第4話意識の中

「そういえば、もう暗いな。今何時だ?」


 携帯を取り出し時間を確認する。


「もう八時前だね。意外と話し込んじゃったね。」


 先に葵が答えてくれえる。


「早いもんだな。それじゃあ時間も時間だし、そろそろ帰るわ。」


「うん、今日は急にごめんね。」


「いやいや、俺としては久々に話せて楽しかったよ。ありがとう。」


 じゃあまた、と軽く手を振り荷物を持って立ち上がる。


「あ、そうだ。これ、今度のテスト範囲をまとめたプリント。これを渡しに来たのに忘れて帰るとこだったよ。」


 カバンの分かりやすい場所にあるプリントの束を渡す。


「ありがとう、助かるよー。」


「次のテストは普通に来れるの?」


「うん、今の調子でいけば行けると思うよ。あー学校楽しみだなぁ。」


 葵がにっこりと笑顔でそう呟く。


「そっか。学校来れたらしっしょに行こうな。」


「うん。もっと元気になって学校に行くよ!」


「はは、今も十分元気そうに見えるよ。じゃあまた。」


 そう言って、ドアを開ける。階段を下りてリビングにいるであろう澄玲さんに声をかける。


「すみません、お邪魔しましたー。」


「あれ、もう帰るのー?」


 こちらに歩いてくる音が聞こえ、リビングのドアが開く。


「はい、長居してしまい、すみません。」


「良いのよ!そうだ!良ければご飯一緒に食べない?」


 少しいい匂いがドアの向こうからしている。


「いえ、母がもう晩飯作ってると思うので、帰ります。すみません。」


 なんて怖いことを言うんだこの人は。


 ここで飯なんて食うことになったら、飯がうまくても緊張で戻してしまう気がする。


「そう。とにかく、今日は深月と会ってくれてありがとう。お母さんにもよろしく伝えといて!」


「こちらこそありがとうございます。母に伝えておきます。。」


「気が向いたらいつでも来てね。」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼します。」


 玄関の戸を開け葵の家を出る。


 歩きながら、葵の家でのことを振り返る。


 そういえば思ったより話せたな。女の子と話すとなると、無条件でうまく話せないでいるが、今日は最初こそだめだったが、途中からは大丈夫だった気がする・・・多分。


 自宅に到着し、ドアをを引く。


「ただいまー。」


「あ、お帰り。」


 キッチンで調理をしていた母が俺に気づく。


「飯ってもう出来てる?」


「できてるよ、食べちゃって。あと、お母さん早く寝たいから、お風呂も早く入っちゃってー。」


「へいへい。」


 一度、二階の自室へ行って荷物を置き、着替えてまたリビングへと降りる。


「お、ハンバーグじゃないですか。」


「そうだよー。陸翔好きでしょ。」


「あざーっす!」


 気付けばハンバーグがなくなっていく。フードファイターかな?


「ご馳走様。風呂入ってきます。」


 風呂に入って、自室に戻る。何もやる気力が起きないので、すぐにベッドに入る。まあ、やる気力があるときなんてないんだけどな!!


 ベッドの横の窓のレースのカーテンから、見える窓に目を向ける。


「今も空、好きだったのか。」


 黒色ともいえない複雑な色の空に浮かぶ名前もわからない星々。


 昔のことだから、もう変わってしまったのかと思っていた。好きなものをずっと好きでいられるというのはすごいことだと思う。


 俺はずっと一つのことを好きでいるなんて無理だろう。そんなことを考えながら目を瞑る。


 何もない暗黒と静寂の世界が目の前に現れる。この空間がとても好きだった。


 しかし、その世界もすぐに終わる。思考の中にたくさんの『眼』が現れ、じっと自分を見つめてくる。


眼      眼      眼       眼 眼             眼

  眼                              眼       眼 眼

        眼     眼      眼     眼          眼

    眼             眼           眼    眼眼眼


眼      眼      眼       眼 眼       眼             眼

  眼                              眼       眼    眼

        眼眼    眼     眼          眼

    眼             眼           眼    眼      眼



 こんな世界が真っ暗闇の世界に現れる。鼻も口もなく、誰のものかもわからない不特定多数の「眼」が現れては消えていく。俺を見て何を思っているのだろうか。


 一瞬身体が緊張で強張る。だが、いつものことなので、ゆっくりと弛緩していく。


 いつも、あの目はなんで出てくるのかと考える。自分が人前が苦手だからだろうか。


 そんなことを考えていると、ゆっくりと意識が切り離されていく。


 自分が気付くこともなく、勝手に眠りについていき、ゆっくりと夜も更けていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る