第24話、異世界そのものをゲームにする方法。

 それでは、今回は前々回から引き続いて、『転生法』の各条文に則った、『異世界そのものをゲームステージとする』方法について、私こと、ニーベルング帝国の帝都ワーグナーに所在する、聖レーン転生教団帝都教会首席司祭ヘルベルト=バイハンが、懇切丁寧かつ詳細に述べて参りましょう。




 まず何よりも肝要なのは、実際のゲームの実行については、異世界サイドにおける『ゲームのコマ』に当たる異世界人たちによって、ほとんど全部行われることになり、現代日本サイドにおける『プレイヤー』たちは、けして実際に異世界転生なぞを行うことなく、ゲームにおける全過程が終わってから後で、言わば『事後報告』的に、ある特殊な方法で脳みそに直接刷り込まれることによって、あたかも自分が実際に異世界に転生して、まさしくゲームの主人公として大活躍したかのような、『記憶』を有することになるといったところでございます。




 ──では、これより、具体的なゲームの流れについて、述べて参ります。




○まずは当然、現代日本において、『プレイヤー』を獲得スカウトいたします。


 今回は『織田信長という職業に取り憑かれてしまう、哀れなるファンタジー異世界の主人公の、成り上がり物語』系のゲームですので、ネット上で『信長の○望』とかの戦国シュミレーションをチマチマやっている、個人やグループに対して、




『……そんなゲームをプレイするだけで、本当に満足なのか?』




『……本物の「織田信長」になって、まったく新たなる世界において、成り上がりたいとは思わないか?』




 ──などといった、意味深で思わせぶりなメッセージを送る等の、ぶっちゃけいわゆる『ノ○ラ』方式でもって、馬鹿でヒキニートな哀れなるオタクどもを釣り上げるというのが、一般的な手口でございます。



○だからといって、本当に異世界転生や異世界転移を、するわけでは無い。


 これが『ノ○ラ』みたいなライトノベルや、掃いて捨てるほど存在している異世界系Web小説なら、彼らのような現代日本側の『プレイヤー』たちは、パソコンモニターなんかに吸い込まれて異世界転移するか、いきなり謎空間にワープして目の前に現れた『女神』を名乗る頭がさわやかな女性から問答無用で異世界転生させられるところでしょうが、そんなことなぞ、常識的にも物理法則的にも、絶対にあり得ません。


 もちろん後でちゃんとつじつまを合わせるために『記憶を書き換えて』、事実上異世界転生をしたことに仕立て上げますが、一応この段階においては、現代日本のヒキニートのゲーマーたちには、ヒキニートのゲーマーらしく、我が聖レーン転生教団が特別にあつらえた、量子魔導クォンタムマジック版『信長の○望』をプレイしていただくことで、現代日本サイドのリーダー格の方には『織田信長』として、ゲームの中のアバターである『主人公』キャラ──すなわち、異世界サイドにおけるリーダー格の人物の脳内において、『織田信長の霊的存在』としていろいろとアドバイスを与えることによって、適切に誘導していくことで、『立身出世』を成し遂げさせて参ります。


 また、本作『転生法』においては言及しませんでしたが、別サイトで公開しております『なろうの女神が支配する』のように、現代日本サイドにおけるリーダー格以外のゲーマーたちが、『柴田勝家』や『羽柴秀吉』等の信長の家臣の霊的存在を騙って、異世界において『主人公』の腹心の部下たちの身も心も乗っ取って、完全に意のままに操っていくといった、『操作パターン』もございます。



○異世界サイド。


 さて、ここからは、いよいよ異世界サイドにおける、『お膳立て』についてです。


 もちろんターゲットにするのは、いかにも『織田信長という職業』を引き継ぐのにふさわしい、小国の王家の生まれだけど血筋的に王位継承権が無きに等しく、余計なことをして暗殺などされないように『うつけ』のフリをしながらも、現在の王国の腐敗や荒廃ぶりを密かに憂いている──といったふうな人物こそが、望ましいでしょう。


