第13話『覚』
大河さんと少しだけ仲良くなって、数日経った今日。
私は雫さんと西の国へ訪れていた。
国一つ一つの町並みはほとんど同じだけど、やはり住んでいる妖だけ違う。
西の国はやはり雪女が多くて、そして雪男もいる。最初雪男と聞いて、毛むくじゃらの生物をイメージしたけど、雫さんと同じ人間の容姿。……だよね、安心したのだが、それに加え、イケメンだった。
人の姿になっている妖って美男美女が多すぎる。楽くん達はどちらかと言えば、可愛い系だけども。
「あら、聖妖様」
「まぁ、可愛い聖妖様なこと」
「ど、どうも」
北の国や南の国同様、やはり町の妖達が私に気がつけば皆寄ってきて私を囲う。
それも今回は雪女や雪男ばかりだからか、少し肌寒いのは気のせいだろうか。
しかも、雪女達は皆着物を着崩していて、肩が見える者もいる。……花魁風か。
「あなた達、陽菜様が困っているからやめなさい」
「はい、雫様」
そしてやはり、長である雫さんが注意をすれば、彼女らは私から少し距離をとってくれる。
しかし、毎度こうして囲まれて質問攻めされるのは心臓に良くないなぁ。
明日は東の国に行く約束を秋真さんとしているし。また囲まれそうだなぁ。
心の中で呟きながらも、離れてくれた妖達に挨拶をしてから、また雫さんと歩き出す。
この国は雪女雪男以外にどんな妖がいるのかな。
なんて考えていればたまたま何かの店から出てきた女性に目が行く。
「
「あら、雫様と……新しい聖妖様かしら?」
「ひ、陽菜です……どうも」
その女性も私たちに気がついたのか、こちらへと歩いてきて。私の目の前で立ち止まると、彼女は思ったよりも背があり、見上げる形になってしまう。
そして朝雲と呼ばれた女性は妖艶に微笑んだ。
「!!」
その微笑みに雫さんの時同様、鼓動が跳ねてしまった。どうやら、こういう色っぽい大人の女性に対して私は免疫がないらしい。
それについつい、服装全体を見てしまう。だって花魁風の服装をしてるから。こんな服装している人間が周りに居なかったわけだし。
「あらあら、顔を真っ赤にしちゃって可愛らしい聖妖様なこと。 雫様の言った通りの方ね」
「ふふっ、でしょう?」
雫さん、私の事何て紹介したの!?
それに絶対可愛らしいとか言われてるけど、からかわれてる(子供っぽいと思われてる)としか思えないし、二人が美しすぎて見ていられないよ。
「雫様。 もし時間がおありでしたら、この店で聖妖様の素敵なお着物を選ぶというのはいかがでしょうか?」
「あら、良いわね! 行きましょう、陽菜様」
「え、ちょ、ちょっと!!」
勝手に二人だけで盛り上がってしまい、私は二人に連れていかれるがまま、朝雲さんが出てきたお店へと引きずり込まれてしまった。
入ったお店は呉服店だった。しかもその店は朝雲さんが着ているような派手な物ばかり。
もしかして、これらを私に着せるつもりなんだろうか。
「あら、朝雲ちゃんに雫ちゃん! その子は?」
「新しい聖妖様ですのよ。
「これは失礼致しました。 私、この呉服店店主の八重と申します」
「あ、その、初めまして! 陽菜です!」
慌てて頭を下げた店主の八重さんは朝雲さんほどではないが、少し派手な着物を着こなし、そしてやはり肩が出るほど着崩している。
やっぱりこういうお店なのね。私は着せられてしまうんだろうか。
私を置いて、着物選びを始めてしまうお三方。そんな彼女らを私は、不安な気持ちを抱え棒立ちしたまま見つめることしか出来なかった。
***
「つ、疲れたぁ……」
結局、呉服店に長い間居座っていたため、西の国の全てを回るのにまる一日かかってしまったのである。
本当は、少しでも早く終わったら東の国に行こうと思ってたのに。
ごろんと、畳の上に寝転がり、ため息をつきながら天井を見上げる。
