night4:いけにえ
『さあ、まず一つ目の問い、たくさんこぼしても減らないものとはなにか。』
なんだ? なぞなぞか?だが、僕は一番に嫌いなものだ。しょうもなくて高い知識も必要もない。こぼしても減らない液体などあり得ない。と考えていると佐倉さんが震えた声で
「あっ・・・ぐ、愚痴!」
と言った。愚痴?何を言っているんだ。マテ・マテは睨みつけた。僕は終わったなと思った。やれやれと首を横に振っていると
『正解! 愚痴はこぼしても減らない。』
ええええ!? まじか。 そうか、なぞなぞというのはそういうことだった。要は言葉遊び。面白い。これからが本番だ。そう意気込んでいると、ゴゴゴという地響きと共に足場が傾き始めた。ふらつきながら止まるのを待って、止まってから確認すると僕の足場は下がり、佐倉さんは上がっていった。なるほど天秤はこけおどしではなかったのか。つまりは、このなぞなぞバトルで勝ったものは地上に出られるというしかけか。
『二つ目の問い、100-1は・・・』
思考を変えて単純計算とは舐められたものだ。格の違いを見せてやろうと急いで僕は手をあげ
「99だ。」
と自慢げに答えた。マテ・マテは驚いた表情と共に冷静にも
『問いは最後まで聞け馬鹿者。 100-1は何色かという問いだ。』
やさしいのかお手付きは免除してもらえた。いや、そんな場合ではない。また、なぞなぞか。いや、これならわかるぞ。もう一度手をあげ
「白だ。百から一を引くからな。」
『正解だ。 では次へと行こう。』
その後もいくつかなぞなぞを出されていったが、僕が健闘したのはさっきの一問きりで佐倉さんがメキメキと頭角を現し、下にさがる僕を忘れて快活に問題に答えていく。クイズバトルは最終番まで近づいていた。僕には到底逆転のチャンスは無いのか・・・。落胆しているとマテ・マテが状況を見かねて下に下がった僕の方を向き
『お前に逆転のチャンスを与えてやる。 この問題を解ければ天秤を逆の状態にしてやってもいい。やるか? 逆に間違えれば即、いけにえになってもらうぞ。』
いけにえ?よくは分からないが、この状況を打開するにはそれしかない。僕はその挑戦を受ける。
『では、行くぞ。 ある夜、10本のろうそくに同時に火をつけた。2分後に風が吹き、一本消えた。さらに2分後に二本消えた。窓を閉めたので、それ以上は火が消えることが無かった。さて、翌朝残っていたろうそくは何本あるか。』
ろうそくの長さや燃焼時間の規定がない、ということはこれもなぞなぞの様なものか。四分後の時点で三本、ろうそくの火が消えている。ということは残ったろうそくの数は・・・
緊張が走る。心臓の音がやけにうるさく感じた。こんなちんけな問題一つで、ここまで汗が出るとは。とにかく、答えは分かった。よし!
「答えは三本! 火が消えたろうそくが残っているからな。」
静けさが襲う。間違えたか?もしや、二本消えたというのは二分前の一本も含めていたのか?某クイズ番組の司会者のように僕を静かににらみ続ける。どこかでファイナルアンサーという掛け声が聞こえてきそうだ。心の中で僕は意を決してファイナルアンサーと答えた。
『正解だ! やりおるな。』
一気に僕の方の天秤の皿はグググっと上がっていく。横を見ると哀しそうにこちらを向く佐倉さん。ごめん佐倉さん、こうでなければ生き残れない。天秤に掛けられた時点で僕たちはどちらかがいけにえと呼ばれる敗者にならざるを得なかった。
僕はこの勝利で、彼の言っていた“いけにえ”という言葉の意味を理解した。だが、所詮はゲームだろう。彼には敗者のための抜け道がある。そう思うほか無かった。全ては次の問題で終わる。佐倉さんは意気消沈としている。彼にもチャンスはあった。次にもあるはずだ、ろ?
