第26話、『死に戻り』②ゲームとしての『カミカゼアタック』。

 さて、前回お知らせした通り、いよいよ今回から、異世界系Web小説の代表的モチーフにして、ゲーム脳ヒキオタたちの妄想の極み、『死に戻り』についての各論を語っていきたいかと存じます。


 これが記念すべき第一回目──と言いたいところですが、実はすでに本作第6話において、『死に戻り』の一種である『教会での復活』についての解説を行っておりますので、今回は都合二回目のコーナーということになります。


 それで今回取り扱うのは、具体的に何かと申しますと、『死に戻り』系のイベントの中でも最も鬼畜度の高い、『お遊びゲームとしてのカミカゼアタック』です。


 ……ええと、かなり物騒かつふざけたタイトルですが、詳細につきましては、本作第19話や、これまた同じ作者の作品である『わたくし、悪役令嬢ですの!』第23話及び第24話を、参照していただくとして、極簡単に説明いたししますと、現代日本人であるゲームの『プレイヤー』が、一時的に異性転生をする形で、一時的に異世界人に憑依して身も心も乗っ取って、強制的に航空機等で『カミカゼアタック』をやらせるというもので、死ぬのはあくまでも異世界人であり、現代日本に肉体を温存している『プレイヤー』側はけして死ぬことなく、更に『一時的な異世界転生』をことによって、別の異世界人に憑依し直して、あたかもゲームのコマを使い潰すかのように、『カミカゼアタック』をやり続けることができるところが、外道の極みであり、現代日本の皆様に大人気だったりします。


 いやあ、本当に、異世界転生者の皆様って、外道ですよねえw




 しかし、このゲームの、『仕組み』をお知りになれば、もっとあきれ果てられることでしょう♫




 大体が、まさに前回において、『異世界転生や転移なんて、絶対に実現できない』と述べたばかりなのに、たとえ一時的だろうが異世界転生を行い、異世界人に憑依して思いのままに行動させることなぞ、できるわけがないんですよ。


 当然そこには、『あたかも異世界転生をしたかのように、現代日本側の「プレイヤー」と異世界側の「ゲームのコマ(アバター)」との両方に思い込ませる』ための、『仕掛け』が必要になるわけですが、実はこれって、前々回に述べた、『異世界そのものをゲーステージにする方法』とほとんど同じだったりします。




 以下、この『仕掛け』について、具体的な流れに沿って、詳細かつ丁寧に述べて参りましょう。




○まずは当然、現代日本において、『プレイヤー』を獲得スカウトいたします。


 今回は『お遊びゲームとしてのカミカゼアタック』というのがテーマですので、ネット上とかで軍用機バトルものやフライトシミュレーションもので、馬鹿の一つ覚えみたいに『カミカゼアタック』をやっているプレイヤーに対して、




『……そんなゲームをプレイするだけで、本当に満足なのか?』




『……本物の戦闘機乗りになって、まったく新たなる世界の戦場において、思う存分「カミカゼアタック」をやってみたいとは思わないか?』




 ──などといった、意味深で思わせぶりなメッセージを送る等の、ぶっちゃけいわゆる『ノ○ラ』方式でもって、馬鹿でヒキオタな哀れなるオタクどもを釣り上げるというのが、非常に効果的な手口でございます。



○だからといって、本当に異世界転生や異世界転移を、するわけでは無い。


 これが『ノ○ラ』みたいなライトノベルや、掃いて捨てるほど存在している異世界系Web小説なら、彼らのような現代日本側の『プレイヤー』たちは、パソコンモニターなんかに吸い込まれて異世界転移するか、いきなり謎空間にワープして目の前に現れた『女神』を名乗る頭がさわやかな女性から問答無用で異世界転生させられるところでしょうが、そんなことなぞ、常識的にも物理法則的にも、絶対にあり得ません。


 もちろん後でちゃんとつじつまを合わせるために『記憶を書き換えて』、事実上異世界転生をしたことに仕立て上げますが、一応この段階においては、現代日本のヒキオタのゲーマーたちには、ヒキオタのゲーマーらしく、我が聖レーン転生教団が特別にあつらえた、リアルに再現した実在の異世界を舞台にした、『カミカゼアタックシミュレーションゲーム』をプレイしていただくことで、『お遊びゲームとしてのカミカゼアタック』についての『記憶データ』を蓄積していただきます。



