万華鏡ワールドからこんにちわ

来夢来人

第1話 カメラマン、イルくんの秘密

 この世の写し世という側面を併せ持つパラレルワールド。

 パラレルワールド万華鏡がこの世に出現したのは、今から7年前。

2012年6月のことである。

 忘れもしない6月30日。何を思ったのか分からないが、オーサー メロディーLaLaLaはアメーバブログに“銀河の渚Dreamscape”というブログを創った。

 そして世にも奇妙な世界を構築していった。

 万華鏡ワールドの人気キャラクターである万華鏡図書館図書司書ジョンは、DuranDuranの美形ベーシスト、ジョン・テイラーが漫画になったような美青年で、万華鏡ワールドの創始者であるメロディーLaLaLaが、顔にほれ込み、入社させた人物である。「万華鏡ハードトーク」以来、ふたりの迷コンビぶりは、名物となっているが、今日はその万華鏡ワールドでカメラマンをしている、イルくんのお話である。


 この世に兵役と言うものがあるように、パラレルワールドにも、キャラクターによっては兵役が存在する。

 パラレルワールド万華鏡のカメラマン、イルくんは先月、2年間の兵役に代わる社会福祉施設での奉仕活動を終え、万華鏡へ戻ってきたばかりである。


 「イルくん、おかえりなさ~い!」と嬉しそうに何やらたくさんの書類を抱えて駆け寄ってくる(とい云うよりは突進してくる)、パラレルワールドの館長LaLaLaを見て、イルは少し躊躇した。しかし良家の息子らしく、にこやかに笑って挨拶した。

 「館長、お久しぶりです。お元気そうで、なによりです」

 「元気じゃないわよ! 今、この万華鏡は危機にひんしているの。

イルくん、あなたの助けが必要なのよ」

 「はァ? ……?」

 「万華鏡は今、経営危機なの! イルくん、なんとかしてよ~!」

 イルは館長が何を言っているのか、さっぱり訳がわからなかった。

 そんな時、そこへ現れたのは、イルの親友でもある万華鏡図書館図書司書のジョンであった。

 「ジョンちゃん、ジョンちゃんからもお願いしてよ~」

と、LaLaLaはジョンの方を見て目をパチパチさせた。(実際は、ウインクし損ねたのである)

 仕方がない、と言う顔をしてジョンは、

 「あのさァ~、イルくん。要するに、普通みんな、何がしかの欲しいものがあるものだろう。だから君もなにか欲しいものがあるのに、お金が無くて、我慢しているものがあるんじゃないかな・・・と、LaLaLa館長は心配しているんだよ」

 万華鏡ワールドのカメラマン、イルくんは実はお金持ちの息子なのだが、偉大な芸術家になるために、また家出を決行したのである。そしてちょうど今、万華鏡ワールドへ戻ってきたところであった。

 イルくんは偉大な芸術家になるためには、ハングリーハートが必要不可欠と信じていた。偉大な芸術家になるために、自ら進んで、万華鏡で壊れそうなボロ家に住み、極貧生活を追及していた。

 しかしそんなイルくんは、実は万華鏡では伝説の人気トップモデル。モデルの仕事をすれば、いくらでもお金は稼げるのだ。しかし自分は芸術家なのでモデルはしたくないというのが、イルくんの口癖であり、モットーであった。

 仕事をめった引き受けないこともあって、イルくんのモデル出演ギャラはうなぎ昇りだった。イルくんは、どうしても欲しいものがあるときだけにしか、モデルの仕事をしない。それも欲しいものを買うだけのお金しか受け取らない。そしてそれ以外のギャラはすべて万華鏡ワールドに寄付する。万華鏡ワールドにとっては天使のような青年なのである。

 Lalalaはぜひともイルくんに、モデルのバイトをしてもらい、好きなものを買ってもらいたかった。そして残りのギャラを万華鏡に寄付してもらいたかった。それゆえ、LaLaLaは、今日は何が何でもオファーを受けてもらうつもりであった。

 とうぜんギャランティーの高い仕事を、まず紹介した。

「あのね、イルくん。これなんかどうかな? 化粧品会社の広告モデル。昔、イルくん、言ってたじゃない。大学生のとき、学祭の女装コンテストで優勝して、学祭のクイーンになったことがあるって・・・・」

「あれは若気のいたりでした。あのあと、へんなおじさんに追いかけられるわ、隠れゲイの教授から、デートに誘われて、断ったら単位もらえなくて、1年留年する羽目になるわ、散々でした。結局、他の大学へ転入したほどです」

 しかしここであきらめるLaLaLaではない。

「じゃ、イルくん。これはどうでしょう?  イルくんの料理の腕を生かして、調味料の広告モデルの仕事。イルくんのシェフすがた、きっとセクシーだと思うわ。主婦のアイドルになれるかも・・・。良い仕事だと思うわ」

 目をキラキラさせて、一気にまくしたてるLaLaLa。

 しかしイルくんは動じない。イルくんの決意は、固いのである。

「僕は芸術家を目指しているのであって、主婦のアイドルを目指しているのでは、ありません。お断りします」

 しかしそれぐらいのことでは、LaLaLahaもめげない。

 次から次とオファーの書類を取り出し、ひたすら説明し続けた。

 そして最後の書類になった。

「では、これなんてどうでしょう? ワンちゃん用のお洋服の着ぐるみ広告モデル・・・」

「館長、それはあまりですよ。僕だって頼まれてもそんな仕事はしません」

と、万華鏡図書館図書司書ジョンはイルくんをかばうように言った。

 しかし意外にもイルくんは、

「そうですね、僕、ペットで飼ってみたい動物があるんですよね。家では母に『絶対ダメ!』と反対され飼えなかったんですけれど、それを飼っても良いというのなら・・・」

「どんなペット?」

「ニシキヘビ」

「ダメ!絶対、ダメ! この桃源郷万華鏡でそんなもの飼うことは許しません!」

 困ったちゃん代表で怖いもの知らずのLaLaLaであったが、実は蛇は大の苦手。

「イルくん、モデルの仕事はしなくて良いです。カメラマンだけして下さい」

と言うだけ言うと、いつのまにかいなくなった。











 


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