少女ばかりに現を抜かしていき、完全にゲーム脳な妄想癖に成り果てた、世間一般の常識はもちろん、『世界や人間にとっての真理』というものをまったくわきまえていない、オタヒキニートの作家連中の手によって生み出された、単なる世迷い言の産物に過ぎないからであった。
こういった、夢見がちなゲーム脳作家たちは、世間の荒波にもまれたことがないから、人間というものを完全には理解できておらず、既存の『二次元美少女』を基にした、奇怪で歪なキャラクターしか生み出せずにいるのだ。
例えば、こうした『人の嘘を見破るスキル』をテーマにした作品にありがちなヒロインとして、『生まれてから一度も嘘をついたことの無い、純真無垢そのままの美少女』なんて輩がよく見受けられるが、そんな悪い意味で『純粋培養の深窓の令嬢』なんかが存在するわけがないし、もし存在したとしても、実社会の中では3秒たりとて生きていけないであろう。
──なぜなら、人間というものは、日常的に嘘をつかなければ生きていくことのできない、哀しい生き物なのだから。空気を吐くとともに嘘を吐き続けている、醜い生き物でしかないのだから。
そもそも『嘘』とは、他の獣たちのような鋭い牙や爪を持たない、我々人間にとっての、この弱肉強食の世の中において生き延びていくための、唯一の『武器』なのだ。
それを無効化できる『人の嘘を見破るスキル』は、まさしく人類そのものを無力化するも同然で、そんな自分たちの『存在基盤』を揺るがしかねない文字通り『悪魔のスキル』を持った存在なぞを、果たして周囲の者たちは見逃してくれるであろうか?
──否、おそらくは、地域社会どころか、国家どころか、人間とか魔物とかの種族すらも超えて世界全体において、全力で根絶やしにしようとしてくるであろう。
たかが『人の嘘を見破るスキル』程度で、大げさすぎるって? そんなことはありません!
皆様におかれましても、一度我が身に置き換えて考えてみてください。
自分のほんの身近にいる、家族が、恋人が、友人が、クラスメイトが、職場の同僚が、常に自分の嘘を見抜けるというのに、果たして平穏に生活していくことができますか?
以上の各種論旨の結論として、『人の嘘を見破るスキル』なぞを与えたところで、異世界において要らぬ混乱や争いを生じさせるだけでございますので、我が『転生法』におきましては、その存在自体を未来永劫封印することといたします。
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