きっと普通の和室なら、天井に昭和臭漂う吊り下げ電気があるんだろうけど、ここは提灯が部屋の隅にかけられている。
「あら、陽菜様お疲れなのかい?」
「お岩さん……うん、雫さんと朝雲さんにきせかえ人形の如く、色んな着物の試着させられたよ」
「まぁ、良かったじゃないの」
「良くないよ~! 疲れた」
横にした体を起こしつつも普通に話しているが、彼女の存在に気がついたのは大河さんとケンカした日の夜だった。
彼女は提灯お岩という妖らしい。提灯お岩は色んな場所で灯りを灯すのに存在しているらしいけど、個々で名前がないんだとか。だから、私は私の部屋にいる彼女の事をお
黒い髪の毛らしきものは付いているが、目は無く、口がパクパク動いているので、それほど怖くはない。(目は見えるらしい)それに声がなんとも美しいのだ。歌なんか歌っちゃったら惚れない妖は居ないレベルな気がするよ。
「でも、楽しかったかな」
「そうかい。なら良かったじゃないか」
「うん……」
「どうしたんだい?」
「いや、……人間の頃に友達と服買いに行ったこと思い出しちゃって」
なるべく思い出したくなかった、人間の頃の記憶。
友達とふざけたり、恋バナしたり、互いに似合う服を渡したり、交換したりしてたっけ。……元気かな。
「ッ──」
はっきりと友達の顔を思い出してしまったせいで胸が苦しくなり、視界が霞んでくる。
ダメだ、今日は耐えられないかもしれない。
「っう……」
耐えられず、私はお岩さんの前で初めて涙を溢した。
ここで泣くのは、二度目だ。何でこんな短期間に泣いてしまうんだろう。
人間だった頃は、そう簡単に泣いたりはしなかったのに。
涙を止めたくても、全然とまってはくれない。拭っても拭ってもダメ。
どうすれないいの。私が泣いていたら、きっと皆が不安になってしまう。妖のトップだと大河さんが認めてくれたのに。トップなら強くいなきゃいけないのに。
また、ボロボロと溢れ出す涙を懸命に拭っていれば、開けっぱなしにしていた廻り縁の扉からビュッと風が吹く。
「泣きたいときは泣いて良いんだよ」
「!!」
風が吹いたかと思えば、突然目の前に見知らぬ者が現れて。私は驚き、距離を取ろうと思ったのに、体が動かなかった。
そのせいで、見知らぬ男は私の顎を優しく掴み自分の顔へと向けさせる。
青髪のストレートロングで前髪は目が隠れるほど長い。
そして男は前髪を手でかきあげれば、糸目が現れ、全体的に優しそうな印象を受けた。
「私は覚という妖怪だよ。 聖妖様、きっと貴女が泣いてしまうのは、無理矢理 妖にされ、この国に連れてこられて嫌なことばかりだからだよ」
「え……」
「陽菜様! こいつの言うことは聞いちゃダメだよ!!」
「大丈夫、近いうちに貴女を救ってくれる者が現れるから、それまで我慢しているんだよ」
「救ってくれる……?」
「あぁ、必ず現れるから。 ね?」
顎を掴んでいた手は、優しく私の頬を撫で、子供に言い聞かせるような優しい声で囁く。
そして、覚という妖はゆっくり廻り縁まで行き。
「じゃあね、陽菜様」
「え、ちょっと!!」
高欄に寄りかかり、そのまままっ逆さまに落ちてしまったのだ。
その光景を見て、ゾクリしたが彼の安否が気になり、慌てて高欄に手をつき、覗き込めば彼の姿はなくなっていた。
彼は一体何者だったのか。
覚。彼はどこの国に住んでいるのか。
彼の言った意味はなんなのか。
「────」
何もかもがわからず、私は一人、ひたすらに考えていたせいでお岩さんの言葉は耳に入らなかった。
そして気がつけば、溢れるように出ていた涙は止まっていた。
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