休幕

 龍に制圧された大陸で、唯一の人間の生存領域である半島の基地から、機甲部隊と攻撃機隊が出撃していく。機甲部隊は合衆国、攻撃機隊は帝国の部隊であり、その他諸国の部隊は参加していない。

 基地を一望できる高台に座り込み、ヴァイスはその光景を見送っている。

「一番危険な部分は諸国にまかせ、最後の美味しい部分だけ自ら動く……人類のための軍団が聞いて呆れます」

「人と金を出すからにはそれ相応の見返りが必要なんだろ」

 背中合わせに座るニーナから聞こえてきた声に、言ってやるなと苦笑交じりに答える。

 ヴァイスが放った爆弾は目論見通り巨龍を内部から破壊した。その戦果が伝えられるや否や、エリアを制圧するための攻撃部隊が編成され、入れ替わるように出撃している。

 すでに斥候部隊は浸透済みであり、先遣隊の不時着者などが救助されている。その中にはクロイワ機も含まれており、機銃手とともに重症ではあるものの命に別状はないとのことだった。彼らを襲撃しただろう地龍の亡骸が、無数の刀傷とともに見つかったという部分は誤報かなにかと信じたい。

「あの、私は多分……怒っています。あの時、私を降ろそうとしたことに」

 機上と違い、座席や装甲板を挟まずに背中を合わせるニーナからゴリゴリと圧力が加えられる。基地に戻ってから、話があると言われた時点で内容の察しはついていた。後ろめたさと合わさって、その圧が痛い。

「私は上陸戦でリーダーに救ってもらった時、これからは貴方のことを護ると決めました」

「……俺に命を賭して守るほどのものがあるとは思えんがなあ」

「その評価は、人が決めるものです」

 ヴァイスの背中にグッと力がかかる。それは先ほどのゴリゴリとした圧力ではなく、決意を込めるようなもの。一緒にグラムに乗っている期間はけして長くないはずなのに、後ろにニーナが座っているという状況が安心する。

「少佐にも言われたが、こんな無茶な飛び方、いつ落ちるかわかったもんじゃないぞ」

「どれだけ無茶されようが、いつまでも無茶できるように貴方の背中を護ります」

 どこまでもニーナの言葉はまっすぐで。だから、真正面から受け止めきれずにヴァイスは思わず吹き出した。

「わかった。お前も相当ムチャクチャだということはよくわかった」

「それ、リーダーには言われたくないですよ」

「いいや、残念ながら同レベルだ」

 ヴァイスはやれやれと息をつき、体をしっかりと後ろに預け返す。何が待ち受けるかわからないこの戦場で、確かなもの。

「これからも無茶を続けると思うが……ついてきてくれるか?」

「はい……どこまでも」

 見上げた空は変わらず彼方まで澄んでいた。

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龍舞う地の爆撃機乗り 粟生真泥 @midoron97

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