第12話、とにかく歴史上の有名人は、みんな美少女。

「──というわけで、あなたたちのように、現代日本人の皆様の認識では、歴史的偉人に該当される方々は、全員もれなく、『美少女』になっていただきます」




「「「何でだよ⁉」」」




 どうも、毎度お馴染み、某異世界の転生局転生法整備課勤務の、平課員です。


 今回は非常に簡単な仕事だと思い、意気揚々と転生局内の大会議場にやって来たのですが、集まりいただいた、現代日本の皆様がよくご存じの、歴史上有名な方々を前にして、今回の趣旨を簡単に一言でお伝えしたところ、いきなり総ツッコミを食らってしまったのであった。


 ……おかしいな、今回の件は『転生法』を引き合いに出すまでも無く、極一般常識だと思ったんだけど。


「──そんな一般常識があるか⁉」

「おや、ソクラテス子ちゃん、勝手に人の心の中を読んでは駄目ですよ?」

「誰が、読むか⁉ 貴殿が自ら無意識に、口走っていただけだ! それよりも、人の名前の最後に、『子』なんてつけるんじゃない! 気色悪い!」

「……あれ? お気づきでは無かったのですか? ご自分のお姿を、ようくご確認なさってくださいよ」

「へ?…………………………………………って、な、何じゃ、こりゃあ⁉」

 何といつの間にか、一五,六歳くらいの華奢な美少女の姿となり、現代日本のラノベあたりに出て来そうな、どこかの高校の制服らしきものをまとっていた、『ソクラテス子』ちゃん。


 しかも何もそれは、『彼女』一人だけでは無かったのだ。


「お、おい、ナポレオン、貴様、何という格好をしているんだ⁉」

「アレクサンダー大王、あなたこそ!」

「……へえ、エジソンて美少女化したら、白衣に眼鏡の『博士ちゃん』系なのか」

「人のことを言っている場合か、モーツァルト⁉」

「す、スターリン、同志?(ポッ)」

「ま、マオ、同志?(ポッ)」

「──そこ、変に紅い百合の花を咲かさない!」

「聖徳太子が、美少女に………って、うまやどのおうは、昔から美少女顔だったっけ」

「び、ビートルズが、ガールズバンドに⁉」

「あ、それは、イケてるんじゃ?」

「──おい、それって、うちら(スト○ンズ)が、イケてないてことかよ⁉」

「よ、ヨシュア?」

「し、シッダールタ?」

「すごい、立川の某二人組が、『聖お姉さん』に⁉」


 自分たちの姿が、コケティッシュに大変貌を遂げていることで、混沌の極みに達する、歴史的偉人たち。


 それを一人蚊帳の外から、ほくそ笑みにながら見守る私。


 ……くくく。


 愚かどもめが。


 今日日、おまえらのような歴史的人物は、異世界に足を踏み入れた途端、自動的に『美少女』に変換されるようになっているのだ。


 それも知らずに、のこのこと、こちらの召喚術まねきに応じて、異世界にやって来おって。


 ──無駄だ無駄だ。


 いつまでも、ぐだぐだ悪あがきなぞせずに、とっとと、覚悟を決めて、


 現代日本から来られる転生者の皆様のために、大人しくハーレムメンバーを演じるがいい!




「──あら、そう? 私をハーレムメンバーにできるという日本人ヤパーナがいるのなら、いくらでもヒロイン演じてあげるけど?」




 大混乱の大会議場を制するように響き渡る、凜とした声音。

 まるで時が止まったかのように、一斉に静まり返ってしまった人々を掻き分けて、私のいる議長席のほうへと歩み出てくる、一つの人影。


『彼女』は、別段背が高いわけでもなく、どちらかと言うと、小柄なほうだった。


 しかしその威圧感ときたら、まるで巨大な神殿の中で、神の偶像を前にしているかのようだった。


 長い黒髪に、彫りの深い端整な小顔と、その中で煌めいている、サファイアのごとき青の瞳。


 他の偉人たちと同じ意匠の女学生の制服に包み込まれている、華奢なる白磁の肢体。


 一つ一つを見てみれば、極ありふれたものでしかなった。


 しかし、『彼女』という、一つの形を取ることによって、絶対的な存在感をかもし出していたのだ。


 これぞ、真の『カリスマ』というものか?


『彼女』を前にすれば、私自身はもちろん、他の偉人たちまでもが、思わず膝を屈してひれ伏したくなる願望と、闘わざるを得なかった。


 ──生まれながらにして、人の上に立つことが定められた、人間。


 そんな非現実的な存在が、本当にいることを、私は今日初めて、思い知らされたのである。


「あ、あなたは、いったい……」


 ようやくの思いで、私の唇から漏れいずる、カラカラに乾いた声音。


 そこで初めて、私の存在に気づいたかのように、まるで路傍の石ころを見るような瞳を向けてくる、謎のカリスマ美少女。




…………いや、この姿だから、『アーデルハイド』あたりが、ふさわしいかな? そう、アーデルハイドだ、我が名は、アーデルハイド=だよ」




 ……何……だっ……てえ……。


 ──くっ、そりゃあ、カリスマも、あるってもんだよ。


 間違いなく、あちらの世界の20世紀における、最強の扇動家にして、最凶の独裁者ではないか⁉


 ……え? ──おいおいおいおい⁉ ちょっと待ってくれよ!


 いつの間にか、他の偉人たちまでもが、『彼女』のことを、陶酔しきった目つき崇め奉っているじゃないか⁉


 特にスターリン、あんたは『彼女』とは、不倶戴天の敵同士だろうが⁉


「それで、小役人、私はいつ、日本人ヤパーナの転生者の、ハーレム要員を、演じればいいのかね?」


 私に向かって、皮肉たっぷりに問いかける、アーデルハイド──いわゆる『ハイジ』ちゃん。


 ──演じさせて堪るかよ⁉


 下手すると、国際的に大問題になるぞ⁉


 これまで、ラノベ等の一般出版物も、Web小説においても、いくらTS歴史改変ものを得意にする連中でも、『このお方』を主人公やメインヒロインにするのは、頑として避けてきたからな。




「──解散! 解散! 本日の会合は、深刻なアクシデントが発生しましたので、これにてお開きとします! 皆さん、とっととTS化を解いて、お帰りください!」




 パソコンでも現実でも、あれこれこんがらがって、にっちもさっちもいかなくなったら、とりあえず『強制終了』だ!


 口々にぶつくさ言いながらも、『美少女化』がいったん棚上げされたこともあり、大人しく会議場を出て行く偉人たち。




 その際、自称『アーデルハイド=ヒトラー』なる美少女が、私とすれ違いざま、こう言ったのであった。




「あまり、私たち歴史的偉人を、甘く見るなよ? ──現代日本の、TS歴史改変系のゲーム脳作家連中に言っておけ、これ以上私たちを愚弄するつもりなら、ただではおかんとな」

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