第35話、TS転生。

 まず、すべての大前提として、二つのことを述べておこう。



・一つは、「TS転生なぞ、別に特別なことではなく、ごく普通なことに過ぎない」ということと、


・もう一つは、「たとえ男性が女性に転生しようが、戸惑うのは最初だけで、すぐに現代日本(の性別)のことなど忘れ果てて、普通に女性としての人生を全うするだろう」ということである。



○『TS転生』とはあくまでも、当然起こるべきことが起こっただけなのである。


 いっそのこと『異世界転生』などと言わずに、普通に『生まれ変わり』が起こる場合を考えれば、わかりやすいかと思うが、我々人類において、もしも『生まれ変わり』なぞといったものが普通に行われているとしたら、『新しい性別』は『以前の性別』なんかとは何の関係もなく、『男か女か』の二つしか無く、どちらになるかは半々──すなわち『同じ確率』なのだから、どちらになろうがおかしくなく、よって男が女になったり女が男になったりする『TS転生』なんて、別に特別なことではなく、全転生者の約半数において行われる、ごく普通なことに過ぎないのである。


 ……と言うよりもむしろ、これまで現代日本のWeb小説等において、当たり前のように繰り返されてきた、『男が男に転生する』作品のほうが、よっぽど異常だったわけなのであり、何ゆえ確率上は半分くらいは女性に転生しなければいけないはずなのに、ほとんどの作品において判で押したように、男ばかりに転生するのであろうか? この程度のこと、ちょっと確率論をかじっていれば自明なことであるのに、現代日本のWeb小説家の皆様って、中学や高校の数学の時間においては、一体何をしておられたのであろうか?



○【TS転生の全否定】実は肉体が女性であれば、その人物は、たとえ自称『以前男性であったTS転生者』であろうが、自称『現在男女間で人格が入れ替わり中』であろうが、女性以外の何者でもないのだ。


 実は、我々人間の『自己認識アイデンティティ』というものは、『人格』とか『精神』とかはもちろん、自称転生者お得意の『前世の記憶』なんて言う、確固とした形の無いあやふやな代物なんかではなく、肉体にこそ基づいているのだ。


 これは現代日本の最新の物理学を代表する量子論どころか、すでに過去のものとされている古典物理学の時代から唱えられてきた根本的理論なのであり、『人格』とか『精神』とか『意識』とか『記憶』なんてものは、肉体を動かす『OS』のようなものに過ぎないのである。


 よって、まさに、肉体的に女性であるのならば、女性以外の何者でもないのだ。



○【おまけ】話は『異世界転生そのものの全否定』にまで波及したりして⁉


 ──そして何と以上に述べたすべての論旨は、『異世界転生』そのものの在り方についても同様に適用されて、肉体上(現代日本からすると異世界に当たる)この世界の人間であるのなら、現代日本からの異世界転生者なんかではなく、れっきとしたこの世界の人間でしかないのである。


 なぜなら先ほども言及した量子論や集合的無意識論に則れば、二つの世界の間を、人間等が物理的にはもちろんたとえ精神のみであっても、行き来したりできるはずがなく、ただ単に、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってきているとされる、『集合的無意識』と何らかの形でアクセスすることによって、特定の現代日本人の『記憶と知識』を脳みそに刷り込まれて、それをあたかも『前世の記憶』であるかのように思い込むことで、自分のことを『現代日本からの異世界転生者』であるかのごとく、の話にすぎないのである。


 よって、たとえ男性が女性に転生しようが、戸惑うのはほんの最初だけで、すぐに以前の性別どころか、自分が現代日本からの異世界転生者であること自体を忘れ果てて、普通に異世界人の女性としての人生を全うすることであろう。

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