第5話 笙花

狛は得意げに胸を逸らす。


「見たか。俺だってやればできるんだぞ」

「…明日は槍か…」

「おい斎。聞こえてるぞ」


小さな呟きを目ざとく拾った狛は眉間に皺を寄せた。


「いやあ、でも、そっかぁぁぁ狛もリア充の仲間入りかぁぁぁ本格的に独り身はアタシだけかぁぁぁ」

「笙うるせえ」

「いいねえ斎は可愛い健気なお嫁さんもらってさ!?」


ばんばんと机を叩く笙花に、斎は眉を顰める。


「だいぶ酒が回ってきてんな」

「うん、だいぶ。幸岐ちゃんこっちおいで。被害にあわないよ」

「ねえそう思わないみゆちゃぁぁぁぁぁぁん」

「あー遅かった」


手招きしたが、その直後に幸岐は捕えられた。びっくりして固まっている幸岐をよそに、笙花はすりすりと頬擦りする。


「もぉぉぉこんな健気に可愛く育っちゃってさぁぁぁもぉぉぉ昔は斎見ただけでガクブル震えてた可愛いみゆちゃんがさぁぁぁ」

「あっ、あの」


ぎゅうぎゅうと抱きしめられる幸岐は困ったように眉を下げて斎の方を見た。


「おい笙、離れろ嫁が困ってる」

「もぉぉぉいつの間にか料理も上手になっちゃってさぁぁぁ」

「聞け阿呆」

「子供の成長早いよぉぉぉ」

「…眠らせるか」


低く呟いた斎に、幸岐の顔がさっと青ざめる。


斎の言う「眠らせる」とは、この場合「気絶させる」を指す。そういえばこの間も「眠らされてた」なと思い出し、心の中で苦笑いした。


「…本当に…大きくなったねぇ…」


笙花が優しい手つきで幸岐の髪を梳く。色違いの瞳は慈愛を帯びていた。

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