ただの二次元・妄想・ロリっ娘大好きな童貞だし

 光。


 まぶしい。


 それと、音。


 なにか争うような音。


 なんだ、なにが起こってる?


 いや、ここでなにが起こっていた?


 思いだせ、すべて。


 把握しろ、なにもかも。


 俺は、たしか……


「雄太さん! お願いします!」


 鈴のような、凛とした声。


 この声……そうだ、サフさん。


 俺はサフさんに逢って、それから……


「おいおい俺のほうくんなって!」


 雄太……そうだ!


 雄太が囮になろうとしてて、それで、俺は――


「真尋にゃ指一本触れさせねぇ! かかってこいやァ!」


 瞬間、俺の身体が弾けた。


 弾けるように、飛びだした。


 ガギィン――ッ!


 と、金属がぶつかりあうような音がする。


 スールズの鎌を、俺の刀が受け止めていた。


「…………ま、真尋……?」


「ああ、俺だよ雄太! 勝手に突っ走りやがって!」


 カッコつけて登場したけれど、残念ながらチカラ負けしてるようだ。


 押し込むのは諦めて、流すように鎌をいなす。


 そのまま刀を翻し、逆袈裟。


 だいぶ浅いが、相手がバックしたことで距離を取れた。


 構え直し、仕切り直しだ。


「……はは。んだよ、突っ走るとか……そりゃこっちの台詞だっつーんだよ! てっきり死んだかと思ったじゃねぇか!」


「ロリコンは不滅なんだよ! てかなんだそのカッコ! ムカつくぐらい似合ってんじゃねぇか俺にも寄越せ!」


「あん? これあれだよ。なんかイメージで……いや、イメージは武器だけか? じゃあなんだこれ?」


「知るかよ。けど、イメージか。刀だせたしなんでもアリっぽいな!」


 俺は左手を前に突きだし、強く強くイメージする。


「《精霊招服せいれいしょうふく火焔獣イフリート》!」


 ゴウッ、と紅蓮の焔が逆巻き、身体を包む。


 焔が消えたときには、燃えるように緋い装束へと変わっていた。


「うお、順応が半端ねぇ」


「たりめぇだ! こちとらリアル女子に嫌われまくってるからな! 二次元と妄想なら俺の領分だ!」


「うわ、めっちゃ寂しいこと言ってる。ほぼ俺のせいだけど」


 なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、いまはいい。


 目の前の相手に集中しろ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 スールズが吼える。


 怒りか?


 よくわからないけど、威圧感がすごい。


 空気も肌もビリビリする。


 転生者とかよく平気だったな。


 俺足ガクブルしてんだけど。


「なんかさ、殺気ってのかな。ヤベェよなアレ」


「ああ。ぶっちゃけ帰りたい。そんで風呂浴びて寝たい」


「けど、その前にやんなきゃいけねぇことがあるよな」


「そうだな。まずはアイツをブッた斬る!」


 怖い。


 死にたくない。


 帰りたい。


 けど、雄太の前でそんな姿は見せられない。


 だから俺は、刀を握る手にチカラを込める。


 雄太はバットとボールを構えて……


「は? なにそれおまえ、それおまえの武器か? ダッセェ」


「うるせぇな。これが一番しっくりくんだよ」


「だとしても色あいなんだそれ。なにその中途半端な色。なんかすげぇ腹立たしい感じするんだけど」


「だーもうほんとうっせぇ! これに関してはどうでもいいだろ! イメージしやすかっただけだよツッコんでくんな!」


 なんて言いあいの合間に、スールズが動く。


 両手の鎌を大きく広げ、一気に踏み込んでくる。


 ――速い。


 パワーだけでなく、速度も負けてるようだ。


 え、ヤバくね?


 勝ち目あるこれ?


