第23話、【必見!】異世界における時間の流れ方【究極のガイドライン決定!】

転生探偵「──というわけでして、何と今回は、Web小説界最大の未解決問題、『異世界における時間の流れ方はどうあるべきか?』について、本作『転生法』において、誰もが納得できる【ガイドライン】を提示いたしますので、作者・読者・編集者・評論家・その他──を問わず、Web小説関係者の方すべてにとって、必見のエピソードとなっておりますから、どなた様もどうぞご遠慮なくご笑覧なさってください♡」




諍い屋のぶ「……ええと、ヘルベルト=バイハン司祭さん?」




転生探偵「──ああ、申し訳ない、ここではわたくしのことは、どうぞ『転生探偵』とお呼びください。わたくしもあなた様のことは、『諍い屋のぶ』さんとお呼びいたしますので」


諍い屋のぶ「『ここ』って、どこだよ⁉ そして、『諍い屋のぶ』って、何だよ!」


転生探偵「おそらくは、某不法営業の異世界系ゲリラ居酒屋作品のタイトルにかけているんでしょうが、諍い屋──つまりは、『いくさ屋』の信長のぶとは、まさに言い得て妙ですね♡ あと、ここは、前回同様、ニーベルング帝国の帝都ワーグナーに所在する、聖レーン転生教団帝都教会の告解室でもいいし、あるいはどこかの電脳空間でも、別に構わないかと存じますけど?」


諍い屋のぶ「ここがどこだか構うし、別に全然言い得てないよ!」


転生探偵「でも、今回扱うテーマにとっては、語る場所にしろあなた様の便宜上の呼び名にしろ、別に影響を及ぼすことは無いはずなのですが?」


諍い屋のぶ「その、俺に関係ないテーマとやらを語っていくのに、何で俺がつき合ってやらなければならないんだよ⁉」


転生探偵「まあまあ、次回は完全にアレク=サンダース様に関係するテーマを扱う予定ですので、その流れ上、今回もお付き合いしていただこうという仕儀なのですよ」


諍い屋のぶ「……確かに俺が、今回登場していないのに、前回と次回に登場したら、流れ的におかしいとは思うけど、だったら、今回と次回の順番を逆にすればいいだけの話じゃないのか?」


転生探偵「う〜ん、おっしゃる通りなんですけどねえ、そこは、『作者のノリ』次第ですので、いかんともしがたいのですよ」


諍い屋のぶ「──ぶっちゃけたな、おい⁉」


転生探偵「元々作者自身も、ちゃんと流れを考慮して、次回予定のエピソードこそを、前回のエピソードに引き続いて公開する予定だったのですが、不意に今回のエピソードを思いついてしまい、『書きたい時が書くべき時』とばかりに、差し替えることになったわけです」


諍い屋のぶ「……まあ確かに、そういった『ノリ』も、創作行為を持続していくには、必要なことなんだろうけど」


転生探偵「それに、今回取り上げるテーマこそ、冒頭に申しましたように、Web小説界最大の未解決問題とも言い得る、『異世界における時間の流れ方はどうあるべきか?』について、誰もが納得できる【ガイドライン】を提示せんとする、作者・読者・編集者・評論家・その他──を問わず、Web小説関係者の方すべてにとって、必見のエピソードとなっておりますので、是非ともここら辺で極簡単にでも、ご紹介しておこうと思いましてね」


諍い屋のぶ「『異世界における時間の流れ方はどうあるべきか?』ってのは、いわゆる『現代日本と異世界との、時間の流れ方の違い』のことか?」


転生探偵「ええ、異世界で一ヶ月もたったのに、現代日本では一日しか過ぎてなかったり、異世界人の成長速度が、現代日本人の10倍も遅かったりするやつですよ」


諍い屋のぶ「……ああ、いわゆるWeb作家ごとの、『マイルール』ってやつか」


転生探偵「そうなんですよ、それこそが問題なのです!」


諍い屋のぶ「問題って、どんなふうに?」


転生探偵「そういう、作者が好き勝手というかいい加減というかで決めつけた、『マイルール』であるほど、連載を重ねるにつれて、どんどんとつじつまが合わなくなっていくのですよ」


