第2話

 ここからは、今どきの小学生の学校生活について、いくつか特徴的な場面を取り上げてみていこう。まずは、ゲートボールが最も盛んに行われる時間、すなわち休み時間を取り上げる。


 2時間目の授業が終わると、子どもたちは校庭に駆け出してくる。もちろん、少しでもゲートボールをプレイする時間を多くとるためだ。子どもたちは大変手際が良く、休み時間開始1分後には、既にゲームが始まっている場合がほとんどだ。2分後には、スティックでボールを打つ「カン……」という音が響き渡っている。


 ゲートボールは団体競技である。したがって、誰とチームを組むかが重要になってくる。このため、チーム編成をめぐって喧嘩が起きたり、ゲーム中に内輪揉めが起きたりということも、以前は少なくなかった。しかし現在、多くの学校でチーム作りはシステム化されている。各児童の成績レートをもとに、似た実力の生徒同士がチームとなり、また相手も似た実力となるようにマッチングが行われるのだ。


 このシステムを生み出したのは、ゲートボール名人のDJゲボである。彼は各地の小学校でチーム分けを巡る争いが発生していたことを憂い、レートをもとにチーム分けが行える仕組みを考案したのだ。しかし、考案しただけでは使ってもらえるとは限らない。このシステムの普及は、DJゲボの影響力があってこそ可能だったのである。


 小学生の間ではゲートボールの巧拙すなわち序列であるため、ゲートボール名人たるDJゲボの発言は絶対なのだ。DJゲボの発言は小学生の間で「お言葉」と呼ばれているが、「ランダムにグループを作った方がいい」というお言葉があれば、翌日にはその仕組みが採用されることになるのだ。


 誤解しないでいただきたいのは、これは自由意思を無視した押しつけではなく、小学生がDJゲボを慕った結果だということだ。しかもこの提案は、争いをなくすためという大義があるから、保護者・教育関係者からもおおむね好評であった。こうしてDJゲボの人気は、今や小学生のみならず、保護者・教育関係者などにも広がりつつあるのである。


「やった!」


 ハジメは、朝のイメージトレーニングの甲斐あってか、今日は勝利することができた。勝者には、レートの上昇、ならびに最大級の賛辞がもたらされる。ちなみに、なんらかの物品が賞品として与えられることはない。以前、給食を賞品とした「賭けゲートボール」が全国的に流行したため、賞品を伴わせることにストップがかかったのである。ハジメのレートは57から59へと上昇した。


 なお、休み時間は一斉に生徒がゲートボールを行うため、校庭のスペースが足りなくなる。そこでこの学校は、ジャングルジム・鉄棒等の遊具を全て撤去した。また校庭脇には花壇があったが、これも更地にして、ゲートボールがしやすい人工芝に作り替えた。一人でも多くの子どもにゲートボールを楽しんでもらえればという、教育委員会の粋な計らいである。


 このように、小学生が快適にゲートボールを楽しめる環境が整備されているのが、今どきの小学校なのである。

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