第3話
「――先生、お久しぶりですね。まさか、こんな場所で再会するとは夢にも思いませんでしたが」
「久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「先生も御元気そうですね。それで、この場は全力で戦ってもよろしいですか?」
「構わん。成長した姿を見せてくれ」
「では、参ります!!」
さっき会った若者の集団の一人。今回唯一出場してるらしい。
ここまで無傷で勝ち上がってきた強者。
それもそうだ。彼は――
大会が終わって、話をするために場所を移した。
今は人があまりいない公園に来てる。
「おっさん、『勇者』と知り合いだったのか!?」
「昔、一時的に預かっていた事があっただけだ」
「いえいえ、先生の御指導のおかげで僕はここまで来れたんです。その節はありがとうございました」
「ねえ、この人がシールの師匠なの?」
勇者――シールって名前の少年の背後から不機嫌そうな女の子が出てきた。
『賢者』と呼ばれる魔法の天才、ミーナだ!
「そうだよ、ミーナ。僕の剣技は先生直伝なんだ」
「――とてもそうは見えない」
「さっきの試合を見ても認められない?ジュリア」
勇者と並んで多くの武勇伝が伝わる、『剣聖』ジュリア!
なんか、眠たそうな顔してて何考えてるのか分からねえな。
「勇者を導く者――貴方が預言にあった御方なのですね」
「ただの成り行きだ。シールがしつこく教えろと言ってきたから、仕方なく教えただけだ」
「ぼ、僕はしつこくは言ってませんよ!?……言ってませんよね?」
「ふふっ……貴方が意図しなくても、運命が貴方を導いた。勇者を導く者として」
「ああ、彼女はキュレネー。『聖女』って言われてます」
まだ16歳なのに超美人な『聖女』キュレネーかぁ。
雰囲気は大人みてえだな。
噂では死者を蘇らせたとか、不治の病を治したとか。
「なるほどな。だから、〈運命〉や〈預言〉なんて言葉が出てくるのか」
「信じられませんか?」
「これまでの人生が運命だとするならば、俺は神を殺してやりたいな。こんな人生を歩ませるために俺は生かされてきたのかって」
「今の言葉は聞き流しましょう。……ですが、一度までです。二度はありません」
「すまねえな。キュレネーは信神深い。神を冒涜する言葉を看過できないんだよ。俺はゲッパー。弓の腕は、まあそこそこ自信がある。よろしくな」
「彼は凄いですよ。狙った的は外さないので、いつも助けられてます」
「体捌きを見れば分かる。かなりの修羅場をくぐり抜けて来たのだろうな」
『神弓』ゲッパー! 超凄腕の弓の使い手で、しかもかっこいいなー!!
普通の人ではとても見えない距離から狙撃して魔物を射抜いた逸話は子供なら誰だって知ってる!!
あとは、目隠しして置かれている的を射抜いたとかっ!!
「さて、さっきからこそこそしてるヤツ、出てきたらどうだ?」
「――気付いてやがったのか」
おっさんが声を掛けると、俺達のいるところから少し離れた場所にある木陰から男たちが現れた。
全員武装していて、とても穏便に済ませるつもりはないって感じだ。
いつから居たんだ?まったく気付かなかった。
「気配が駄々洩れだ。気付かない方がおかしい。それで、用件は何だ?」
「痛い目見たくなかったら、そこの女三人と金品置いて失せろ!」
「残念だが要求は呑めない。お前達こそ帰るんだな」
勇者たちが武器を構えるよりも前に、おっさんが立ち上がった。
何するつもり……って、眼帯を外した?
「なんだぁ…?――ひ、ひぃぃぃいい!!!?」
「やれやれ。覚悟も無い半端者だったか」
「先生、何をしたんですか?」
「さてな。軽く睨んだだけだ」
「「「「…………」」」」
悪者たちが逃げていくと眼帯を元に戻す。
俺でもこれだけはわかるぞ。おっさんは只者じゃない!
勇者たちも目が鋭くなってるから、俺の勘違いじゃないはずだ。
「先生に秘密があることは今に始まった事ではありませんでしたね」
「お前達はこれからどうするんだ?」
「僕達は王都に呼ばれているので、これから王都に向かいます。ここには僕の気まぐれで来たんです」
「『勇者』が闘技場に、ねぇ……」
おっさんが意味ありげに言うと、勇者が慌てたように弁解を始めた。
なんか、こういう姿を見るとただの少年なんだよなー。
「あっ、べ、別に戦いたかったわけではないですよ!?ちょっとした力試しのつもりだったんです!」
「今更俺がとやかく言うことは無い。男なんだ、たまには力を誇示したくなる時もあるだろう」
「うっ……こ、子供っぽいですか?」
「いや?だが、昔言ったことを忘れるなよ」
「力に溺れるな、ですよね。今もその言葉を胸に研鑽してますよ」
「そうか。ならいい。それさえ分かっていれば、道を踏み外すこともないだろう」
照れたかと思ったら真剣な表情になったり、笑顔になったり。
勇者も同じ人間なんだなーって実感する。
「……先生は、どうして旅をしているんですか?」
「俺にはやるべきことがある。そのために、王都へ向かっている」
「そうなんですか。なら、一緒に行きませんか?目的地は一緒ですし、久しぶりに先生に稽古をつけてもらいたいですから」
「俺が教えられることなどもうないだろう。どうせなら、そっちに稽古をつけてやってくれ」
え!?まさか、この流れで俺に来るの?
ふ、二人してこっち見てる……。
「お、俺?」
「お前以外いないだろう。ちょうどいいから、『勇者』に鍛えてもらえ。シールも教えているうちに何か得られるモノがあるかもしれない」
「わかりました。僕でよければ、教えられることは教えます」
「よ、よろしくお願いします!!」
や……やったー!!!
勇者本人から剣の手ほどきを受けられるなんて!!!!
あっ、でも浮かれてばかりもいられないよな。
稽古とは言っても貴重な時間を割いて勇者に教えてもらうんだ、しっかりと学ばないと!………でも、浮かれるなって方が無理だよな!!?
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