第15話、蜘蛛やスライムやドラゴンの卵。

 全異世界的宗教組織『聖レーン転生教団』総本山、聖都『ユニセクス』、教皇庁地下最深部『アハトアハト最終計画研究所』。


 専属研究員の他、一握りの上層部の者以外には、その存在すら秘匿された、教団における極秘中の極秘の研究機関。




 まさしく現在ここでは、『人が神へと至る方法ミチ』を、本気で模索していた。




 ──大きな檻の中で、狂ったように暴れ回っている、巨大な蜘蛛。


 ──からずっと、ただただ高速でぷるぷると震え続けるばかりの、人間ほどの大きさをしたスライム。


 ──文字通りただの屍であるかのように、バラバラに散らばっている、もはや何の生気もないスケルトン。


 ──無造作に台座に突き刺さっている、一振りのつるぎ


 ──研究員たちが真剣な表情で調査し続けている、一見何の変哲もないように思われる、極ありふれた自動販売機。


 ──そして、二階建ての民家ほどの大きさを誇る培養槽の中で、不気味な脈動をし続けている、なにがしかのモンスターの物と思われる、巨大な卵。


 まさしく『混沌カオス』を体現するかのような有り様であったが、これらは彼らにとっての神の国である『ゲンダイニッポン』における、『成功例』を模倣したであったのだ。


「……蜘蛛とスライムは、完全に失敗だな」


「やはり、人間とはまったく異なる生物に転生させるなんて、無理がありすぎたんだ」


「しかし『ゲンダイニッポン』における『聖典』では、大成功を収めたらしいぞ」


「それは大勢の、『信者どくしゃ』を生み出したそうだ」


「『めでぃあみっくす』展開でも、『エンバン』が飛ぶように売れたらしいしな」


「特にこのスケルトンのやつなんか、神の国ゲンダイニッポンの『なろう教』の現聖典においては、トップクラスの信仰を集めているそうだ」


「……しかしここで召喚した『ゲンダイニッポン人』の若者なんて、『──おいおい、せっかく異世界転生したのに、スケルトンはないだろう? いくらハーレムつくっても、意味ないじゃないか! 何? 「魔物たちのオーバーロード」にしてくれるって? 俺はエルフ娘や獣人(ネコミミ限定)娘が好みなの!』とか何とか言い出して、ごねにごねて大暴れするものだから、仕方なく『ゲンダイニッポン』にお帰りいただいたではないか?」


「聖剣や自動販売機への転生術式も、実行以来全然反応がないし」


「……いや、蜘蛛やスライムやスケルトンならまだわかるが、何で教団の上層部は、無機物に『転生者』を召喚しようなんてしたわけ?」


「『ゲンダイニッポン』で言うところの、『人工知能』の代わりにしようとでも思ったんじゃないのか?」


「聖剣に、索敵サーチ&警告アラート機能や自動防御オートブロック機能をつけたりとか?」


「いやいや、そういうことは、それこそ『ゲンダイニッポン』の科学技術を利用すべきでは?」


「何を馬鹿なことを! 科学でも何でも、『転生者召喚』で代用してこその、我々転生教団ではないか⁉」


「そうだ! 教団秘蔵の『創世記』の冒頭に記された、『初めに転生ありき』という、『なろうの女神』様のお言葉こそがすべてなのだ!」


「「「すべては、『なろうの女神』の、思し召しのままに!」」」


「……となると、我が教団の期待を一身に担っているのが、今や『これ』だけになったわけだな」


「ああ、これまでの失敗を踏まえて、すでに成長過程にあるこの世界の生物に、『ゲンダイニッポン』からの転生者を召喚するのではなく、まさに『卵状態のドラゴン』に召喚して、それぞれ異なった『魂』と『肉体』との完全融合をはかるってわけだ」


「例の『最終計画』の発動も、これの成功かんにかかっているしな」


「今度こそ、失敗は許されんぞ」


「………………おい」


「うん、どうした?」


「今こいつ、笑ったように見えなかったか?」


「はは、何を馬鹿なことを、いくらドラゴンでも、卵が笑うわけがないだろうが?」


「それこそ『ゲンダイニッポン』の、古き名作『あにめ』の見すぎじゃないのか?」


「……そうか、疲れているのかもな、俺。このところずっと、徹夜で研究続きだったし。久方ぶりに休暇でも取るかな」


「たわけもの! むしろ今こそ、正念場ではないか⁉」


「左様、我々の研究の成否こそに、これからの教団全体の浮沈がかかっているのだぞ⁉」


「貴様は我らが崇拝する、『なろうの女神』様の哀しまれるお顔を、見たいとでも言うのか⁉」


「ま、まさか、『なろうの女神』は、俺個人にとっても、心のアイドルであり、いつも変わらぬ笑顔でいていただきたく存じます!」


「そうだ! こんな馬鹿馬鹿しい、『ゲンダイニッポン』の各人気『聖典ショウセツ』の猿真似モドきなことを、このような地下の最深部の秘密研究所(w)で、阿呆みたいに真面目くさって実験したり論じ合ったりしているのも、何よりも『なろうの女神』たんのためなのだ!」




「「「すべては、我らが『なろうの女神』たんの、笑顔のために!!!」」」




「……それにさっきも誰かが言っていたが、何と言ってもこれらの『実験』の成否は、下手すれば『最終計画』の遂行にも響いてくるからな」


「うむ、確かにな」




「──とにかく今は、何より大事な時、急いては事をし損じるぞ。このファンタジーワールドである異世界ならではの魔法技術と、転生者たちからもたらされた『ゲンダイニッポン』の最新の科学技術とが、最も理想的な形で融合してこそ、我ら人類が神へと至る扉が開かれ、真に全知全能を体現した、人呼んで『シン・ジンルイ』の誕生を導き出せるのだ! すべての異世界の全人類を『ゲンダイニッポン』からの転生者と融合させる、最終計画『プロジェクトH』の実現の日は近いぞ!」

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