第27話、『死に戻り』③『リ○ロ型の死に戻り』の致命的欠点は、『ゲーム脳』にあり⁉

 さて、今回はいよいよ、いわゆる『リ○ロ』型とも呼び得る、これぞほとんどの異世界系Web小説において、『死に戻り』の代名詞とされている、主人公が生き返るだけにとどまらず、それと共に世界そのものがやり直されるタイプのものについて、これまで以上に懇切丁寧に語っていきたいかと思います。


 ──その前に、ここで先に宣言しておきますが、これまで『当事者のみが何度でも生き返る』タイプの、いわゆる狭義の『死に戻り』について詳しく説明を施し、これらが論理的にも物理法則的にも十分実現可能であることを証明したのと同様に、何よりも現代日本の皆様の、いかなる異世界転生に関わるリクエストに対しても、完璧にお応えすることを旨とする、『転生法』の実施機関である我が聖レーン転生教団を代表いたしまして、いわゆる『リ○ロ』型とも呼び得る、主人公が生き返るだけにとどまらず、それと共に世界そのものがやり直されるタイプの『死に戻り』についても、ちゃんと実現して差し上げることをここにお約束いたします。


 ただし、あくまでもその大前提に立って、あえて申させていただきたいのですが、残念ながら、何から何まで『リ○ロ』そのままの『死に戻り』を実現することに関しては、不可能であると、前もってお断りいたしておきます。




 ──なぜなら、『世界そのものをやり直す』ことなぞ、絶対に不可能だからです。




 ……とはいえ、『リ○ロ』の作者様を始めとする、各創作サイトに腐るほどにおられる『死に戻り』作家の皆さん、ご安心なされませ。


 いわゆるユング心理学の代表的理論である『集合的無意識論』に則って、少々手を加えるだけで、ほとんど『リ○ロ』型の『死に戻り』と変わりない現象を、実現することは十分可能なのですから。


 ──それでは、以上の前提条件を踏まえまして、これより『リ○ロ型の、世界そのものをやり直す、死に戻り』の真に現実的かつ理想的な実現方法について、順を追って詳しく説明して参りましょう。



○『リ○ロ型の死に戻り』とは?


 もはや今更説明する必要は無いかとも思われますが、一応極簡単に最も重要と思われるポイントについてのみ、箇条書きで述べておきましょう。


・なぜだか事あるごとに、主人公の前に、強大な敵や困難な問題が立ち塞がることになっている。


・主人公はそれに対して、何度失敗しても再チャレンジできるのだが、その『世界のやり直し』の発動条件が、彼自身の『死』であるからこそ、一般的にこの現象に対しては、『世界のやり直し』や『ループ』ではなく、『死に戻り』と呼ばれることになっている。


・バトルに負けて殺されることによる、痛みや恐怖に何度も何度も耐えながら、けして屈せずに再チャレンジ繰り返しているうちに、何らかの『活路』を見いだし、最終的にはどんな強敵も倒せて、どんな困難な問題も解決できることになっている。


・この『死に戻り=世界のやり直し』現象が起こっていることを知っているのは、当事者である主人公のみとなっている。


・よって、主人公以外の人々からしたら、主人公はどんな強敵や困難な問題でも、一発で打破することができる、完璧超人に見えることになる。



○『リ○ロ型の死に戻り』の致命的問題点。


 実はこの『リ○ロ型の死に戻り』が、まさしく各種ゲームにおける『セーブシステム』以外の何物でもないことこそが、諸悪の根源であり、だからこそ致命的な問題点を生じることとなったのであった。


 ──これについての説明は、非常に簡単である。


 当該『死に戻り』作品が、これまでに通算n回のイベントにおいて、『死に戻り』が必要になるほどの強敵と、絶望的なバトルを繰り広げていることとする。


 すると、n回目のバトルイベントにおいて、一通りの『死に戻り』をやり終えた後に手に入れることができた、最終的な『やり直した世界』においては、当然のごとく1回目からn−1回までのすべてのバトルイベントも、すでに勝っていることになっているであろう。──なぜならそうでなければ、この時点で主人公が生存していることが、おかしくなるからである。


 ──しかし、現実問題として、これは、あまりにも『非現実的な状態』と言わざるを得ないのだ。


 それというのも、最後のn回目のバトルイベント以外の、1回目からn−1回までのバトルイベントについては、『死に戻り』を一度も行うことなく、すべてたった一度の勝負で、難敵を降していなければならないのだから。


 だって、言うまでもなく、『死に戻り』を一度でも行ってしまえば、『主人公』は当然のごとくその時点において、文字通りに『死んでしまう』んだもの。


 とはいえ、これまでそれこそ無限とも言える『死に戻り』を繰り返すことによって、どうにか辛勝してきた相手に対して、たとえ一度は勝っているとはいえ、改めて勝負に臨むに当たって、すべて一度の勝負で勝つことなんて、とても現実的ではないだろう。


 しかも、これはバトルイベントの回数である、『n』の数値が増大していくほど、ますます困難になっていくものと思われた。


 それなのに、ほとんどの『死に戻り』作品において、当たり前のように『主人公』が勝ち続けることが、不思議で不思議でしょうがないのだが?


