night2:もりのようせい

アンバサダーはぼくたちにこのテーマパークの説明をしてくれた。ここは一度入れば現実のような非現実のような世界へと引きずり込まれ二度とは帰って来られないテーマパーク。それがスニッキーランド。遊園地の秘密を守るために僕たちは眠らされてきたのだがはっきり言ってこれは誘拐、監禁に近い。だが、アンバサダーは朗報と共に提案をしてくれた。


『おや? ご不満のようですね。そんなに出たいですか? この夢の世界から・・・』


自分から望んだとはいえこんな馬鹿げた拉致監禁をされては帰りたくもなる。僕も他にいるゲストと呼ばれていた人たちも帰りたいと首を縦に振り、アンバサダーに懇願した。そう答えると椅子の前から機械仕掛けで出てきたのはネームプレートとトランプのカードくらいの大きさのカード。

 カードにはよくわからない絵柄が書かれており、ネームプレートにはしっかりとぼくの名前である『柊 蓮』と書かれている。足は拘束されたが一時、手の拘束は取られてアンバサダーはそれを手に取るよう促した。彼は説明を始めた。


『それでは、ツアープランを説明致します。あなた方に渡した二つはそれぞれ、ネームプレートは出入りする用のパスと最後のゲームに使用する重要な切り札です。

 さて、今回のツアーですが、あなたたちゲストにはこれからそれぞれに、様々なエリアを渡っていただき、そのカードをあと四枚、我々キャストからもらってきてもらいたいのです。まあ、その方法がデスゲームなんですけどね。』


デスゲーム?何を言っているんだこの人は。これは普通のテーマパークではないことははっきり分かった。だが、僕は恐怖感と共に同時になぜかワクワクしていた。きっとどんな形でも非現実的な刺激を体験したいという欲求からなんだと思う。


アンバサダーはこちらをにやりと笑いながら見つめて『ステキな旅をお楽しみください・・・。』とだけ残した。そういうと言葉に連動しているのか椅子の下が仕掛けで開いたと思うと、一気に下の方に落とされた。椅子も一緒にまるで一人用のジェットコースターのようだった。その間も少しだけどこから声がするのか分からないが注意として最後に『キャストのいうことは絶対に聞くように』と念押しされた。









 

 風を感じながら後ろを向いて走る椅子は暗闇の中を通って行ったと思うと僕はいつの間にか外に放り出されていた。勢い余って倒れていたけど起き上がって外を見ると夜空が輝いていて目の前には古びれた水系アトラクションが見えた。アトラクションの方に足を運ぶと急に電気が付き僕を迎え入れているようだ。

 入るエントランスの看板にはかすれた文字で『DownStream......forest』のような文字が書かれていた。中に恐る恐る入るとアトラクションに入る前の物語導入部分がなんとなくぞんざいに置いてある資料で分かった。おそらく妖精の森を駆け抜けていくというファンタジーライド“だった”のだろう。“だった”と言うのも、人もいないし、アトラクションの中のポスターは、やぶれていて、どこかで異臭もしていた。

 乗り場の方へ向かうと、異臭がすると感じた原因が分かった。そこには水につかったまま、整備も掃除もされていない乗り物の錆とレール、そして多くのゴミが浮いていてそれがさらに僕の鼻を捻じ曲げる。外は電気ついていたのにも関わらず、中は電気が通っていなくて、スマホのライトを進行方向に向ける。乗り物も当然動きそうにない。それじゃあ、ここを歩けと言うのか? こんな汚水の中を? 


 と戸惑っているとライドの先の方から女の声で『こっちにおいでなさい。』という声がかすかに聞こえてくる。そう言われたからには、仕方なく僕はゆっくりとレールに足を入れるプール開きみたいに楽しいわけはなく、水はふくらはぎの中腹くらいまであった。感触はなんというか、下水に浸かっていると感じだと思う。じゃばじゃばと音を立てて進んでいく。

 当然灯りは無くスマホのライト機能で何とかしのぐがこれでいつまでもつか。先へ先へ進んでいくとテーマライドなのでいろんな人形がおいてあり森にすむ動物や妖精らしき人形まで様々だ。反響して聞こえてくる『おいで、おいで』はどんどんと近くなっていた。スマホのライトを駆使して辺りをきょろきょろしているといきなり右側のスポットライトが光った。

 そちらを向くと今まで見たことのない大きな女の人の人形が置かれていた。人形は独特の顔立ちで下から見上げているせいでよけいに不気味に感じた。何かの恐怖演出かともう一度進んでいた方へ行こうとすると突然さっきの顔が目の前に現れた。どうやって顔出してるんだ?急に現れたものだから訳も分からず汚い水の中で尻もちをついてしまった。人形は僕をさっき自分がいた位置まで振り向かせてから話し出した。


『私に気付いたのにスルーって、ゲスト失格じゃないの!? まあいいわ。アンバサダーから話は聞いていると思うけど私があなたの一人目のキャスト「ミス・ラーラ」よ。あなたは私のいうことを聞かなければならないのよ。』


