第9話、そもそも異世界転生とは、何なのか?(&異世界におけるミステリィの在り方)

「──どうも、毎度お馴染みの、某異世界の転生局転生法整備課勤務の、平課員です。今回は皆さんご注目の、剣と魔法のファンタジーワールドにおいて、果たして現代日本のミステリィ小説のような事件は成立し得るのか、そして成立する場合においては、どのようなルールを適用すべきなのか──等々について、考察しようかと思います」


「……う〜ん、噂には聞いてましたが、『こっち』って本当に、出だしから何だかメタっぽいんですねえ」


「作品そのものの方向性から、少々メタっぽくなってしまうのも、仕方ないんですよ。それに今回扱う内容は、是非とも、異世界ファンの方はもちろん、ミステリィファンの方にもお読みいただきたいので、できるだけアピールしませんとね!」


「まあ確かに、最近ファンタジー的異世界において、ミステリィ小説的事件を扱った作品が、注目を集めてはいますよね」


「『カクヨム』様のサイトにおいては、これにSF小説的テイストを加えるという、あまりにもニッチな作品だけで、自主企画が成立している有り様ですしね♡ 『異世界×ミステリィ×SF』と言えば、まさにこの作品やの『神髄』そのものですので、黙っちゃおられないわけなんですよ!」


「はあ、ご主旨は一応理解いたしました。私で良ければ、及ばずながら、協力させていただきますよ」


「──というわけで、何と今回は創作サイトの枠組みを越えて、『小説家になろう』様で公開中の『なろうの女神が支配する』から、名探偵ばりに『異世界転生』に関わる、難解かつ摩訶不思議な事件を解決しておられる、『転生探偵』あるいは『探偵神父』との呼び声も高い、ニーベルング帝国の帝都ワーグナーに所在する、聖レーン転生教団帝都教会の首席司祭であられる、ヘルベルト=バイハンさんをスペシャルゲストとしてお招きして、解説役を担っていただこうと存じます!」


「……いや、私はあくまでも聖職者であって、探偵業なぞ営んでいないのですが?」


「それでもすでに、異世界における代表的トピックである、『死に戻り』と『現代日本からの転生者による犯罪』にまつわる事件を、見事解決なされているではなりませんか?」


「それはただ単に、異世界転生を専門とする転生教団の司祭として、異世界転生にまつわることでお悩みの方たちから相談を受けて、適切なアドバイスを行っただけで、探偵などと言う、世俗のお仕事とは一緒にしないでください。それにそもそも『死に戻り』のほうについては、事件でも何でも無かったでしょうが?」


「いえいえ、異世界転生を専門にされておられるからこそ、こちらといたしましても、大変参考にさせていただけるのです。もちろんおわかりになる範囲で構いませんから、転生にまつわるミステリィ事件について、いろいろと伺わせていただけませんでしょうか?」


「そういうことでしたら、まあ、構いませんけど……」


「ということで、司祭様からも快諾をいただきましたので、早速解説コーナーを開始いたしましょう!」


「別に快諾なんてしていませんよ! ……それで、どういったことをお聞きになりたいんですか? やはり、『魔法』とか『奇跡』などが普通に起こり得る異世界における、特殊な事件と、それに対する特殊な解決方法──といったところでしょうか?」




「え? いや、対象とするのは普通に、魔法なんかのズルは無しの、本格ミステリィ的事件のみで、それをあくまでも現実的思考と手段とだけで解明していくといった方向で、よろしくお願いいたします」




「──何でだよ⁉ せっかく魔法とかが使えるんだから、犯人側も探偵側も、ちゃんと使えよ⁉」


「いや、人殺しとか盗みとかの犯罪行為に、魔法なんか使ってこられたんじゃ、推理も何も無いじゃないですか? こっちも魔法で対応するのみですよ。つまり、わざわざミステリィ小説的展開なぞに持ち込む必要は無くて、普通にいつものように異世界ならではの、『異能バトル』をすればいいだけの話なんです」


「だったら最初から、異世界でミステリィ的イベントを行う意味も必要性もありゃしないではありませんか⁉」


「そんなことはありません、まさしくすべては『転生法』における最優先目標である、『転生者にとって大満足の環境作り』に即して、考慮すればいいのです。つまり、現代日本からの転生者の方が、異世界において『名探偵』として怪事件を解決したいとおっしゃるのなら、我々異世界人は四の五の言わずに、全面的に協力するのみなのです」