諍い屋のぶ「……」


転生探偵「いえ、本当なんですよ? さっき例に取り上げた、『異世界では一ヶ月もたっているのに、現代日本では一日しか過ぎてなかった』という設定の、超人気作品なんか、最新エピソードにおいては、ついに──」


諍い屋のぶ「ノーコメント!」


転生探偵「あはは、そうですね、特定の作品をやり玉に挙げたりすると、何かと角が立ちますので、このくらいにしておきますか」


諍い屋のぶ「それで、そんないろいろと問題のある、各作者ごとの『マイルール』に対して、今回のこのエピソードにおいては、『異世界における時間の流れ方はどうあるべきか?』について、【ガイドライン】──つまりは、統一的指針を提示するわけなんだな?」


転生探偵「【ガイドライン】を、ですよ?」


諍い屋のぶ「……やけに自信たっぷりだな、本当にそんなことが可能なのか?」


転生探偵「だって、至極簡単なことに過ぎないのですから」


諍い屋のぶ「簡単、だと?」




転生探偵「現代日本と異世界とがお互いに、現在過去未来を問わず、いかなる『時点』にでも、自由に行き来できるようにすればいいのですよ。そうすれば各作家さんが、こざかしい『マイルール』なぞでっち上げる必要なぞ、まったく無くなりますからね」




諍い屋のぶ「なっ、いかなる時点にも、自由に行き来できるだと? いや、そんな御都合主義的な『何でもアリ』なやり方のほうこそ、よほど現実的に実行不可能なのではないのか⁉」


転生探偵「別に『御都合主義』でも『何でもアリ』でもありませんよ。まさにこれぞ現代日本で言うところの、現代物理学の根本原理たる『量子論』に則った、文字通り論理的かつ現実的な手法なのですからね」


諍い屋のぶ「量子論って……」


転生探偵「実は世界と言うものは、歴史書や歴史小説や歴史映画のように、連続したひとつらなりの物語ストーリー的存在なんかではなく、一瞬一瞬の独立した『時点』のみの存在なのであり、時点としての世界が連なって初めて、我々が普通に認識できる『歴史ストーリー』を紡ぐことができるのです」


諍い屋のぶ「え、あ、あの?」


転生探偵「しかもこれって、何と物理学の発展史において、論理的に裏付けされていたりするのであって、最近でもおバカなミステリィ作家がよせもいいのにSF小説に手を出して、『ラプラスの悪魔だったら、物理計算で未来を完全に予測できるから、どんな難事件でも解決できるぜ! 俺様のヒロイン、サイコー♡』とか、もはや時代遅れの考え方でしかない、『世界とは連続した一本道の時間の連なりであるので、物理的計算によって完璧なる未来予測を実現できる』とする、古典物理学に囚われたたわ言をほざいていましたが、これは大きな大間違いに過ぎず、それに対して現代物理学の中核をなす量子論においては、『我々人類すらも含むすべての物質の最小単位である量子のほんの一瞬後の動きすら予測することはできないのだから、この現実世界そのものの未来にも無限の可能性があり得ることになり、たとえSF小説お得意の、人類の叡知の結晶たる量子コンピュータを開発できようが、未来を完璧に予測することは絶対に不可能なのである』としているのです」




諍い屋のぶ「──いやもう、あんたが何を言っているのか、全然わからないよ! その難解な理論と、『実は世界と言うものは、一瞬一瞬の「時点」のみの存在に過ぎない』というが、一体どういった関係があるって言うんだよ⁉」




転生探偵「ああ、これは失礼、つい余計なことまでしゃべってしまいました。──つまりですねえ、一言で申しますと、実は世界と言うものは、小説や漫画やアニメや映画なんかよりも、むしろ『ギャルゲ』のようなものとして、捉えるべきだということなんですよ」




諍い屋のぶ「……へ、ギャルゲ、って」


転生探偵「なぜなら何と、小説や漫画よりも、ギャルゲのほうが、よほど現実的であるからです。──このように申しますと、『おまえらオタク』たちでも、受け容れやすいでしょう?」


