第47話 斎と幸岐

幸岐が目を覚ますと、外は段々と薄明るくなっているころだった。

ぼんやりとした目で、窓の外を見つめる。見慣れない窓枠が笙花の部屋であると気付いて、ゆっくりと起き上がった。

周りを見渡す。すぐ下のローテーブルに突っ伏すようにして笙花が寝ているのを見て、自分が掛けていた毛布を羽織らせた。そして、彼女のすぐそばにある青い小瓶に気づく。


きらきらと朝日を反射する小瓶。青い色は暗い空のようで、目を凝らしてみると星のような小さい粒が浮いている。夜空のようなそれに目を奪われて、手を伸ばした。


「幸岐」


突然呼びかけられたことに驚いて手を引っ込める。恐る恐る振り向くと、窓枠に足を掛けた斎がそこにいた。日が昇り始めた空に、黒い翼が広がる。


「…だんなさま」


声が震えている。斎の眉がぴくりと動いた。勝手に家を出てきたこと、連絡もせずに外泊したことが頭を過って、怒られると思った幸岐は小さく肩を竦めた。

手が差し伸べられる。


「一緒に帰ってくれるか?」


朝日を背にした斎は、伺うように尋ねた。

濡れたような黒が光を反射してきらきら輝く。それを見つめる幸岐の瞳に、涙が滲んだ。


「…わたしを、置いて行かないでくれますか」


ぽろりとしずくが落ちた。それを見て、斎は微笑む。


「ああ。置いて行かない。ずっと一緒にいよう」


幸岐がゆっくりと手を伸ばす。彼女の手が触れるより早く、斎がその手を取った。

細くなってしまった幸岐を抱き寄せる。


「ずっと、ずっと一緒だ」


確かめるように、言い聞かせるように呟く。斎の胸の中で、幸岐は何度も頷いた。

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