「……ほんと、『転生法』って、何よりもまず、『転生者ありき』なんですねえ」


「当然じゃないですか、他ならぬ転生教団の司祭様が、何をおっしゃっているんですか? 『魔法による不可能犯罪の実現』とか、『魔法で不可能犯罪を解決』とかなんて、興ざめするだけですよ。異世界であえて現実性リアリティ重視の本格ミステリィ的事件を、何の超常の力を持っていない主人公が鮮やかに解決するからこそ、グッとくるのではありませんか?」


「一応異世界人の端くれとしては、それに対してはもう、『現代日本に帰れ!』としか、言えないのですけど?」


「あはは、何をおっしゃっているのです、あなた自身がすでに、真に理想的な『異世界におけるミステリィ小説的事件』の解決の実績がお有りというのに」


「はあ?」


「だからですねえ、事件自体は通常のミステリィ小説に出てくるようなやつで構わなくて、そこに舞台が異世界だったり、犯人や被害者が転生者だったりすることによって、独特の予想外の展開や解決方法を見せるところがミソなんですよ」


「……あー、何となくわかってきました。確かに私が手がけた、『現代日本からの転生者による連続冒険者殺人事件』なんて、まさにそれですよね。──それで、具体的に、何をお聞きになりたいのですか?」


「具体的にだと、例えばですねえ、地方の貴族の八男坊が、現代日本からの転生者だったとしましょう」


「何その、ヤバ過ぎる具体例⁉」


「まあまあ、こういった感じの方がわかりやすいでしょう? それで転生者にありがちなパターンで、異世界のことをゲーム脳感覚で甘く見て、調子に乗って無茶な成り上がりやNAISEIをやってて、取り返しのつかない失敗を犯してしまったんですよ」


「……ねえ、その話、その辺でやめておきません?」


「そしたら何と! 周りの人々から声高に糾弾されて、にっちもさっちもいかなくなった、その途端、『現代日本人としての前世の記憶』が綺麗さっぱり無くなってしまって、その時点で初めて、純粋なる異世界人としての自分を取り戻せたのですよ!」


「……ああ、そういうことですか」


「この場合、いろいろしでかしたことに対して、果たして純粋な異世界人に戻った八男坊さんには、責任があるのかどうか、司祭様にはこれを伺いたいわけなんですよ」


「なるほどなるほど、八男坊さんがしでかした罪が、『殺人事件』の場合、私の扱った事例そのままになりますからね」


「そうなんです、簡単に言うと、果たして『前世の記憶に囚われている状態で犯した犯罪は罪に問えるのか』、はたまた『そもそも転生者そのものを罪に問えるのか』、といったところが最大のポイントになるかと思われます」


「ええ、まさにそこが最も重要な点ですが、答えのほうも簡単ですよ?」


「え、そうなんですか?」




「前世の記憶に囚われていようが、単なる生粋の異世界人だろうが、その手で何かの罪を犯した場合、その者自身に罰を与えればよろしいのですよ」




「………………………………はあ?」


「ね、簡単でしょう?」


「いやいやいや、簡単て、簡単すぎますよ⁉ どうして、前世の記憶に囚われて、『本当の自分』ではなかった場合においても、何の酌量の余地もなく、罪に問われてしまうのですか?」




「おや、どうして、『本当の自分ではなかった』なんて、断言できるのです?」




「え」


「そもそも、本当に『前世の記憶』なんかに囚われているかどうかを断言できるのは、その人自身だけ──いや、ひょっとすると、当人ですら、単に妄想的に、『自分は現代日本人の生まれ変わりなのだ』と信じ込んでいるだけだという可能性があり得るのですから、本人さえも含めて、誰にも断言できないのですよ?」


「──ちょっ、そんなことを言ったら、話にならないではないですか⁉ 『異世界転生』を取り扱う法律に関して討論をしようとしているのに、『異世界転生』自体の存在性を疑っていたらキリはありませんよ!」




「だから、元々『前世の記憶』とか『異世界転生』とかいったものが、単なる妄想のようなものに過ぎないと言っているのですよ? まさかあなた、本当に現代日本から他の世界に、転生とか転移とができるとでも思っていたんですか?」