 なぜこんなことになってしまったかと言うと、『リ○ロ型の死に戻り』タイプの作品を創っているすべての作者様は、『n回目のバトルに勝てば、当然のように、1回目からn−1回までのすべてのバトルイベントについても、勝っていることになるはずだ』と決めつけおられるからと、推察されるところであります。




 ──どうしてそんな根本的な『考え違い』に陥ってしまったかというと、それは何よりも、『リ○ロ型の死に戻り』タイプの作品を創っているすべての作者様たちが、おそらく一人の例外もなく、『ゲーム脳』だからなのです。




 言うなれば、『リ○ロ型の死に戻り』って、ゲームにおける『セーブシステム』そのものでしょう? そして『セーブシステム』は、例えば二回目のバトルで勝利した時点でセーブポイントを施しておけば、それ以降はずっと一回目と二回目のバトルは勝っていることになって、たとえ三回目のバトルに負けようが、また最初の最初からプレイする必要はなく、一回目と二回目のバトルはすでに勝っているという前提のものとで、三回目のバトルからリスタートできるじゃないですか、『リ○ロ型の死に戻り』タイプならではの致命的な問題点て、まさしくこれが原因なんですよ。



○『リ○ロ型の死に戻り』の致命的な問題点の解決策。


 実はこれについても、あっけないほど、至極簡単だったりします。


 何せ、絶対に実現不可能な『世界のやり直し』を、現実に実現したかのように描写しているゆえに、致命的な欠陥が生じたのですから、実際には『世界のやり直し』なぞ起こっていないことにすればいいのです。


 そのためには、どうすればいいのか?


 実際に行ったら駄目だったら、主人公のみが、『世界が何度もやり直されている』という、『妄想』を見ていることにすればいいのです。




 ──そう、実は『リ○ロ』を始めとする、現在Web小説界に腐るほど氾濫している、『死に戻り』作品の主人公たちは、みんな哀れな妄想癖の中二病患者たちだったのです!




 あっ、やめて! 石を投げないで!


 これは単なる言いがかりなんかではなく、ちゃんとユング心理学における、『集合的無意識論』に則って、『死に戻り』というものを、真に理想的かつ現実的に実現させるための方策なのですから。




 実はユング心理学に則れば、現代日本か、剣と魔法のファンタジー異世界かにかかわらず、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくると言われる、『集合的無意識』という全人類共通の精神的領域が存在しているとされているのですが、個々の世界を司る女神という概念の集合体であるゆえに、ありとあらゆる世界を意のままにできる、我が聖レーン転生教団の御本尊であられる『なろうの女神』様であれば、自分自身はもとより他者すらも、集合的無意識にアクセスさせて、その脳みそに直接、どんな世界のどんな時代のどんな存在の『記憶や知識』でもインストールして、あたかも本当にその者自身となりその者の人生を体験したようにさせることができるので、『リ○ロ』タイプの作品の主人公に事前に、『魔王等と闘って力足りずに敗れる、別の可能性の主人公』の『記憶や知識』を、全パターンすべて主人公の脳みそに直接インストールすることによって、主人公はあくまでも一つの世界にいながら一瞬にして、まるでループでもしたかのように、無数の『魔王に敗れる自分』を経験して、その失敗を生かして、本当の魔王との決戦に挑むものだから、辛うじて勝つことを可能にできたといった次第なのですよ。




 ただ単に『記憶と知識』を与えられただけじゃないかと、侮らないでくださいね? 何せ人は感覚器ではなく、最終的には脳みそでこそ、自分を取り巻く世界のすべてを体感しているのですから、このように直接脳みそに刷り込んでしまえば、それは実際に体験した本物の記憶となるのです。


 つまり主人公は、実際に死んでいたのでも、自分一人だけ世界そのものを乗り換えていたのでもなく、女神からもらったチート能力のお陰とはいえ、あくまでも、強敵や困難な問題を打破していたわけなのです。




 ──そう。すべては、主人公自身の、努力と実力の賜物でしかなかったのです。




 とはいえ、あくまでも別の可能性の世界とはいえ、主人公が勝利を得るために、無数の『別の可能性の主人公』が犠牲になっているのは、歴然とした事実なのでした。


 そうなのです、まさしく『死に戻り』よろしく、死に続けている『主人公』は、ちゃんと『別の世界』に存在しているのです。しかも主人公自身、それを強制的に体験させられているのですから、彼自身が死に続けているのも同然と言えましょう。




 ──まさしく、巷にあふれている、『死に戻り』のWeb小説そのままにね。




 ほら、ちゃんと『リ○ロ』自体や、その劣化コピー作品そのままの内容を、何ら矛盾無く再現することができたでしょう?



○終わりに、〜何よりも『ゲーム脳』との決別を〜


 今回御指摘した『リ○ロ型の死に戻り』タイプの作品における致命的欠陥は、何よりもおのおのの作者様が『ゲーム脳』であられたから生じたものであり、けして矛盾のない『死に戻り」作品を実現するためにも、そろそろすべての小説家が、『ゲーム脳』を捨てるべきではないでしょうか?


 はっきり言って、現状のまま放置しておくおつもりなら、『リ○ロ型の死に戻り』タイプの作品は、すべて『アウト』と言っても過言ではありませんよ?


 けして『死に戻り』作品が『欠陥品』と後ろ指を指されないように、すべての小説家が『ゲーム脳』を捨て去る日が一日でも早く訪れることを、心よりお祈りいたしております。

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