 そんな『主人公予備軍』が、己の至らなさに悩んでいた時に、いきなり頭の中において、


『──力が、欲しいか?』


『──だったら、我の意志を引き継ぐのだ』


『──そう、「第六天の魔王」たる、「織田信長」という名の、「職業」をな』


 などという、もう何億回も使い古された陳腐な台詞を弄することよって釣り上げて、それ以降は異世界サイドの『主人公』として、うまく誘導して成り上がらせていくわけです。



○異世界側主人公の『洗脳』──もとい、『脳内アドバイス』のやり方。


 それでは、実際に異世界転生や転移をするわけでも無いのに、どうやって現代日本の『プレイヤー』と異世界の『主人公』とを同期シンクロさせるかというと、




 ──いよいよここで、本作ではすっかりお馴染みの、『集合的無意識』のご登場と相成るわけでございます。




 集合的無意識においては、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっていますので、当然『現代日本のゲームの中で、リーダー格の人物がアバターキャラの脳内でささやいた言葉』すらも、すべて存在していることになり、集合的無意識とのアクセス経路チャンネルさえ設けることができれば、それらの言葉を異世界における『主人公』の脳みそに直接流し込むことによって、『脳内に「織田信長」という霊的存在のアドバイスが聞こえるようになる』状態に仕立て上げられるのです。


 そのための前提条件としては、現代日本サイドでプレイされるゲームをあらかじめ、異世界サイドの『主人公』が置かれている状況に基づいて作成しておく必要があります。


 また、そもそも集合的無意識なんかとアクセスすること自体が、非常に非現実的のように思えますが、本作において前述の通り、集合的無意識とは、天才的発明家や歴史的英雄たちのみに許された『閃き』のようなものに過ぎず、ちゃんと本人が人並みならぬ努力に次ぐ努力を重ねていけば、最後の最後に『奇跡的な閃き』として、集合的無意識とのアクセスを実現することができて、実際の歴史上において、数々の発明や偉業を達成してきたのであって、今回で言えば、異世界サイドの『主人公』が心の底から、自国の惨状に憂えて、どうにかして立て直そうと願い、自らもそのために不断の努力を重ねていながらも、どうしても力及ばず、心底思い悩んでいる際に、先程も述べたように、『……力が欲しいか?』などといった形で、集合的無意識とのアクセス経路チャンネルが開かれて、現代日本サイドの『プレイヤー』の声が、適宜脳内に聞こえてくるようになるといった次第であります。


 なお、『なろうの女神が支配する』における彼の部下たちのほうは、より強力に集合的無意識との常時型のアクセス経路チャンネルが開かれることになって、完全に『現代日本のゲームプレイヤーたちの記憶や知識』に支配されて、身も心も『柴田勝家』や『羽柴秀吉』そのものとなって行動していくことになります。



○現代日本へのフィードバック。


 さてこのままでは、あくまでも現代日本サイドにおいては、単にゲームをやっているだけで、異世界転生や転移は行っていないことになってしまいます。


 そこでここにおいても、集合的無意識を利用することと相成ります。


 何度も申しますが、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになっていますので、当然異世界サイドにおいて『主人公』的人物やその腹心の部下たちが行った、すべての言動の『記憶データ』も、一つ残らず存在していることになり、ここでも集合的無意識とのアクセス経路チャンネルさえ設けることができれば、それらの『記憶データ』を現代日本サイドの『プレイヤー』たちの脳みそに直接刷り込むことによって、あたかも実際に異世界転生を行って、『主人公』の脳内に語りかけたり、彼の部下の身も心も乗っ取って行動したりした、『記憶』を持つようになり、本当は現代日本にずっと居続けて、ただ単にゲームをやっていただけだというのに、事実上異世界転生を行った『記憶』を有するようになってしまうわけなのでございます。


 この場合当然のごとく、『現代日本でただ単にゲームを行っていた』記憶のほうは、『実際に異世界転生して現地の人間に取り憑いた』という、記憶に上書きされて、本人としては最初から最後まで、異世界転生をしていたことになってしまいます。


 もちろんこれには、現代日本サイドにおけるゲームの進行具合と、異世界サイドにおける実際の事態の推移との、細々とした『差異ズレ』をすりあわせる意味もございます。


 ……いやあ、『洗脳』って、本当に怖いですねえw


 は? 「おまえが言うな」ですって?


 いやいや、どうか、お間違いなく! 今回の件に関しては、我々教団が、すべてを仕組んだ──と、いうわけのです!


 我々のような単なる異世界人の集団である、聖レーン転生教団の者が、自分の世界ならともかく、現代日本に存在しているゲーマーたちを、集合的無意識に強制的にアクセスさせることなんて、できるはずがないではありませんか?


 そこには何らかの、『超常的力』が働いているものと、考えるべきでしょう。


 ──そんなことができる存在とは、一体何者なのか?


 そう、まさしく今回で言えば、あらゆる世界のあらゆる異世界転生を司るとされている、我が聖レーン転生教団の御本尊、『なろうの女神』様その人であられたのです。


 ……結局は、我ら教団の者すらも含めて、すべては『なろうの女神』様の、手のひらの上だったのかも知れませんね。

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