ミス・ラーラといったその人形はまるで生きているように動いていた。僕はオカルトとかには興味はないが今回ばかりはこの言葉がよぎった。これは霊的な何かなのか?不気味に動く彼女は僕に顔を近づけながら提案をしてきた。


『カードがほしいんでしょ? だったら、あれに最後まで乗って突き当りにあるぬいぐるみを取ってきてくれない? 私それがないと眠れないの。帰りも乗り物を使ってね。でないとぬいぐるみ濡れちゃうから。じゃあお願いね。』


そういって彼女は暗闇に消えていった。


いったいなんなんだ、この場所は、だいたい乗り物なんてどこに・・・ とぶつくさ言って物色していると、乗り場で見た木製風に作られたライドがなぜか一人用のサイズになって置いてあった。


 僕がそれに乗り込むとバーが勝手に閉まり、勝手に動き出した。急に動いて体がのけぞってしまったけど何とか体勢を立て直す。


暗い森の風景がデザインされた壁が圧迫感を生み出しているのかそれとも森そのものが生きているのかは理解できなかった。本物のような音響効果のような動物たちのクスクスという笑い声が聞こえてきて一層不快にも不安にもなったが、こんな体験めったにできないとも思った。

 


キイキイと音を響かせながら乗り物に乗って進行方向に進んでいた。



だが、それもダメになったのか、急に止まりだした。




 いったいどうすればいいだろう。降りてもばれないだろうか、真下の川を見ながら考えていると笑みがこぼれてきた。ライドから降りるという行為がこんなにも背徳的で恐怖感と興奮が入り混じるのだ、降りろという甘美な悪魔のささやき。それに逆らえず、僕は衝動に駆られて乗り物から降りた。

またあの気持ち悪い感覚に陥る。今度は少し深くなっていたもののそれ一層恐怖と興奮で鳥肌が立つ。片足を入水するとともに、ハッとして濡れないうちにスマホをポケットから取り出し乗り物の上にライトをつけっぱなしにしたまま後にした。

 レールの上を歩いていたにも関わらず歩くたびに深くなっていく感覚が襲う。さらには光も当然遠ざかっていく。ぶくぶくと泡を立てながらなんとかつま先立ちで立ち泳ぎしていくと上り坂になっていてそこからは浅瀬になっていた。そこからはしっかり歩いてこれた。浅瀬の先には木製のロッキングチェアに座るぬいぐるみがおいてあった。


「これのことか。 よし、あとは帰るだけか。」


ぬいぐるみを持ち出して、来た道を戻る。水はさっきより浅く、何とか手を伸ばせばぬいぐるみはあまり濡れずに済んだ。止まった乗り物へ戻ってきた。よくぬいぐるみを調べると背中のジッパーをあけると初めに渡されたカードと同じで絵柄の違うものが入っていた。カードを取って動かなくなった乗り物を動かそうとしたが、乗り物は動く気配は無かったのでそのままスマホを手に取って大きな人形が現れた場所まで戻ったが誰もいなかった。仕方なく先へ進むと水から伝わる振動が浮いた落ち葉を揺らしていた。その揺れはどんどんと大きくなっていく。おそるおそる振り返ると暗がりに光る二つの怪しい光、それはミス・ラーラだった。彼女の鬼のような形相が明りで倍増していた。


「なんだ、ぬいぐるみなら無事だぞ。乗り物は乗り捨てたが…」

「ヌレ、濡れ・・・てる。ほんの少しぬいぐるみ濡れてる。オマエ、降りたな?」


だんだんと近づいてくる。逃げなきゃ。ぬいぐるみは持っていた手からするりと落ち

てしまった。それを見て余計に怒り狂ったミス・ラーラは川に見立てた水路を水音を立てて襲ってくる。急いで僕も水路をかけぬけようとするが水に足を取られて思うように走れない。距離感は暗くて分からなかったが、感覚的に近くなったり遅くなったりを繰り返しているようでまるでもてあそばれているようだった。アトラクションも既に終盤に訪れる落下に備えた上り坂だった。かろうじて水は少なめだが、なにぶんつるつる滑る。僕は端によって点検用の手すりを使って何とか登っていく。三分の二くらい言ったところでへとへとになっていると大きな人形もその大きな図体を揺らして両側の手すりを使って上り坂を昇っていく。これまでにない焦りと緊張は手にも伝わり冷や汗が手すりを滑らせる。僕は最後の力を振りしぼった。何とかあいつから逃れたい一心で。一心不乱にかけのぼるとやっと落下する地点に到達。近くで見ると滝のような角度だが背に腹はかえられない。

 決心して下へと飛び込む。大きな人形は何か発していたがそんな言葉を聞いている暇などない。急流はとても早く滑って行く。下の方を見たが気が付かなかった。ルートの柵が決壊してパークに流れ込んでいっている。そのまま僕は排出物のように流れていった。

 ようやく地面に辿り着いた。と思うとホッとした半面こんなのがまだ続くのかと思うとさすがにゾッとした。早く終わらせたい気持ちで僕は矢印にむかって足早に進んだ。

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