第48話 斎と幸岐
「これを飲んでほしい」
「これは…?」
家に帰って、向かい合って座った二人。斎は懐から小さく折られた和紙を取り出して、幸岐の前に差し出す。
「これは鬼の宝。名のある大鬼の角を粉状にしたもので、まあ簡単に言えば健康体を保つための薬だ」
「鬼の宝…」
小さく繰り返した幸岐は、和紙を開いた。中には粉薬のようなものが入っている。
「…お前が笙花に依頼したものは、大体見当がついている」
「…」
「俺に相談してほしかったとか、隠さないでほしかったとか、そういうのは後だ。不老不死の薬…そんなものは、この世界のどこを探してもない」
はっきりとした否定に、幸岐は唇を噛んだ。
そんなことはわかっていた。笙花にも何度も言われ、天命を全うしようと諭されたが、それを拒否したのは幸岐だ。
どうしても、斎と同じ時を歩みたかった。置いていかれたくなかった、それだけ。
それだけだった。
「…じゃあ、私は、旦那さまと生きられないということですか」
「そんなことはない」
「でも、今のままじゃ私が先に死んでしまう!」
ぐっと拳を握り込む。爪が掌に刺さるが、そんなことを気にしていられる状況ではなかった。
「いやです、そんなのいや、旦那さまと一緒にいたい、だけなのに…!」
「わかってる。俺だってそうだ」
感情が高ぶっていく幸岐に対して、斎は冷静だった。
「だから、これを飲んでほしい」
「…これ、を…?」
斎が再度角薬を差し出した。
「幸岐の天命が尽きるその時まで、一緒にいよう。その後は、二人で黄泉にいこう」
幸岐は目を大きく見開く。
だってそれは、幸岐が死ぬときに斎も死ぬという意味だ。長く生きることができる彼が、幸岐と共に黄泉に下ると。
「だ、旦那さま…?」
「だから、その時まで健康に生きてくれ。できるだけ長く、この世にいられるように」
幸岐が斎を見つめる。その顔は嘘をついている様子はない。
「…ほ、本気ですか…?」
「ああ。お前が死ぬとき、俺も殺して連れて行ってくれて構わない」
「な、なんで、そんな」
斎はふっと笑った。
「お前が置いていかれたくないように、俺だって置いていかれたくないんだよ」
混乱する幸岐を楽しそうに見つめながら、斎は正座を崩して膝に頬杖をつく。
「健康で、一緒に長生きしよう。幸岐が天命を迎えるその時まで」
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