night5:かがみの世界

歩き続けると初めて二股の道が見えた。右には『ミラージュ・エリア』、左には『カートゥーン・エリア』と書かれていた。どちらに行くべきか分からずにいた。

左からこちらへ向かってくる人影が見えてきた。警戒しながら立ちつくしていると、僕と同じくらいの年代の女性が走ってきた。少し汗ばんで豊満な胸を揺らしてこちらを向いてやってきた。 彼女はよれよれのTシャツ姿で胸元は目のやり場に、、いやいや、何を考えているのやら・・・。彼女が僕を向いて


「あ、あの 私と同じゲストの方ですか?」


「そうですけど、あなたは?」


「あ、君島もみじって言います。そういうあなたは?」


「柊蓮、です。 なんで走ってきたんです?今どれくらいですか?」


「今、二人目のキャストから抜け出してきて、今から三つ目です。」


さて、どうするか。自分自身、ここで二つの選択肢がある。一つ、彼女と別れて彼女が来た左側に行く。一つ、彼女と共に右側散策。ボクは迷わず、後者を選んだ。


「ここで、立ち話も何なんで一緒にこっち、イキませんか?」


いや、そういう風に言ったわけではないが雰囲気的に、うん、誰に弁明してるんだろう。彼女はちょっとからかうように


「・・・いいですよ。イキましょうか。」


と言った。ボクはどう返していいかも分からず、苦笑いするしかなかった。君島さんとボクは右側の方へと歩きだした。君島さんとは少し、気晴らしも兼ねていろいろ話した。彼女はモグラ、と呼ばれるモデルとグラビアアイドルの両方をするタレントさんらしく、今日はずる休みでテーマパークに行きたいと思い、ここに来たらしい。


何とも悲運な人だ。


もう少し二人きりの時間を、おっと、もう次のアトラクションのようだ。君島さんは恐がりなのか妙に僕の腕にすり寄ってくる。僕はがぜん、ヤル気にいや、やる気に満ち溢れ、「大丈夫ですよ。僕が付いてますから。」とガッツポーズをするものの声ははっきり言ってどもっていただろう、だが、彼女は少し返答に困った様子で苦笑いするも、同じようにガッツポーズしてくれた。


なんて優しい人なんだろう。


歩き続けると開けた場所に着いた。そこにはサーカスのテントを思い出すような派手なテントがあった。そしてそこには『マイキーのドッキリミラーショー』と書かれた新しめの看板があった。ここがおそらく三人目のキャスト。


ボク達は中へと進んでいく。中は名前の通り、鏡で覆われていた。普通の鏡、湾曲した鏡、大きな鏡。こんなにも鏡を見たのは初めてで、気味が悪かった。


入口で二人、ガタガタ震えながら留まっていると近くの鏡が仕掛けで開き、テレビがあらわになった。そこには洋アニメ調のピエロが元気よく飛び回り、僕達(ゲスト)に話しかける。




『フヒヒヒヒ! やあ、私はジェスター・マイキー。君たちのキャストさ。ここでは私とかくれんぼしてもらうよ。僕が鬼になるけど、その間にカードを手に入れて、僕にタッチ出来たら、その人の勝ち。簡単でしょ? それじゃあ、行くよ! よーい、スタート!』


そう言うとマイキーはモニターからスッと消えた。どうするべきか、僕らの目の前に広がる道は二手に分かれている。


ゲームは始まっている。見つかってはダメだ。


僕たちは二手に分かれて隠れることにした。


左手側にきた僕は、辺りを探索するとともに隠れる最適な場所を探した。君島さんは大丈夫だろうか。どこもかしこも鏡だらけでそれだけでも気が狂いそうだ。隠れる場所もない。・・・・・・



