ゲーム転生とか下方修正に決まってるでしょ?

ちびまるフォイ

けして変わることのない強烈な力をこの手に!!

大人気MMORPG『KakuYom.world』


美しいグラフィックと広大なフィールド。

そしてキャラはすべて巨乳の女性しか出てこないということで

イマドキ男子をはじめ全世界で大ブームのゲームをやっている。なう。


「な、なんだこれは!?」


突如、やっていたゲームの画面が光り輝いたかと思うと

俺の体はバラバラに電子分解されて気がついたときにはゲームの世界に。


ピコン。


聞き慣れた電子音が聞こえた。

手をかざすと自分のステータス画面が開く。


『 登録名: ササガミ カイト

  レベル: *****

  状態 : アネ゛デパミ゛

  職業 : オ゛―゛ギど

  スキル: けつばん     』


見てわかる程にバグっていた。

生身の人間がゲームの中に入るのだから、

恋愛遍歴とかおしりの痔の進行度とか余計な大量の情報もくっついて

とてもパソコンじゃ処理できなくなったのだろう。


けれど、これは願ってもない幸運をもたらした。


「助けてー―!」


「グオオオーー!」


タイミングを図ったかのように助けを求める女性が走り込んでくる。

そのすぐ後ろからは見るからに殺してもPTAが許してくれそうな

見てくれの悪い悪党ヅラのクリーチャーが襲ってきている。


盾となった俺はクリーチャーの攻撃をまともに食らうものの、

ステータスがバグっているので何も変動しない。


「ハハハ! この程度きかねぇよ! 必殺、バグパーーンチ!」


9999*****ダメージ!


バグならではの桁外れのダメージを与えてクリーチャーをやっつけた。

そう、俺はすべてのバグを味方につけた最強のプレイヤーとして爆誕したのだった。




数日後。


ピコン。


通知の電子音で目が覚めた。


『運営からのお知らせ


 深夜に実施したメンテナンスによりバグ修正を行いました。

 この度の緊急メンテンナンスのお詫びとしてケツイ石を配布します』



「ば、バグの修正だぁ!?」


ステータスを再度広げてみると、本来の数字に戻ってしまっていた。

これではもう涼しい顔で大ボスをやっつけて、

付添いのヒロインからキャーキャー言われることもなくなる。


「どうすればいいんだ! 昨日、魔王討伐の依頼受けちゃったぞ!?

