第2話

「ほぇ~……ここが闘技場ってのか。デケエな!」

「はしゃぐな。本来子供が来ていい場所じゃないからな」

「そうなのか?……ホントだ。子供が一人もいなくて、大人の男ばっかりだな」

「そういう場所、ということだ。ウロウロするなよ?絡まれたら厄介だ」

「わわっ! 待ってよ!!」


 周りにいるの怖え大人ばっかなのに、おっさんは少しも気後れしねえんだな。

 それどころか、周りの男の方が道を開けてる…!


「参加希望ですか?でしたら、こちらに名前を記入してください」

「ベン。お前は先に観客席に行ってろ」

「わ、わかった。頑張れよっ!!」


 とは言ったものの、周りの観客も大人ばっかだなー……んん??

 あっちの外套羽織ってるのって子供か?

 でも、ここに子供は来ないって言ってたような……あっ! おっさんの出番だ!!


――――――


「スゲエな、おっさん! あっさり倒して!!」

「経験の差だ。この程度は当然の結果と言える」

「――はんっ! ジジイが何言ってんだか」

「なんだとっ!」


 声のした方を向くと、革鎧で全身を覆って頑丈な鉄の盾を持ったデカい奴がいた。武器は鉄球を鎖で繋いだ変なものだった。


「しかも、ガキなんか連れてやがる。歴戦の勇士気取りかも知れねえが、アンタなんか雑魚だ。当たることがあれば、本当の格の違いを見せてやるよ。当たることがあれば、だけどな! ハッハッハッハ!」


 唾を吐き捨てると、挑発するだけしてどっか行きやがった。

 テメエなんかやられちまえ!


「ああいう人間は相手にしないことだ。感情的になれば視野が狭くなり、戦闘に支障をきたす。戦うときは常に相手に集中しろ」

「……おっさんはあんなに言われて何とも思わないのか?」

「何一つとして意味のある言葉ではなかったからな。真に受けるだけ無駄だ」


 スゲエ。あれだけ言われても流せるなんて。

 これが大人の余裕なのかな?


「俺もおっさんのようになれればいいな」

「俺のようにはなるな。俺を見て、他の人間を見て学べ。そして、自分の進むべき道を見据えろ」

「……難しいこと言われてる」

「要は、世界を見て回れ。そうすればいずれ自分の本当にしたいことが見つかるはずだ。それに、つい数日前にお前自身が言っただろう?世界を見て回ると」

「なるほど。じゃあ、これまで通りでいいってことだな?」

「……まあ、そういうことだ。さて、俺は次の試合の準備がある」

「おう、頑張れよ!」


 う~ん……おっさんがなんか何とも言えない表情になってたけど、なんかあったのかな?実は試合前に緊張したとか?

 ないない。おっさんに限ってそれはねえな。


 ん…?

 今、身長が同じくらいの奴が通って行った気がしたけど気のせいだよな?


―――――――


 勝った! 勝ったよ! あのおっさんただモンじゃねえな!


「また勝った! 次は準決勝じゃん!!」

「騒ぐな。戦いで一喜一憂していると足元を救われるぞ」

「でも、スッゲエじゃん! 次の相手は挑発してきたヤツだな」

「はぁ……心を乱すな、と言ったはずだぞ?」

「うぐっ………でも、挑発された以上はけちょんけちょんにしてよ!」

「くだらん。お前はもう少し精神的に成長するんだな」


 精神的に成長ってどうすればいいんだよ~。

 ……難しいことは置いといて、次は準決勝だ!

 おっさんなら余裕だよな!



「本当にここまで来たのかよ。ちょっとだけ見直した。ちょっとだけな」

「うるさい奴だ」

「だが、アンタの奇跡もここまでだ。死にたくなかったら今のうちに降参するんだな。でなきゃ、惨めな思いをするハメになるぜ?」

「…………」

「チッ! せいぜい会場を盛り下げるような無様な試合は勘弁だぜ」


『試合はじめ!』


 スゲェ……目隠ししてるのに攻撃を全部避けてる!

 鎖で繋がってて軌道とか全然読めねえから、俺だと簡単に喰らうな――あっ!

 かすって目隠しが外れちまった!

  

「なんだ、そんなにこの目隠しが大事なのか?なら――諸共に死ねやっ!!」

「――はぁ……よかったよかった。物を大事にしないと、いつか天罰が下るぞ?」

「……は?」


 え……?あんな猛攻の中を無傷でくぐり抜けたのか!?


「あんな大振りで倒せると思われるのは心外だ」

「ぐっ……こ、この野郎っ!!」

「力に溺れた者は、その力を封じられた瞬間から無様を晒す」

「ふざけやが――」


 おっさんの挑発に乗って武器を大きく振り回した瞬間、おっさんの剣を握ってた右手が霞んだかと思ったら相手の武器が弾き飛ばされてた。

 挑発野郎は何が起きたのか理解できてないみたいだ。


「さて、得物はなくなった。どうする?」

「……ま、まだ終わってねぇぞっ!!」

「いや、終わりだ」


 武器がなくなってヤケを起こした野郎は、盾を構えておっさんに突進。

 おっさんはそれを簡単に避け、無防備の頭に剣の柄頭で殴った。

 ただそれだけだったけど、野郎は気絶して試合は終了。

 おっさんは外れた目隠しを結び直しながら戻って来た。


「なんて言ったらいいかわかんねえから、とりあえずおめでとう!」

「ありがとう」

「なんであんな状態で避けられるの?」

「経験だな。相手の息遣い、気配、音。それから意識」

「意識?そんなのどうやって分かるんだよ?」

「視線や声、息遣いだな。気配や動いたときの音でも分かる。行動には常に意識が付きまとう。誰であれな。だから、それらを知覚すれば攻撃を避けるのは不可能ではない」


 なんて言うか、普通の人とは違うってことだけはよく分かった。

 どんだけ経験すればここまでなれんだろう?


「――先生ですか?」


 おっさんの背後には五人の子供が立ってた。

 俺は知ってる。彼らは―――

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