第14話『愛想の理由』
「秋真さん、おはよう!」
「おはようございます。 陽菜様」
「相変わらず、お前は挨拶が固ぇな」
今日も晴天で気持ちが良い。
そして今日は、昨日回れなかった東の国を回る予定だったんだけど。
「えっと、何で大河さんまでいるの?」
「別に良いだろ」
何故か大河さんも一緒なのだ。
本人は東の国に用があるから、と言っているがその真意はわからない。
用があると言われてしまえば、追い払う事なんか出来ず、結局三人で東の国へと向かった。
「あの、大河さん?」
「何だ?」
「用があるんじゃ」
「あぁ、そうだ」
「お前、こっちにまで用があるのか?」
「そうだ」
東の国に来て、町に来ても尚、私たちと一緒にいる大河さん。
正直、もう"用がある"だなんて信用できない。
でも何で着いてくるんだろう。秋真さんと一緒にいたいとか?……いやそれはないか。無い方向であって欲しい。
じゃあ……私が何かしないか見張り? でもそうなら、私の事をまだ受け入れてくれないということになる。
「あら、秋真様と大河様がご一緒にいるなんて珍しいわね」
「新しい聖妖様かしら?」
そしてやはり私たちは妖達に囲まれた。
ここの国の妖は、烏天狗が多いのかと思ったのだが他の国より少ない気がする。
この町にあまりいないだけかな?
「秋真さん、この国には烏天狗は少ないの?」
「そうですね。 他国より同族は少ないです。そのかわり違う種族の妖が多くいます」
「そうなんだ」
妖達に囲まれながらも、秋真さんの国事情を聞いていれば少し離れた場所で、大河さんは女性の妖に囲まれていた。
「聖妖様!今日は町案内ですか?」
「聖妖様!今度うちの店来てくださいね!」
「あ、あの……」
「お前ら、あまり聖妖様を困らすな」
他の国でもそうだったように、質問攻めしてくる妖を秋真さんが追い払ってくれてやっと解放され、ホッとため息をつく。
大河さん周囲の妖はまだいて、彼はモテモテだ。
「スゴい人気だね」
「普段大河は態度は良くありませんが、国民には愛想が良いですから」
「ビックリするくらい愛想良いよね。 それに見た目も良いからきっと、尚更人気なんだろうね」
「……気になりますか?」
「っえ!?」
「とても気になされていたようでしたので」
「何で、愛想良くしているのかは気になるかも」
少し離れた場所から秋真さんと二人で、大河さんの様子を眺めながらそんな話をしていれば、秋真さんがなぜ愛想良くしているのか教えてくれた。
「それは国民を不安にさせない為なんです」
「不安に? どういう事?」
「前の北の国の長はとても愛想が悪く、国民に対して態度が悪かったのです。それに国民に自分の言うことを聞かせて、駒扱い」
「え、その時の聖妖様は何も言わなかったの?」
驚きの真実を聞き、目を見開くもすぐに疑問が浮かんだ。その頃にも恐らく"聖妖様"はいたはずだ。それに私だったら、注意するし止めさせる。
そのくらいの権利は、きっと聖妖様でもあるはずだから。
しかし、私の言葉で秋真さんは首を横に振る。
「言いませんでした。その時の聖妖様は長としての行いは口に出すことを嫌がったのです」
「そう、なんだ」
「そして前の長の寿命が来て、新たに大河が長になったが、国民は長が変わってもまた駒扱いされるんじゃないかと、当初は怯えていました。それに大河自身も長からは酷い扱いを受けていたので、それであいつは国民達に同じことにならないと思わせたくて、ああやって国民に優しく接しているのです」
「そっか……」
楽くんからは"町の者のため"と言われたが、そういう意味があるんだとわかった。だからあんな風に態度を変えていたんだ。
大河さんの周りにはまだ、彼に色目を使っているものやべったりとくっついている女性。それに腕に絡み付いているものもいる。そんな彼女らを一切嫌な顔をせず、笑顔で話している。
