第13話 斎と狛
斎の貧乏ゆすりは止まらない。
「心配しなくても大丈夫だよ…」
「わかってる」
「じゃあその貧乏ゆすりやめろよ」
「…」
狛に膝を叩かれ、ぴたりと振動が止まる。
「何をそんなに心配してんだよ? 幸岐ちゃん連れてったのは笙で、『オンナノコドウシのお茶会』だって」
「わかってる」
再度答えた斎は、苦々しく顔を歪めた。そして黙り込む。それを狛は不思議そうに眺める。
斎は歪めた顔のまま、小さく口を開いた。
「…わかってるんだけどよ…なんか、ひっかかるんだよ」
「なにが?」
「…何の話してきたか、言わねえんだよ」
笙花と会って来た日の夜、幸岐はいつも嬉しそうににこにこしている。しかし、斎がわけを聞いてもやんわりとはぐらかされるだけ。何をしてきたか、何を話してきたかは教えてもらえない。
最初は「まあ男に話せないようなこともあるだろ」と思っていたが、最近二人で会っている頻度があまりにも高い。
「いや…俺から見たらお前らの間入る隙もないくらい仲良しじゃん…幸岐ちゃんも疑う余地なくお前のこと大好きだろ…?」
何を気にしてるのかわからない、と言う狛。斎は顔を伏せた。
「…俺は妖で、幸岐は人間だ」
俯いたまま、小さく零す。
幸岐を育てたのは斎だ。両親の顔すら覚えていない彼女をここまで育てたのは、人間ではなく天狗である彼だ。
「…本当は、わかってたんだよ。あいつが七つになった時、人里に返すべきだって。わかってた。…わかってた、人間と妖じゃ生きる時間が違うって。だから、人間のところに返してやるべきだったんだ」
天井を見上げた斎の瞳は、薄く水膜が張っていた。
人間に囲まれて、人間と同じ時間を過ごした方が、彼女は絶対に幸せになれる。神隠しを装って、しれっと返してやればよかったんだ。
そう思うのに、そう思ったのに。
他でもない斎が、幸岐を手放せなかった。
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