第27話 狛
「おはようございます旦那さま」
「おはよう」
いつも通りの朝。幸岐の体調も悪いようには見えない。何も変わらない、昨日と同じ朝。
「本日のお仕事は?」
「三つ向こうの山の主から依頼が来てるから行ってくる。ちょっと帰りが遅くなるかもしれない」
黒い羽織、嘴の尖った面。仕事着を受け取った斎は、胸の位置にある幸岐の頭を撫でた。
「…旦那さま?」
「…どうした?」
「…いいえ。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
嬉しそうに撫でられ続けている幸岐に見えない位置で、斎は唇を強く噛んだ。
☆ ★ ☆
「は~~~~~…もう、…あ~~~~~! あいつらマジでさあ! 俺使い荒くない!?俺のことなんだと思ってるわけ!?」
昼休みの屋上で、狛は周りに誰もいないことを確認してから叫ぶ。昼食にと出社途中のコンビニで買ったおにぎりに噛り付きながら、何かを決意したような瞳の斎を思い出す。
「笙も笙だよ、俺たちに相談してくれればいいのにさあ…」
相談してくれれば、それは笙花が人間の男と駆け落ちしようとしてる時にも思ったことだった。
人間の男に恋をした彼女は、彼を喪うまでまともな相談をしてくれなかった。一人で抱え込んで、一人で戦って、一人で後悔する。昔馴染みとは言え、全部を話してくれるとは限らない。
「…幸せが、永遠に、ねえ…」
新たなおにぎりのラベルを剥がしながら、ぽつりと独り言ちる。
永遠なものなどない。人間より長いとは言え、狛や斎にだって寿命はある。妖も、人間も。いつかは死ぬのだ。
それでも、幸岐の気持ちがわからないというわけではなかった。自分たちとは違う、人間という存在。か弱く、もろく、狛たちより、早くに死ぬ。彼女にとっては、それが不幸だった。だから、不老不死の薬を求めた。
わかってはいたことだが、可愛がっていた妹分の突飛な行動に、狛は今日何度目かわからないため息を吐いた。
噛り付いた二つ目のおにぎりは、なんだか味が薄い。
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