「なっ⁉」


なんか、それこそ現代日本には、『異世界転生』を扱ったWeb小説とやらが、ごまんと存在しているそうですけど、その作者の方で、現実に『異世界転生』のやり方をご存じの方がおられましたら、是非ともお教えいただきたいものですな」


「何でそんなにケンカ腰なの? 嫌だこんな、間違った意味での武闘派僧侶⁉ 現代日本のWeb作家の皆様は、あくまでも創作物フィクションとして『異世界転生』作品を書かれているのだから、実現方法を知っていなくてもいいではありませんか? どうせこの世界において異世界転生が実現できているのも、召喚術とか、その他の魔法とかによるもので、現代日本にとっては現実性リアリティのない、それこそ創作物フィクションそのままの手段によるものなんでしょうが⁉」


「いや、私異世界人ですけど、召喚術とかの超常的手段ではなくて、現代日本人の立場で、真に現実性リアリティのある異世界転生の仕方を、ちゃんとご説明することができますけど?」


「へ?………………………………いやいや、あなた、ほんの今さっき、自分自身で、『異世界転生なんて妄想のようなものに過ぎない』って、おっしゃったのではありませんか⁉」




「ええ、──ただし、妄想は妄想でも、その『現代日本人としての記憶』自体は、あくまでもなんですよ」




「妄想が……日本人としての前世の記憶が……本物ですって⁉」


「ええ、実はこれこそが、現代日本におけるユング心理学に則っての、唯一の真に現実性リアリティのある、異世界転生の実現の仕方なのです」


「ユング心理学……ですか?」


「簡単に申すますと、人は本人も自覚できない精神の最深層でつながり合っていて、その心的ネットワークを、ユングは『集合的無意識』と名付けたのですが、ここには、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の『記憶と知識』が集まってくることになります。──これについてあまりくどくど述べると、いたずらに字数を費やすだけですので、『異世界転生』に関わることだけに的を絞って述べますと、今言った『ありとあらゆる世界』には、現代日本人から見て、『すべての異世界』が含まれます。これは文字通り『すべての』異世界であって、すでに『カクヨム』や『小説家になろう』等の小説創作サイトで発表された、創作物フィクションの異世界そっくりの、本物の異世界をも含み、まだ誰からも小説化どころか妄想すらされていない、未知の異世界も含みます。──なぜなら、ユング心理学並びに現代物理学の中核をなす量子論に則れば、『すべての世界は最初から存在している』のですから。それというのも、普通Web小説なんかで行われている異世界転生って、当然のことながら、現代日本人からすれば、未知の異世界に転生することになるでしょう? ──そうなんです。現代日本人にとって、Web小説化されてないどころか、誰一人妄想すらしていない異世界であっても、そんなことにかかわらず最初から存在していないと、そもそも『未知の異世界に転生する行為』である異世界転生が、実現できなくなってしまうのですよ」


「うおおおおおおおおおっ! そう、そうですよね! たとえ人間の想像も及ばない世界だろうが──いやむしろ、日本人の想像も及ばないからこそ、日本人による(Web小説の)創造とか(お布団の中での)想像とかにかかわらず、最初から存在していないと、異世界転生なんてまったくできないか、すでに既存のWeb小説等に書かれている異世界にしか転生できなくなってしまい、パクリが当たり前の、嫌な世界になってしまいますよね⁉」


「実はこれは量子論における、『世界とは今目の前にある現実世界ただ一つしか存在しないが、あくまでも可能性としては別に無限の世界が存在し得て、我々はほんの一瞬後にも、異世界や過去の世界や未来の世界や並行世界パラレルワールドに転移して、今まで存在していた現代日本のほうが可能性のみの世界となってしまうのだ』という理論に則ったものでもあるのだけど、まあ、こういった難しい話は、今回はよしておきましょう」


「そ、それで、その集合的無意識とやらに則れば、どうして異世界転生が現実的に実現できることになるのです?」


「簡単な話です、この理論に基づいて、視点を変えると、異世界人からすれば、現代日本こそが『未知の異世界』と言うことになるでしょう? すると集合的無意識にさえアクセスできれば、そこには本物の『現代日本人の記憶や知識』が存在しているので、それを自分脳みそに刷り込むことによって、何と肉体どころか精神すらも世界間を移動することなく、事実上の『現代日本人としての前世の記憶』を獲得して、自分のことを『現代日本からの転生者』だとようになるといった次第なのですよ」