『おい、、』


どこから聞こえたんだ? まるで早起きして虫の居所の悪い僕のような声だけど


『こっちをミロ』


どっかで聞いたことあるけど、鏡か? 見渡すと、僕の中で一つだけこちらの僕を見つめている。


「君は?」


『聞くまでもない。 ボクだよ。』


鏡の中のボクは、仮面のような笑顔でこちらを見つめている。僕は驚いたが、どこか彼を別人として見ているような感覚に陥った。


『あの女、相当イイ女だな。そう思うだろ? 相棒。』


「いい人だとは思うよ。」


彼は舌打ちをして、いやらしい顔つきでこちらを見つめている


『いいや、お前はあの女を頭の中でいやらしい事を考えている。下心を持って話している。ボクにはわかる。だって、ボクはお前だもんな。』


「やめろ、うるさいぞ!」


まるで図星かのように、目の前の自分自身に言い訳してしまった。僕の声は響き渡り、鏡を揺らした。


すると、遠くから足音が聞こえる。


近づいてきている・・・? 僕の耳が正しければ後ろからだと思う。さっきの声を聞かれたのか?



とにかく、前へ逃げよう。僕は走った。


全速力で、その間にも隠れる場所を探す。こういう時、何も考えれない。


とりあえず、角を曲がってみる。ずっと思ってたけど、ここはショーのステージって言うより鏡の迷宮じゃないか。ずっと同じような道が続いてる。


もう、何回道を曲がったろう。ようやく身を潜められそうな場所を見つけた。行き止まり、そして多くの小道具や、雑用用具が雑多に置いてある。これなら物陰に隠れられる。


足音がどんどん近付いてくる。


息を殺す。


ピタッと足音がやむ。 息をのむ。きっと大丈夫だ。あいつにはこちらは見えていない。少し、こちらからはあいつの容姿が見えた。 あいつはやはり、さっきモニターに映っていたピエロにそっくりだった。だが、顔は狂気と淫猥が織り交ぜられたえも言えない表情だった。


観察しているうちに、あいつはどこかへ消えていった。


肩を撫でおろし、ひたすらに歩き続け、カードを探す。


「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアアア!」



叫びの様な断末魔のような悲鳴は、女の人の声のようだった。声のした方へ危険とわかりつつ向かって行く。


幸い、あいつの気配はない。

走るたびに心臓の鼓動が早まる。恐怖心か、運動しなさすぎなのかわからない。

この辺のはずだが、辺りを見渡して鏡を見つめる。


あ、この鏡、なにか変だ。よく見てみよう。


あっ、、このTシャツ見たことあるんだが、

あれは、君島さんの・・・。


僕は言葉を失った。君島もみじさんは鏡の中でみだらな姿で四肢は関節をねじられ、顔面は清廉な顔立ちとはかけ離れ、あざだらけで表情は恐怖に歪んでいた。しかも、これはもう、息をしていなさそうだ。見てられない。


ん? だが鏡の外から出ていた。彼女の手を見るとカードを持っていた。


ちょっと手を伸ばしてカードをもらう。


「申し訳ないけど、使わせてもらうよ。」


カードをもらった僕の手に彼女の手がからみつく。


『あなたはほんと、サイテーね。』


鏡は僕を嘲笑う。


『お前の欲望がこの子を滅ぼした。 いいよぉ~。僕。』


ひっ、とりあえずここから逃げよう。


ドタドタとマイキーの足音が聞こえる。遠回りして彼にタッチ、いや、このまま出口まで逃げるのが得策だろう。鏡しかないこの回廊を当てもなくただ、がむしゃらに走っていく。足音もだんだん近くなってくる。


死にたくない。

なんとしてでも生きたい。


くしゃくしゃになりながら出口へと一直線。大丈夫、ばれていない。


出口に檻のようなシャッターが閉じようとしている。後ろからはいつの間にか、ものすごい形相で奴が襲ってくる。逃げねば、殺されてしまう。彼女のように

閉まるシャッターにスライディングで滑り込み、外へ出る。それと同時に檻の向こうからガタガタと檻を揺らし、牙をこちらへ向ける姿はまるで獰猛な野獣を檻の中で鑑賞しているようだった。

 



しばらくは腰が抜けてしまって倒れ込んでいたけど、呼吸を整え、次のエリアへと向かうのだった。


こんな最悪(ごくじょう)の恐怖(かいらく)をもう、 (一度)味わい (たい)たくない。




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