『それでは最後の問題だ。これに正解した者のみ、次の試練に進む。
最後の問い、白い無地の旗を、縦に三分割して塗りたい。赤、青、緑の染料を用意して作業にかかった。さて、何通りのデザインが考えられるだろうか。ただし、隣り合う色は同じになってはいけない。また、染料を混ぜてはいけないものとする。』
これは? 普通の算数の問題だな。だが、三色だけで隣り合わなければいいから赤、青、赤のように挟んでもいいということだから・・・と考えていると佐倉さんが大声で
「18通り!!」
と叫んだ。
まずい! 答えを先に言われてしまった。いや、彼の様子がおかしい。まるで僕に誤答を示しているように見えた。彼の目に焦りと共にやさしさが見えた。なぜ、そんなことをするんだ? 分かったなら自分で答えればいいものを・・・ただならぬ事情を感じた。邪神は不正解と言い、周りがシンとした。僕は考えた。
そうか、無地に色を塗るとして元の色、つまり白も含まれるのではないかと、彼に構っている余裕は無かった。僕は答えを出した。
「・・・36通り。」
『正解。お見事だ。やはりお主が三つ目の試練にふさわしい。さあ、いけにえにお別れを言え。』
僕は天秤の皿になった地面にうつ伏せになり下に顔を向けた。
「佐倉さん! なんで、分かってたのに敵に塩を送るような真似を!?」
彼はにこやかに
「死ぬなら、あなたなんかより自分の方がいいと思っただけですよ。自分の分まで頑張って。ここを抜けだしてください。それじゃ」
ガタっという音と共に彼は奈落の底へと落ちていく様子が見えた。僕の方はそれに反してせりあがっていく。すべてを分かって、彼はわざと間違えたのか。逆転の時も答えなかった時に何か言われていたのか。今ではそれはわからない。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。見渡すといつの間にかエレベーターに乗っていた。両開きのドアが開くとそこはただの一本道だった。天井にはアナウンス用のスピーカーがあった。
スピーカーからは先程の邪神の声が聞こえてきた。
『いや、見事なものぞ。お前は三つ目の試練に来ることができた。最期は簡単だ。ここを歩くだけ。ただし、振り返ったり、立ち止まってはいけない。もちろん逆走も行けない。ただこの道を真っすぐ行くのみ。そうすればお前の欲しているものが手に入る。』
他人を押しのけてまできたから胸糞が悪い。だが、ここまで来てはやるしかない。
味気のない道をひたすら歩き続けなければならない。ただ、振り向いては行けないとなると余計に振り向きたくなる。歩いているとそれと全く同じ速度で別の足跡が聞こえてくる。早足にすると向こうも同じように早足になる。逆に遅く歩いても同じようについてくるだけ。気分が悪くなる。遅く歩いていたら焦らせるように走ってくる方がまだましだ。
不気味だ。歩けど歩けど、道は続く、続く。道先の深淵は未だに出口を示してくれない。突然一方の足音は止んだ。だが、こちらは立ち止まって確認もできない。ひたすら歩き続ける。すると声が聞こえてきた。囁きの様な声は歩を進めるごとに大きくなる。
『裏切り者』『お前が死ねばよかったんだ』『嘘つき』
否定的、批判的な声がこだまするように聞こえてくる。あれは仕方のないことだ。
聞きたくない。
聞きたくない。
自分で自分を卑下したくなる。
悲観したくなる。
耳を塞ぎながら走ってこのエリアを抜けていく。声は脳の中に直接聞こえてくる。吐きそうだ。死にたい。だが、彼は僕に生きてほしいと言った。その言葉を胸に真っすぐ走る。駆ける。光がさした。 出口だ! そう思い、思いっきり走り抜ける。そうすると元きた入口の前だった。もういいのか?と立ち止まっているとマテ・マテの声がする。
『お前、三つ目の試練を乗り越えたのか!? 普通はあそこで立ち止まるはずなのに・・・仕方ない。望み通りくれてやる。』
そう言うと声はもう聞こえなくなった。目の前からはカードの入った宝箱がせりあがっていた。カードを取りだした。
手元には三枚も揃った。この三枚のカードで思い出した。これはもしや、トランプのカードなのかと。残り二枚ということはポーカーでもするのか?三枚の絵柄はなんとなく、クイーンやジャックのようにみえた。なら次はキングやエースだろう。と考えを巡らせつつ、佐倉さんのためにも生きて帰らねばと思った。
僕はまた、歩きだした。
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