○異世界サイド。


 さて、いよいよ異世界サイドにおける、『ゲームステージとしてのお膳立て』についてですが、ここからは何といっても『カミカゼアタック』という特殊性から、前々回の一般的な『異世界そのもののゲーム化』とは、大きく異なってきます。


 これについてはすでに第19話にて述べておりますが、たとえ剣と魔法の異世界人とはいえ、ただ普通に暮らしていて、自ら進んで『カミカゼアタック』をするような、クレイジーな人は、まずもって皆無でありましょう。


 そこで、元々戦争状態にあって、しかも非常に劣勢な状況下にあるため、国家レベルで『カミカゼアタック』に類することを準備している軍隊を、我が教団の全世界レベルの情報網でキャッチして、非常に効率が良く成功率の高い『特攻』の方法があると売り込んで、藁にもすがりたい状況にある相手の足下を見て、こちらが主導権を握れるように交渉をするといった、いかにも姑息な手段をとります。


 ……このように述べますと、何か教団こそが『悪の黒幕』のように思われる方もおられるでしょうが、けしてそのようなことはございませんので、どうぞ誤解無きよう。


 そもそも、当該『ゲームのコマ』に当たる『特攻隊員』を選別したのも、あくまでもその国の軍部の上層部なのであって、彼らは最初から身内同士で、殺し殺されているだけで、その命のやりとりについては、我々教団は一切関与しておりませんし、あえて言うのなら、特攻機を適正に『死地』に赴かせるための、転生者という『自動操縦装置』を都合してあげただけなのです。


 前回ご紹介した『死に戻り』に関する条文──『転生法』第105条においては、『特攻や自爆テロの絶対禁止』を謳っているだけで、あくまでも『自爆テロまがいの特攻』を実行しているのは、その国の軍部なのであり、別に教団のほうは、それを主導したり裏から仕組んでいるわけでも無く、法的に罰せられるいわれなぞないのです。


 確かに我々教団は、今回のゲーム化のためのお膳立てのように、各異世界において、同じような『特攻活動』をたびたび行って参りましたが、何も我々がゼロから特攻なぞという、馬鹿げた自殺行為を促進するつもりはありません。あくまでも最初から特攻をする意思のある国家等の組織において、最初から特攻隊員として死ぬことが決まっていた方に対して、現代日本からゲーマー等を転生させて、特攻の円滑なる実施を助勢アシストしていくだけの話です。


 何せ我々教団は、『武器商人』なんかとは違うのですから。武器商人が儲けるためには、戦争自体がないと困るので、場合によっては自ら各勢力に働きかけて、戦争を起こすこともあるでしょう。──しかし、我々教団は違います。これまで何度も申し上げて参りましたように、我々聖レーン転生教団の最大の目的は、現代日本からの異世界転生そのものの促進であり、そのためにも、異世界自体を現代日本人にとって、より魅力あるものへとつくり上げていくことこそが必要なのであり、そしてその最も理想的な姿の一つとして、『異世界そのものゲーム化』を挙げることができます。


 これは前回や前々回においても言及しておりましたが、転生者のお手本やバイブルとなっている、現代日本におけるWeb小説のほとんどが、ゲーム脳の作家によって作成されていて、当然作品内の異世界もゲームそのものの世界観で描かれているために、大多数の転生者が、実際の異世界が『ゲーム的』であることを求めております。今回の『異世界転生というシステム』を利用した、『カミカゼアタック』もその一つで、転生者としては、異世界においてWeb小説そのままに、自分自身は何度も『死に戻り』をしながら、異世界人を『ゲームのコマ』そのままに使い潰していけるのですから、Web小説の主人公とゲームのプレイヤーを同時に体験できるので、この上ない満足感を得ることができるわけなのですよ。



○異世界側『特攻隊員』たちの『洗脳』──もとい、『疑似的転生状態』のつくり方。


 それでは、実際に異世界転生や転移をするわけでも無いのに、どうやって現代日本側の『プレイヤー』と、異世界側の実際の『特攻隊員』とを、同期シンクロさせるかと言うと、やはり前々回同様に、本作ではすっかりお馴染みの、『集合的無意識』のご登場と相成るわけでございます。