あれも、国民を不安にさせないため?……いや、ただ女性に囲まれて嬉しくなってるだけな気がする。
「まぁとにかく、秋真さん」
「はい」
「大河さんは、用があるみたいだし私たちだけで行こう」
「そうですね」
私達は、女性に囲まれている大河さんをそのままにして、次の町へと向かった。
「あぁ、そうだ。 この国には覚って妖はいる?」
「覚ですか。 えぇ、数人ほど」
「そう」
私は昨夜、突然現れた覚という妖を思い出したのだ。青い髪の糸目の彼。
ここには、覚の妖がいるみたいだからこの国にいるのかな。
言っていたことが気になるし、どうやって来たのか、どうやって帰ったのかも気になる。
しかし、恐らく長達に話してしまえば突然城に来た彼が咎められてしまう気がして、昨夜の事はまだ誰にも話してはいない。もちろんお岩さんにも口止めしている。
──でも今会って聞いたら、昨夜の事がバレちゃうな。
「覚達にお会いなりますか?」
「ううん。 いいよ、今度にする」
「そうですか」
昨夜の彼の顔を思い浮かべながら、首を横に振る。
あの妖もやっぱりかっこよかったな。皆、何で可愛かったり、美人だったり、かっこよかったりなんだよ。羨ましいなぁ。
秋真さんと話ながら、心の中でため息をつき、町と町の間にある林を歩いているときだった。
「おいっ」
「!!?」
突然、頭を何かで掴まれたような気がして。
聞き覚えのある声は、隣で歩く秋真さんではない事くらいは直ぐにわかった。
肩を震わせ、振り向けば、頭を鷲掴みにしている大河さんで、彼は睨み付けるように私を見下ろしている。
……あ、あれ。 私を認めてくれたのでは? 何で、そんな睨むの!? 私何かしましたか!?
「ちょっ、痛い! 痛い!」
見下す大河さんに対して、"何故ここにいる"と言いたげな表情をしてしまっていたらしい。
それが気にくわなかったのか、はたまた別の理由でなのか、頭を鷲掴みにしている手に力を込めてくる。
待って、本気で痛い!めちゃくちゃ痛いよ!私が何をしたというんだ!
「痛い痛い痛い痛い!」
「大河、聖妖様に何をしている!! やめろ!」
無言で私の頭を握りつぶそうとする大河さんの顔はものすごい悪そうな表情を浮かべている。
だが、すぐに秋真さんが大河さんの手を頭から離してくれたお陰で助かった。……欲を言えばもっと早く助けてほしかったけど。
まだ痛む頭を抱えながら、大河さんを睨み付けてみる。
「いきなり何するの!」
「お前、俺を置き去りとは良い度胸だな」
「はぁ!? 置き去りしてないから! 用があるんでしょ!? 私達についてこなくて良いから!」
「おまっ、生意気言いやがって!」
何だか私が悪いだなんて言い出したもんだから、ムキになって言い返してしまった。
以前の事があるせいで、少し後悔したものの大河さんはムッとした表情を浮かべたまま。あの日の冷たい眼差しは向けられることはなかった。
──良かった。
なんて安堵のため息を心の中でついていれば、口喧嘩してしまった私達の間に入るように秋真さんが口を出す。
「大河、陽菜様と一緒に回りたいなら素直に言え」
「!……違ぇ! こいつがヘマしねぇか見張るだけだ!」
「ったく。 あと陽菜様に対して今の口の聞き方はなんだ! 直せと言っているだろう」
「いちいちお前はうるせぇなぁ! そういう所はホント変わんねぇな!」
「……」
気がつけば今度は大河さんと秋真さんが口喧嘩?を始めてしまった。
でもなんだろう。"止めなきゃ!"っていう焦りは一切出てこない。
きっと、二人のこのやり取りは昔からなんだろうな。喧嘩するほど仲が良いってこういう事なのかな。
少しだけ、二人が羨ましかった。
でも、大河さんの事が少し知れたからまぁいいかな。
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