第26話 斎と狛

「どんなもんを報酬で受け取るのかわからないが、本物の蓬莱はもうない。人間の老いを止めるなんて薬もない。妖にならない限り、人間は不老不死にはなれない」


斎はきっぱりと言い切った。しかし、でも、と続く言葉は弱々しい。


「…笙がなんでそんな不確かなものを使わせるのかはわからない。あいつは、…あいつは、自分の男にすら、不老不死の薬を飲ませなかったのに。なんで、幸岐に…?」


笙花がかつて愛した人間の男は、天命を迎えて死んだ。天命まで、笙花はその男に添い遂げたのだ。周囲の反対を押し切って、相手の家族に悟られないよう細心の注意を払いながら。看取ったのは笙花ではなく彼の妹だったらしいが、笙花は最期まで男を愛して、黄泉に送った。


蓬莱の偽物が出回ったのは丁度、笙花が男と添い遂げるために実家と縁を切る騒ぎをした前後のことだったと思う。実家から「男が不老不死であるなら受け入れる」と言った旨の妥協策もあったようだが、そんな中でも、彼女は偽蓬莱を使わなかった。


「…もしかして、後悔、してんのかな、笙…。あの時飲ませておけばよかったって…」

「馬鹿言え。飲んでたら天命を迎える前に死んでた。事実、飲んだ瞬間に死んだ人間もいる。効力に証明がなかった以上、飲ませなかった笙の判断は正しい」


だからわからないのだ。どうして笙花が、幸岐に、そんな危険なものを渡すのか。

笙花は幸岐を可愛がっている。それは狛も一緒だ。しかし、女同士だから話しやすいのか接しやすいのか、幸岐はよく笙花に構う。斎の目から見ても、二人の仲は良好だ。


「…笙に直接聞こう。なにか、何か俺たちにはわかってないことがあるはずだ。笙の口から真実を教えてもらおう」

「…ああ。そっちは狛に任せていいか」

「? 斎は?」

「…俺は、ちょっとやることがある」


斎の瞳は、何かを決意したような色を帯びていた。

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