諍い屋のぶ「……うん、確かに、頭ごなしにWeb小説やラノベを全否定されると頭にくるけど、『みんな大好き♡ギャルゲ』との比較論であれば、一応は聞く耳を持つのもやぶさかではないが、──それはともかくとして、『おまえらオタク』とか言うな!」


転生探偵「おお、失敬失敬、つい口が滑りました。つまりですねえ、最初からストーリーや結末が決まり切っている、時代遅れのミステリィ小説や異世界転生系のWeb小説が、世界と言うものを一本道の時間の連なりとしてしか捉えることのできなかった、時代遅れの古典物理学そのものであるのに対して、プレイヤーが選択肢によって攻略ヒロインやその後の展開を選べて、必然的に結末においてもマルティエンディングとなるギャルゲのほうが、未来には無限の可能性があり得るとする量子論に基づいて存在している、この我々の現実世界を、より忠実に体現していると言えるのですよ」


諍い屋のぶ「……あー、確かに。ミステリィ小説なんかだと、当然のごとく作者によって、真相や真犯人も、そこに至るストーリーすらも、最初からすべて決定されているけど、現実世界においては、けしてそんなことはなく、それに対してギャルゲのほうは、選択肢による『ルート分岐』によって、プレーヤーが未来を選ぶことができ、当然それから先のシナリオ展開も予測不可能に変わってくるから、小説なんかよりもよほど現実的であるというわけだよな」




転生探偵「ええ、ええ、実はその『ルート分岐』こそが、すべての焦点ポイントでして、まさに現実世界と言うものは、世界が簡略化されているギャルゲとは比べものならないほどの、無数の選択肢が存在していて、当然無数のルート分岐があり得るわけですが、これらのルート分岐をいわゆる『パラレルワールド』的に捉え直すと、『未来の無限の可能性』とは無数の『平行世界』のようなものとして具象化することができて、そして当然ルート分岐先のルートも更に分岐していくことから、未来と言うものは永久に無数に分岐していく平行世界の集まりとも見なせて、このルート分岐する間隔を限りなくゼロに近づけると、世界と言うものは『一瞬一瞬の独立した時点』ということになるのですよ」




諍い屋のぶ「──‼」




転生探偵「どうです、ご理解していただきましたか?」




諍い屋のぶ「た、確かに、現実世界がギャルゲのようなものだったら、その選択肢は無限にあり得るし、しかもそれこそ一瞬一瞬ごとに『人生の選択』を迫られることもあろうし、その選択によるルート分岐ごとに異なる未来セカイを歩んでいくことになるとしたら、世界と言うものが一瞬一瞬の独立した『時点』そのものの存在でないと、おかしくなるよな」




転生探偵「そうなんですよ、そして例えば、あなたの目の前に突然女神様が現れて、『これより異世界転生をしますか、しませんか?』という選択肢を突き付けられた際に、『します』を選んだ場合に行われるルート分岐こそが、まさしく『異世界転生』ということになるのですよ」




諍い屋のぶ「おおっ、すごい! この『世界とは一瞬のみの独立した「時点」でしかない』論に則れば、異世界転生すらも論理付けることができるのか⁉」




転生探偵「そりゃ、そうですよ、何せ異世界だって、『世界』なんですからね。──よって当然、これまでの既存のWeb小説に登場してきたすべての異世界も、『一瞬のみの時点』に過ぎず、それぞれはあくまでも独立した対等な世界同士ですから、客観的には『現在過去未来』の関係にあるようであっても、実はそこには時間の前後関係なぞ存在せず、もし現代日本と異世界との間で行き来できるとしたら、お互いにすべての時点に行き来できることになるのです。




 ──良かったですねえ、すべてのWeb小説家の皆さん。




 これで『異世界における時間の流れ』について、いちいちこざかしい『マイルール』なんかを作る必要はなくなりましたよ?




 さあ、あなたもこの、『世界とは一瞬のみの独立した「時点」に過ぎない』論を受け容れましょう。




 そうすれば、『異世界における時間の流れ』についてはもう二度と、『調子に乗って「マイルール」なんか作っていたら、作品を長期にわたって続けているうちに、いろいろと矛盾点ができてしまった』なんてことがなくなり、より理想的な作品づくりができますよ?」

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