night6:ピンクの象

 ハァ、ハァ。

ここは、どこだろう。まるでアニメの世界に紛れ込んだみたいだ。建物もどこかぐにゃりと曲がったりしていておかしな雰囲気だ。

 どこからか視線を感じる。いやな感じだ。暗闇に並ぶ奇妙な建物はアニメやトゥーンの奇妙さではなく、不気味さを内包していた。

どこからか、シャボン玉がフワフワとうかんできていてきれいだ。夜空のシャボン玉はキラキラと星のように流れ輝いている。


上で見とれていると物陰から音がしてくる。なんだ?とおもい、音のする方へ眼をやると着ぐるみの象が棒立ちで立っていた。


ふぅ、ただの着ぐるみかと思い、眼をそらし、辺りを散策するとこそこそとした足音が着ぐるみの方から聞こえてきた。まさかなと思ってそちらへ目を向ける。

そこには、象が棒立ちで立っていた。よく見ると発色の良いピンク色なのが部く見差を増してる。ただ、あいつ少し近づいてきてないか?


あえて象を見ながら後ずさりすると象は棒立ちのままそこを動かなかった。目をそらしてみる。うごいている? 顔を戻す。象は先程より距離を近づけて棒立ちで微動だにしない。


そうか、身続けながら走ればあいつは追ってこないな。

そう思って後ろを向いて歩いて行く。象は前方確認した一瞬の隙でしか動けない。だが、そうはうまくいかない。右側から走ってくる音が聞こえてくる。なんだと思うと象だ。え? あれはそこにいる象と同じじゃないか。二体いるのか?

二体は一方を僕が目視している間、一方が動くと言う連携プレイを見せてきた。


 追いやられる。象の走る早さが速くなる。

二体の象がいつの間にか三体、四体と僕を追いつめる。僕はとっさになって近くのドアから家へもぐりこむ。


僕は必死にドアを抑える。 ドンドンドン!とドアをたたく象の大群。だが、しばらくすると音は止み、静かになった。僕はホッと一息をついてドアにもたれ、座り込む。すると、どこかでラジオの様なノイズ音が走る。


『――きこえr―――きみにk――聞こえる? このパークは憎悪であふれている。逃がしてあげる。僕が、案内するね。』


物腰の柔らかい口ぶりで聞こえてくる。ラジオ音はプツリと消え、代わりに周りの電気が付く。奥は暗く、長く続いているようだ。行ってみるしかない。


歩きだすと、目の前にはアニメーターの使ってそうな机が乱雑に配置されていて、机の上には原稿が散乱してる。一つ一つ、確認してみる。どうやら、あの象のアニメの絵コンテだ。うさぎの絵コンテもある。これは、彼らは友人なのか・・・なんて書いてあるんだ?


絵コンテの右端には走り書きで『スニッキー・ラビット、ゾウのハリーと仲良くなる。』と書かれていた。あのゾウはハリーというのか。しかし、憎悪というのも気になる。


詳しく探索するとメモ書きを見つけた。



『〇月〇日、ついにパークがグランドオープンする。スニッキーは私の分身だ。きっと素晴らしいテーマパークになるはずだ。』


これは作者の走り書きか、創業者のメモか。まあ、興味はないが・・・


メモを戻し、先へ進む。


次はポスターがたくさん廊下の壁に貼られてある。『スニッキーの大冒険』、『スニッキーの宝探し』、『スニッキーとハリーのアラビアンナイト』


たくさんのポスターは映画か、アニメのポスターのようだ。見るにたくさんの映画が公開されていたようだ。だが、僕はそれらを全く知らない。いや、ここに来て思ったのだが、ここのテーマパークは全て知らないものだらけだ。有名なアニメではないのか?


ポスターを一つ一つまじまじと見ていると、その一つに気を取られているとポスターから先程のゾウがものすごい怒りの形相で急に現れた。驚き、よろめくと後ろのポスターが落ちてしまった。

まずいと思い、ポスターを戻すとひらりとメモの様なものが落ちた。

なんだと思い、見てみると


『〇月、アイデアが舞いおりてこない。いや、私は天才なんだ。スニッキーを作れたんだ。とりあえず、チョコだ。チョコをくれ。あれがないと手が震えて仕方がない。』


この人、スランプだったのか?

だけどメモの裏には明快な言葉で『ピンクのゾウだ! ピンクのゾウが見えた。 これは売れるぞ!そうだ、彼とは友達にしよう。彼には私と苦楽を共にした恩人から“ハリー”と名付けよう。』


さて今度は何を見せてくれるんだ?

ドアが見える。ドアには星型の飾りに名前が彫ってあり、そこには“ハリー”と書いてあった。じゃあ、ここはハリーの楽屋みたいなものか。 入るしかないか。


入るとそこにはハリーの姿はなく、ラジオと一枚の紙きれ、そしてカードが置いてあった。


急にラジオの電源が付き、ノイズ音が走った後、またあの声が聞こえてきた。


『僕はハリー。君なら、彼を助けられる。彼をどうか、この悪い夢から救ってほしい。』


というと切れてしまった。彼というのは誰なんだ? スニッキー、ということか?それとも、、紙切れには新聞の切り抜きがあった。そこには


『スニッキーランド原因不明の怪事件続き、閉鎖へ』


という書き出しからスニッキーランドの閉鎖への経緯が書かれていた。原因不明の動作不良、行方不明事件。一因としては古い社を無断で取り壊したことにあるという噂だった。


「ありがちだな。出来過ぎだよこんなの。ん?裏に書いてある。」


『あいつが、ハリーが裏切り、人気になった。とてもじゃないが腹立たしい。あのゾウを見るたび、あいつだけ売れるのがおかしい。パーク閉鎖もあいつのせいだ。死んだら呪ってやるからな。ノロッテヤル!』


怒りで文字が荒れている。こんなどうしようもない奴をどう救えと? と考えていると開かなそうな、絵で描かれたドアが開き、どうぞ、中へ。との声があった。カードを受け取り、暗闇を歩きだす。

歩きだすと青いうさぎが椅子に座り、机の腕を置き、両手を口の前で組んで待っていた。彼は視線を崩さず語りかけてきた。


『待っていたよ、君がどうやら一番最初に、そして最後に残った人間(ゲスト)だね。さ、ぼくとゲームをしようか。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る