 このままじゃとても勝てっこない!!」


バグを失った俺はもう村人A同然。

こんなパンピーに世界が救えるわけがない。


いったいどうすれば……。


「悩んでいるようだな」


「あ、あなたは!?」


「ワシはチート仙人。このゲームのチートを見つける仙人じゃ」


「そんな設定がこのゲームに……」


「いや、ホントはただのデバッグ社員なんだけども」

「それなら納得」


「実はデバッグの過程でこのゲームでのチートを見つけたんだ。

 もちろん、まだ誰にも話していない。それを君に授けよう」


「いいんですか!?」


「ああ、もちろんだ。このゲームはミニゲームを増やしすぎて

 いつしか誰も世界を救うことに興味を失ってしまい、

 釣りミニゲームばかりやるようになってしまったからね」


「……たしかに、俺もこのゲームに転生してくる前までは

 ゲーム本筋よりも道中のカードとレースゲームにうつつ抜かしてました」


「チートであれ、この世界を救ってくれるのは本望さ。

 では君に素敵なチートを授けよう。えやーー!!」


チート仙人が手をかざすと、俺の手元には剣が現れた。


「この剣は……?」


「時間なくてパパッとバランス調整したから、

 いろんな部分がゆるゆるのアイテムじゃ。

 それならどんな強い魔物も一刀両断にできるだろう」


「本当ですか! 試してみます!」


俺はチート仙人で試し切りをすると、確かに瞬殺だった。

これならどんなプレイヤーでも魔物でも負けることはない。


「しゃあ! 覚悟しろ! 魔王!!」


意気揚々とあるき出した瞬間、目の前が真っ暗になった。


しばらくして闇が晴れかと思うと通知が届いた。




『運営からのお知らせ


 魔王の力により緊急メンテナンスを実施しました。

 一部、武具の下方修正を行いました。

 この度の緊急メンテンナンスのお詫びとしてケツイ石を配布します』



「ま、まさか……!?」


恐る恐る握っている武器のステータスを確認してみると

そこらで売っている鍋のフタよりも攻撃力が下がっていた。


「うわぁぁん!! なんだよもう!! これじゃ勝てないじゃん!!」


諦めかけたそのとき、まだ自分には魔法が残されていることに気づいた。

ダメージが少ないのとかっこ悪いのとでユーザーからは見放されていた死に設定。


「ファイア!」


試しに放ってみると、誰も使っていないからか異常なダメージを与えた。


「すごい! このゲームにはまだこんな穴があったのか!

 これなら魔王を遠距離から仕留められる!!

 これから毎日魔王の家を焼いてやるんDA!!」



安心して眠りにつくと、翌日おおかたの読者の予想通りの出来事が起きた。



『運営からのお知らせ


 魔王の力により緊急メンテナンスを実施しました。

 一部、魔法の下方修正を行いました。

 この度の緊急メンテンナンスのお詫びとしてケツイ石を配布します』



「あばばばば……」


もうステータスを見るよりも結果はわかっていた。

試しに魔法を使ってみると、昨日は不死鳥をも消し炭にしそうなほど

煉獄の炎を焚き上げたはずが、今じゃ誕生日ケーキのロウソクよりもか細い。


『ククク……落胆しているようだな』


「なんだこの声は!?」


『我は魔王。このゲームに長く居すぎることで自我を持ったのだ。

 そして今、お前の頭の中に直接話しかけている』


「貴様! よくも下方修正させてくれたな!」


『クククク、我を倒そうとする危険分子は早めに排除しなくてはな。

 今後、貴様がどんなチートを使おうとも緊急メンテで

 貴様の能力は下方修正して無力化してやるぞ』


「お、おのれ……!!」


『貴様に、我を倒すことなど絶対に不可能! ワハハハハ!』


俺はもう手がなかった。

どんな抜け道を探しても下方修正されてしまう。

正攻法で魔王を倒すことなんてもはや不可能。



――あきらめないで……



――あなたの肌……あきらめないで……



「そ、その声は!?」



――わたしは運営……あなたが諦めたらこの世界は救われない……



「でも、武器も魔法もチートも残っていない!

 レベルだって貧弱だし、顔だってイケメンじゃないし……勝てっこない!」



――いいえ、あなたにはまだ残された力があるわ……



 ・

 ・

 ・


ラストダンジョンにまさかやってくるとは魔王側も思っていなかった。


「ほう、あれだけ下方修正したというのに

 我のもとまでやってくるとはなかなか骨があるじゃないか」


「魔王、貴様を倒して俺がこのゲーム世界を救ってみせる!!」


「どんなチートを使ったのか知らんが無駄なこと。

 貴様に得られたどんな力も我の緊急メンテンナンスで下方修正してやるわ!!」


魔王は究極魔法「メンテナンス」を唱えた。

あっという間に画面は真っ暗になってからゲームが再開される。


「きかないな」


「な、なんだと!? バカな! この! このっ!!」


魔王は何度メンテナンスを行っても俺の力は失われない。

ステータスは圧倒的な力を保ったまま。


焦って視野が狭まっていた魔王もやっと俺のカラクリに気がつく。


「き、貴様ァ!! いったい何を持っている!?

 どうしてそんなに一気に強くなったんだ!!!」


「これかい?」


俺は小脇に抱えていた器材を見せた。




「ガチャさ。これさえあれば、何も努力しなくても強くなれるんだよ――!!」



下方修正されない課金武器で魔王を両断し世界は金で救われた。

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