「何と、己の脳みそに他人の『記憶や知識』を刷り込むだけで、異世界転生が実現できるですと⁉」


「何せ、脳みそに直接刷り込まれた記憶は、実際に自分自身で体験した『本物の記憶』同然なのですからね。先程『転生者なんて本当はただの妄想癖の異世界人に過ぎないが、彼にとっての現代日本人としての記憶自体は、本物なのである』と言ったのは、まさにこのことなんですよ」


「で、でも、そのようなどう考えても超常的存在である、集合的無意識とやらにアクセスするには、一体どうすればいいのです? 先程は『個々人とは精神の最深層で繋がっている』みたいなことをおっしゃっていたけれど、そんなオカルト話を聞かされて、素直に頷くことはできないんですが?」


「……う〜ん、実は私はですねえ、あくまでも個人的な考えなんですが、集合的無意識ってそんな超常的なものではなく、極ありきたりな『閃き』のようなものだと思っているのですよ」


「閃きって、あの閃きですか?」


「そう、あちらの世界でご高名な、発明王エジソン氏の言うところの、『成功は、99%努力と、1%の閃きによって、もたらされる』の、まさしく99%の、1%の閃きのことですよ」


「うん? 今、努力によって導き出されるところを、ことさら強調なされましたね」


「はい、例えばですねえ、全異世界的に有名であられる、『地方貴族の八男坊』さんと『下級役人の本好きの娘』さんですが、私がこの人たちのことを『あくまでも生粋の異世界人が、自分が現代日本人であるという妄想に囚われているだけなのだ』と申しておりますのは、別にご両人をディスっているわけではなく、むしろ生粋の異世界人だからこそ、彼らの偉業がより尊いものになるのだと、申しておるわけなのです」


「……ほんと、ですか?(疑いの眼で)」


「ほんとほんと、ここのところは、まさしくエジソンさんのおっしゃる通りに、『成功は、99%努力と、1%の閃きによって、もたらされる』なのでして、本好きの少女の例で言えば、書物がむちゃくちゃ高価で、一般庶民にはまったく手が届かない世界で、何かの拍子に一度だけ『本』を目にしたことのある少女が、誰でも本が読めるようにしようと、製本技術や流通システムの創設やコストダウンを図っていくんですけど、努力の末にあと一歩まで迫るものの、どうしても理想的な活版印刷技術を実現できないでいたところ、ふとした拍子にひらめくんですよ、まるで現代日本にいて、百科事典やインターネットを閲覧するようにして、グーテンベルクの活版印刷技術実現の大ヒントが! このように、異世界人ではけして知り得るはずのない知識に触れることができたのは、まさしく集合的無意識にアクセスすることによって、少女自身が思い込んでいるように、『現代日本人』としての記憶や知識を己の脳みそにインストールすることができたからなのですが、別にこれは絶対にあり得ない奇跡やWeb小説的フィクションなぞではなく、『絶対に誰もが本を読める世界にしてみせる!』との決意に燃えて、あの手この手とあらゆる努力をし続けたからこそ、最後の最後で『発明の女神様』が微笑んで、エジソン氏の言うところの『閃き』を手に入れることができただけの話に過ぎないのですよ」


「おおー、むちゃくちゃいい話だ! 大納得ですよ! 『本好きの女の子は、あくまでもただの異世界人で、現代日本人の転生者というのは妄想に過ぎない』というのは、ディスりなんかじゃなく、褒め言葉だったんだ!」


「『地方貴族の八男坊』さんについても同様で、自分の八男坊という、地方貴族においてもかなり厳しい立場をどうにかしようと、魔法の習得や領地経営に人一倍努力していくのですが、それが実って集合的無意識という名の閃きを手に入れることによって、現代日本人的な先進的な知識や考え方を獲得し、本来の立場からしたらけしてなし得るはずのない、大成功を遂げることになったわけなのです」


