第31話、スマホ。

「──おい、職務中に、スマホばかり扱っているんじゃないよ、ちゃんと真面目にやれ!」




 その日、毎度お馴染みの某異世界に所在する転生局転生法整備課にて、あくまでも職務に精を出していた『主事』と呼ばれる平課員である私に対して、すぐ近くのデスクに座っていた直属の上司の課長殿が、いきなり苦言クレームを呈してきた。




「──えっ、私これでも、仕事をしているんですけど? ちょっと『引っかかったこと』があったから、スマホで『転生法』の条文や判例を確認したり、その他にも量子魔導クォンタムマジックネット上の情報を収集したりといった感じで」

「何? そ、そうか、それはすまなかった…………いや、ほんと、年はとりたくないな。スマホをいじっているのを見ると、つい、ゲームで遊んでいるか、エロサイトでも閲覧しているものと、思い込んでしまうんだよな」

「……エロサイトって、いや、いくら何でも、それこそ仕事中に上司の目の前で、そんなことするやつはいないでしょう。──ただし、今回の場合においては、たとえゲームをやっていても、十分職務の範囲に入るんじゃないですか?」

「……何だと、ゲームをやってて、仕事になるって? そういえば、おまえ一体、何について調べているんだ?」

 私のいかにも思わせぶりな台詞に、訝しげな表情で問いただしてくる課長に対して、満を持して言い放つ。




「……課長、そもそもこの異世界に、『スマートフォン』なんて、存在していてもいいのですかねえ?」




 その瞬間、圧倒的な沈黙が、整備課を覆い尽くした。


 私はうかつなことにも、『パンドラの箱』を開けてしまったのだ。


 ──異世界の常識としては、スマホの存在を全否定しているのに、確かに自分の手の内に存在しているという、歪んだ事実。


 この矛盾した命題により、すべての理論は破綻し、宇宙そのものが混沌に包まれて、全異世界が終焉へと向かい「──いや、そんな大げさな話じゃないから!」


 ……調子に乗って、嘘シリアスモノローグぶっこいていたら、課長に突っ込まれてしまった。


「ていうか、真面目な話、まさしく全異世界的に、今や『異世界にスマホがあっても当たり前』みたいな感じになってしまっているんですけど、本当にいいんですかねえ?」

※ここで言う『全異世界的に』というのは、『全Web小説的に』と翻訳してくださいw

「うむ、すべての異世界にあまねくスマホが行き渡っていること自体は、問題が無いどころか、『転生法』ひいては我々転生局の目標としているところと合致し、むしろ好ましいとも言えるだろう」

「はあ? 異世界にスマホが普及することが、『転生法』や転生局の目指すところですって?」




「……おいおい、まさかおまえ、今自分が持っているスマホが、現代日本製そのままの、単なる『科学技術の産物』とでも思っているのか?」




 …………あ

「そうだ、そうだった、まさにこのスマホって、科学技術とによって生み出された、量子魔導クォンタムマジックスマートフォンだったんだっけ⁉」




「そうだ、剣と魔法のファンタジー異世界に、現代日本からの異世界転生を促進することで、最新の科学技術等を大いに導入していき、元々あった魔法技術と融合させることこそ、『転生法』制定の最大の目的であり、その代表的な成果の一つこそが、まさにその量子魔導クォンタムマジックスマートフォンと言えるだろう」




「……じゃあ、これからの異世界は、どんな異世界(=Web小説)においても、当たり前にスマホが存在してもいいというのが、『転生法』並びに我々転生局の見解と言うことでいいのですか?」


「そこは間違わないで欲しいのだが、異世界にスマホがあること自体はけして否定しないが、『他の異世界(=Web小説)にスマホがあるんだから、うちの世界(=作品)にもスマホがあっても、別に構わないだろう』という、(創作者として)『思考停止』した考え方(=二番煎じやパクリ)は厳に慎むべきであり、もし己の世界(=作品)にスマホを存在させるとしたら、それなりの『理由』を、あくまでも(それぞれの作者が)『自分で考える』べきなのだよ」


「それなりの、理由って……」

「いくら現在においては『スマホ容認』の空気が優勢だからって、戦国時代の日本そのままの異世界にスマホが存在するのは、どう考えても不自然だろう? やはりそこには何らかの、(その作品ならではの)『独自の』理由が必要と思うのだ」

「……う〜ん、それって、むしろ異世界としては一般的な『中世ヨーロッパ』的な世界観の場合も含めて、『現代日本人が異世界転移をした際に一緒に持ち込んだ』では駄目なんですか?」

「駄目に決まっているだろう? 忘れてもらっては困るが、質量保存等の物理法則に基づけば、スマホどころかその持ち主自身が、現代日本から肉体丸ごと別の世界へ、異世界転生ならぬ異世界をしてくることなんて、けしてあり得ないというのが、『転生法』における基本的考え方だろうが?」


 ……あ、そういえば、そうでした。

「それから、『ネットに接続できるかどうか』という、問題もあるぞ?」

「……確かに、最初はほとんどの世界(作品)において、『常識的に考えて、異世界で現代日本のネットに接続できるはずはない』という、考え方(作品)が主流を占めていたのに、昨今ではいつの間にか、『異世界でもネットに接続できて当たり前』といった、考え方(作品)ばかりになってきてますよね」

「これも、ただ先行した異世界(作品)をなぞっているだけの、『悪しき例』だな、もしも異世界でネット接続ができるようにしたいのなら、各異世界(作品)において、それなりの理由を設けるべきだろう」


「ちなみにこの世界(作品)においては、そもそも科学技術と魔法技術とのハイブリッドの産物である量子魔導クォンタムマジックシステム自体が、集合的無意識論や量子論に則って構築されているゆえに、量子魔導クォンタムマジックスマホにおいても、集合的無意識を介することによってこそ、現代日本のネットに接続できるようになっているんですよね」


「左様、実はこの特性を持つからこそ、次回以降に紹介する予定の、ゲーム脳的な異世界(作品)でお馴染みの、『ステータスウィンドウ』等についても、この世界(作品)では量子魔導クォンタムマジックスマホを使って表示することになっているんだよな」




「そういえば、そうでしたね。──わかりました、それでは最後に、これまで述べたことをまとめておきましょう。もはやすべての異世界においては、そこが中世ヨーロッパ風世界観であろうが戦国日本風世界観であろうが、普通にスマホが存在していて、ネット接続を始めとする、普通のスマホ並みの諸機能はもちろん、それぞれの異世界ごとに独自の機能を付加しようが、何ら問題はありませんが、単に『他の異世界にもスマホやネット環境があるから』といった他力本願ではなく、ちゃんとスマホやネット環境が存在するにふさわしい理由を、ご自分の頭で考えること──といった感じでよろしいのですね、課長?」




「──ああっ、また『ショタ○督』と、ケッコンカッコカリするのに失敗した! くそう、もう少しだったのにぃ〜」




「あんたこそ勤務中に、『艦○れ』なんかやっているんじゃないよ⁉ しかも『○娘かんむす』ではなく、『ショタ提○』って何だよ? なんてマニアックな二次ゲームをやっているんだよ⁉」

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