第4話 狛

「「ええ!?」」


二人の叫び声の後、廊下から重い落下音が聞こえた。斎が慌てて様子を見に行く。


「大丈夫か?」

「あ、はい。すみません、驚いてしまって」


幸岐が床に落ちた小さめの酒樽を拾い上げる。斎はそれを奪い、居間に持って行く。

ぺたぺたとその後を付いていく幸岐。


「あ、幸岐ちゃん大丈夫?」

「すみません…声に驚いてしまって」

「いやいや、二人が過剰にびっくりするのが悪いんだよ〜」


ひらひらと手を振る狛の肩を、笙花が掴む。


「狛、狛。冗談でしょ?」

「酷いな。冗談なんかじゃないよ」

「あの狛が…? 奥手でヘタレで女の子を前にするとテンパっちゃう狛が…?」

「おい笙。いくらお前でも噛み付くぞ」


笙花の顔には、有り得ないという字が見えるようだ。

斎は酒樽を開ける。そして器に注ぐ。


「わっ!? だ、だだだだ旦那さま!? 器から溢れています!」

「あっ、すまん」


慌てて酒樽を起こす。溢れた酒を幸岐が拭き、斎は申し訳なさそうに項垂れる。

狛は笙花の手を剥がし、これ見よがしに溜息をついた。


「おいおい斎もかよー。お前らは俺をなんだと思ってるんだ?」


「「仔犬」」


「お〜し、お前らそこ動くなよぉ? 喉笛喰い千切る」


同時に同じ事を言った二人。こめかみに青筋を立てた狛が立ち上がる。


「だって本当のことじゃん! あれっぽいよ、ポメラニアン」

「ぽめらにあん?」

「あ、みゆちゃんは知らないか。あのね、白いもふもふの小型犬よ」

「…確かに狛さんも、変化すると白い狛犬姿ですね」

「幸岐ちゃん? 俺そんな小さくないよ?」

「狛…嫁の喉笛食い千切ったら、千切りにするぞ」

「うん、俺いつ幸岐ちゃんの喉笛喰い千切るって言ったっけ? お前らの喉笛狙ってんだよ!」


そんなことより! と笙花が狛の膝を叩く。


「本当なの!? 女の子ご飯に誘ったって!?」

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