「まぁいいや。圧勝パターンは逃がす確率高ぇしな!」


 先ほどと違い、動きは視えてる。


 ならできることも増えてるはずだ。


 俺は刀を正眼に構え――直後、スールズが鎌を振り下ろしてくる。


 速く鋭く、正確に俺の心臓めがけて振り下ろしてきて……


「ハッ。しょせんは最初のイベント戦だな」


 だからこそ、防げる。


 正確すぎる狙いは読みやすく、対処しやすいからだ。


 俺はニヒルに笑い、迫る脅威を受け止める。


 同時、刀を傾ける。


 振り下ろしてきた鎌へ這わせるように刀を滑らせ、回転するように攻撃をいなす。


「どうだ、俺はイメージならだれにも負けねぇぞ」


 視えるのなら、動けるのなら、俺だって戦えるんだ。


 勢いを利用した防御に不意をつかれたのか、スールズはバランスを崩してよろける。


 これで初撃は防いだ。


 次点は、


「《ディアボロ・ホームラン》!」


 ヒュッと、顔の横をなにかが掠め……スールズの顔面に直撃したかと思えば、それが盛大に爆発して――


「うおおおお!? バカかおまえ至近距離で爆弾なんか使ってんじゃねぇよ!?」


 この服じゃなければ死んでたかもしれない。


 ナイス俺の中二病。


「いや、この服結構頑丈だからさ、直撃しても痛いぐらいだと思うぞ」


「そうだな! おまえの特注品と同じならいいな!」


 あいにくそこまで防御寄りに考えてない。


 直撃したらたぶん身体の一部を持ってかれる。


 よくても火傷は避けられない。


 火属性の服着てそれだ。


 相手さんにはかなりのダメージがあったようで、


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


「やっべめっちゃ怒ってる。どうしよ真尋」


「俺に聞くなよ。いまちょっとチビっちまったの誤魔化す方法考えてっから」


「え?」


「ん?」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 いいタイミングで啼くじゃないか。


 今後もその調子でお願いします。


「ひとまずいまの感じでいいだろ。俺が受けておまえがブチ込む。隙があればさらに踏み込むって感じか」


「おう。まかせとけ。ピッチングもバッティングも完璧にこなしてやるよ」


 さすが野球部エース。


 心強い。


 それに体力バカは防御や継続火力がイカれてるというセオリーも汲んでいる。


 攻撃面は問題ない。


 あとは俺だ。


 必要以上にビビったら死。


 調子に乗って攻めすぎても死だ。


 近接タイプっていつもこんな死の淵にいたんすね尊敬します。


「さて……んー、あー、ダメだな。決め台詞が浮かばねぇや」


 あいにく主人公気質じゃないんだろう。


 ガクブルしてチビってるし。


「まぁいいか。俺は俺だ。ただの二次元・妄想・ロリっ娘大好きな童貞だし、ロリがいなけりゃ本気がでないってことで」


「なにブツブツ変なこと言ってんだよ。さすがに引くぞ」


 親友にまで引かれてしまった。


 無二の相棒に見放されるとか……もしかしたら主人公向きかもしれない。


 やったね。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 というか、あいつはいつまで吼えていて……


 と、そこで気づいた。


 選択を間違えたことに。


 スールズの身体がボコボコと大きく膨れあがる。


 全身からより濃い殺気が溢れだす。


 まさか相手の時間稼ぎにつきあってしまっていただなんて。


 変身タイムは攻撃しちゃいけない暗黙のルールがあるけれど、そんなものは二次元だけにしなくちゃいけない。


 リアルではほとんどが先手必勝だ。


 後手にまわった時点で死ぬ。


「うわぁ……真尋、さっきの作戦でいけると思うか?」


「さぁ……試したくはねぇかなぁ……」


 スールズはさっきよりもかなりデカくなり、たぶんめっちゃパワーアップしている。


 あんなんの攻撃受けたら吹っ飛ぶ自信がある。


 最悪刀ごと斬られて首チョンパだ。


 けど、


「イメージで負けたら、その時点でアウトだよな」


 心で負けたらおしまいだ。


 意地と意地の、魂と魂のぶつかりあい。


 それがスールズ討伐ってヤツだろう。


 なら、より強いイメージを……


「イメージ、だけだったか?」


 ほかになにか、大事なことがなかったか?


 とても重要で、真髄的なナニかが。


 モヤモヤする。


 違和感がある。


 それに気づけなければ、俺は……俺たちは死ぬ。


 逆に言えば、それさえわかれば俺たちは……


「真尋」


「なんだ? いまちょっと考えごとを……」


「いまのうちに何発かブチ込んでもいいか?」


「あー、そうだな。まだ吼えてるし、たしかにそのほうが――」


 小豆色が目にはいる。


 炎の球が目にはいる。


 なぜだか思った。


「雄太。おまえ、アイツの動き止められねぇか?」

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