第10話 斎と幸岐
幸岐がぼんやりと意識を浮上させたのは、長針と短針が真上で重なった時のことだった。
寝ぼけ眼が時計を捕える。
「…じゅうにじ!?」
理解すると同時に飛び起きる。掛けられていた布団が跳ねた。
「ああ、起きたか。おはよう」
半分開いた引き戸から顔を出した斎は、お玉を片手に持っている。
「お、おはようございます、すみません、寝過ごしましたっ」
「大丈夫だ。まだ寝起きだが、食べるか?」
幸岐が口を開くと、同時に腹が鳴った。
「…食べ、ます…」
「ふっ、まああれだけ寝てれば腹も減るだろ。着替えてから居間においで」
微笑みながら引き戸を閉める斎。
赤い顔のまま布団を畳み始めた幸岐は、ふと昔のことを思い出していた。
空腹状態で餓死寸前の幸岐に手を差し伸べたのは、天狗の斎であった。
そのあと彼は、自身の社に幸岐を連れて行った。綺麗な布団に寝かせ、その間にご飯を作ってくれた。
お腹に優しいようにと温かい粥、ひじきの煮物、小さく切られた漬物、ふわふわの卵焼き。
『食べられるだけ食べろよ。足りないならまだあるからな』
居間へ続く扉を開ける。
「ちょうどいいな。もう準備できてるから、一緒に食べよう」
「…はい」
あの時から比べれば、幸岐は成長した。髪も伸びた。家事を全てこなせるようにもなった。身長も伸び、どんどん斎と目線が近くなっていく。
定位置に座ると、目の前には、白米と味噌汁、野菜炒め、そしてあの日と同じ、ふわふわの卵焼きが置かれていた。
「私、旦那様の卵焼き好きです」
「そうか? 昔からこれはよく作ってたからな」
いただきますと手を合わせ、卵焼きを箸で斬る。
「…卵焼きは、絶対に越えられませんね」
「はは、そんなことはないさ。幸岐は料理が上手いからな、俺くらいすぐに越えられる」
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