「ぬおおおおっ! こっちも完全同意だぜ! Web小説万歳! これまでの異世界転生作品は、何も間違っていなかったのだ!」


「実はユング自身は集合的無意識のことを、『人類の過去の英知の結集』とおっしゃっていたそうで、その考え方は確かに現実的であり、『過去の人々の努力の上にこそ、新しい発明は成される』というのは、非常に納得できるところですが、それでも私はむしろ集合的無意識は、『未来人の英知の結集』だと思っているのです」


「みっ、未来人ですか? これって、異世界転生についての、説明を行っているんですよね? そこによりによって、未来人までが登場するのですか?」




「それというのも、SF小説界隈を中心にして、『過去の偉大な発明発見の陰には、実は未来人の手助けがあったのだ』という珍説が存在していて、有名なところでは、SF映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』において、マービン=ゲイが、自身の最大のヒット曲を、未来から来た少年による、まさしくマービンの曲の演奏によって思いつくといった、シークエンスが挙げられます。もちろんこれはあくまでも創作物フィクションでしかありませんが、何と量子論等に則れば、非常に正しい見解だったりもします。──なぜなら、集合的無意識こそは、コペンハーゲン量子論で言うところの、『この現実世界の未来の無限の可能性』を具現化したものと言えて、まさしく集合的無意識とは、人類の未来の英知の集合体であり、己自身の不断の努力によって、それに触れることができた者のみが、発明家や音楽家として、人並み外れた成功を収めることができるのですよ。──そしてこれは何よりも、まさしく異世界転生系のWeb小説のフォーマットにおいても、そっくりそのまま踏襲されていて、ほとんどのパターンとして、異世界転生や転移というものは、現代日本からすると数百年も過去である、中世ヨーロッパや戦国時代そのままの文化レベルの異世界へ赴くことになりますので、必然的に、その世界における転生者のみが持つ『現代日本人としての知識』とは、まさしく『未来人の知識』同然と言うことになるわけなのですよ」




「何と、異世界人にとって、現代日本人は未来人のようなものであり、活版印刷やNAISEIは、ある意味未来の英知を利用したからこそ、実現することができたのか⁉ …………はあ、集合的無意識──つまりは、我々が普段何の気なしに使っている『閃き』という言葉が、人類の未来の英知そのものを意味していたなんて。いやあ今回は、『異世界におけるミステリィ小説的事件の在り方』について聞くはずだったところ、『そもそも異世界転生とは何か?』とか『努力の結果の閃きこそが、現代日本人としての前世の記憶の正体である』とかいった、異世界転生についての根本的原理を教えてもらえることになって、非常に勉強になりましたよ!」


「──おっと、いけない。そうでしたそうでした、元々主題は、『異世界におけるミステリィ小説的事件の在り方』について、でしたっけ」


「ええっ、忘れていたんですかあ⁉」


「あはははは、つい話に熱を入れ過ぎちゃいましてね。ああ、でも、ここまで話せば、後は至極簡単ですので、一気に語ってしまいましょう。──以上のように、自ら『現代日本からの転生者』を自認していようと、あくまでも生粋の異世界人に過ぎず、ただ単に『現代日本人としての記憶や知識』を、少々持っているだけなのです。よって殺人等を犯した場合、それは異世界人本人として、被害者のことを心のどこかで憎んでいたりしていたからなのであり、『現代日本人としての記憶や知識』のほうはちょっとした『後押し』をしたに過ぎません」


「後押しって、現代日本人が、ですか?」


「ええ、現代日本人ならではのゲーム脳のために、異世界人をゲームのキャラのようにしか捉えられず、その命を軽く見たりとか、現代日本のミステリィ小説等の知識により、完全犯罪を目論んだりとか、密かに現代兵器を作って犯行に使用したり──といったパターンが考えられます」


「……でもあくまでも、犯行を実行しようとしたのは、異世界人本人の意志なわけですね?」




「そうです、何度も言うように、転生者にとっての『前世の記憶』──つまりは『現代日本人としての記憶や知識』は、あくまでも補助的なものに過ぎず、そんなものに取り憑かれていたからって、罪を見逃したりしていたら、誰もが『私には現代日本人としての前世の記憶があるのだ』とか言い出して、どんなに犯罪を犯そうが無罪を主張してきて、異世界全体が犯罪天国なってしまいかねませんので、原則的に罪を犯した異世界人は、たとえ転生者であろうが、普通に罪人として裁いても構わないと思いますよ?」

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