 集合的無意識においては、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっていますので、当然『現代日本においての「カミカゼアタック」ゲームの中で、「プレイヤー」が「特攻隊員」として行ったすべての言動の「記憶データ」』すらも、すべて存在していることになり、集合的無意識とのアクセス経路チャンネルさえ設けることができれば、それらの『記憶データ』を異世界における実際の『特攻隊員』の脳みそに直接流し込むことによって、『現代日本人という前世の記憶』を持つことになり、擬似的に『現代日本サイドのプレイヤーが転生してきて憑依している』状態となって、自ら進んで『カミカゼアタック』をやるようになりますので、さぞや軍の上層部の方々も大喜びでしょう。しかも出撃ごとに特攻機が必ず『消費』されて、また新しい特攻機を軍部に買ってもらえるので、軍需企業の方々もウハウハです。


 ただし、今回は何といっても扱っているのが『カミカゼアタック』という、人の生き死にに直接関わってくるという、とんでもない代物ですので、前々回の一般的な『異世界そのもののゲーム化』とは、かなり趣を異にしております。


 まず何よりも、たとえ『擬似的転生状態』にあるからと言っても、そもそも特攻隊員自身に、『死ぬ意志』が無い限り、『カミカゼアタック』は成立いたしません。


 何度も何度も申しておりますように、実は異世界転生なんて言ったところで、あくまでも『催眠術』みたいなものに過ぎず、実際に現代日本からゲーマー等の魂が転移してきて、異世界人の身体を乗っ取って、好き放題しているわけではなく、異世界人本人が教団所属の凄腕の召喚術師等によって催眠状態にされたり、あるいは自分自身の思い込みの強さにより、『自分は現代日本からの転生者なんだ』という妄想状態になっているだけなのです。




 ──よって、催眠術等と同様に、自分の生命に関わるような事態に際しては、本人に『別に死んでも構わない』という意思が無い場合は、妄想状態から覚醒するはずなのであり、そうでないのならば、自ら『現代日本からの転生者』として死んでしまうことすら、容認していると見なせるのです。



 ……まあ、だからといって、我々教団の行っていることを正当化するつもりもないんですけどね、せめて特攻隊員の方々の意思をまったく無視して、『偽りの記憶』を刷り込んで、無理やり『カミカゼアタック』をやらせているのではないことだけは、どうぞご理解いただきたく存じます。



○現代日本へのフィードバック。


 さて、これについてはまさしく前々回と同様に、このままでは、あくまでも現代日本サイドにおいては、単にゲームをやっているだけで、異世界転生や転移は行っていないことになってしまいます。


 そこでここにおいても、集合的無意識を利用することと相成ります。


 何度も申しますが、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっていますので、当然異世界サイドにおいて実際の『特攻隊員』たちが行った、すべての言動の『記憶データ』も、一つ残らず存在していることになり、集合的無意識とのアクセス経路チャンネルさえ設けることができれば、それらの『記憶データ』を現代日本サイドの『プレイヤー』たちの脳みそに直接刷り込むことによって、あたかも実際に異世界転生を行って、現地の『特攻隊員』に取り憑いて身も心も乗っ取って、自分の意思で実際に『カミカゼアタック』を行ったかのような『記憶』を持つようになり、本当は現代日本にずっと居続けて、ただ単にゲームをやっていただけだというのに、事実上異世界転生を行った『記憶』を有するようになってしまうわけなのでございます。


 この場合当然のごとく、『現代日本でただ単にゲームを行っていた』記憶のほうは、『実際に異世界転生して現地の人間に取り憑いた』という、記憶に上書きされて、本人としては最初から最後まで、異世界転生をしていたことになってしまいます。




 ……つまり、実のところは『プレイヤー』のほうは、あくまでも現代日本に居続けて、実際には異世界転生も転移もせずに、自分の安全は確保したまま、擬似的な『異世界転生』を何度も繰り返して、憑依する異世界人を何度も乗り換えて操ることで、『カミカゼアタック』をあくまでも『お遊びゲーム』として楽しむ一方で、異世界人のほうは文字通り『ゲームのコマ』として使い潰してしまうといった、まさしく外道の極みな有り様なのであります。

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