1・5 疲れたanotherver.~一緒~

「さぁ、飯だ飯だ~っ!」

四時限目が終わると古典の教師は手をたたいて立ち上がった。

瞬間、静かだった教室は一気にざわつく。

亮も一度伸びをしてから弁当を取り出す。

何気なく携帯の話題ニュースを見ると、あることが話題になっていた。

「○○中学校の藤塚美咲さんが屋上から転落。学生の自殺が増えている」

亮は視界にその記事が入ってくるなり、勢いよく携帯の電源を切った。

亮の心の友だった颯のことを思い出したからだった。

颯も美咲と同じように故人だった。


颯と亮は高校から一緒になったにしては幼馴染のように仲良くしていた。

颯は運動神経が良く顔もよかった。

本の虫で見た目なんてあまり気にしない亮にとっては雲の上の存在だった。

たまたま同じクラスで席も近かったということがなければ、話すこともなかっただろう。

一緒にいるうちに、二人はお互いにとってなくてはならない存在になっていった。

どちらかが学校を休むと、必ず見舞いに行った。

夏休みには毎日一緒に図書館で勉強をしたり、プールに行ったりしていた。

運動が苦手な亮にとっても、読書などあまりしない颯にとっても、それは楽しい時間だった。

颯は悩みなどあまりなさそうに見えた。いつも笑顔で、心配そうな顔など一つも見せたことがなかった。

しかし、夏休みが明けた一週間後のことだった。

「え~、今日、ニュースになっていたように、北村颯君は行方不明中だ。もし、何か知っていることがあったら、先生に言うように。」

それまでは普通に学校に来ていた。

ただ、亮が話しかけると、気づいていないかのように教室の外に行ってしまう以外は。

颯に嫌われた。

亮にとって、それはとても堪えた。颯は亮のことなんか必要じゃなかったのだろうか?

行方不明になった原因など知らない。亮は探すまいと決めていた。

自分のことを拒絶した罰だ。どうせそのうち出てくるだろう。

ところが、颯はいつになっても出てこなかった。

一か月ほどたったころ、学校の階段下で死亡している姿が見つかったというニュースが流れた。

今までいくら探しても出てこなかった颯が遺体として姿を見せるだなんて思ってもいなかった。

教師に「仲良くしていただろう?」「何か知っているんじゃないのか?」と聞かれても、ただ首を振ることしかできなかった。

なぜ今まで出てこなかったのだろうか。見つかるまでどこにいたのだろう?

いや、それよりも、なぜ颯は階段なんかにいたんだろうか。

しかも、一番利用率が高い中央階段に。

イライラして、どうしてと考えて、悲しくなって、亮は毎日泣いた。


きっと中学生の美咲にも友達くらいいただろう。

その子は亮と同じように泣いたはずだ。

もしかしたら、もう生きている意味がないとすら思っているかもしれない。

亮ももう限界だった。

颯がいなくなってからもうすぐ一年がたつ。

学年が変わり、クラスも変わって、亮の知っている人はほとんどいなくなった。

亮には颯以外に自分のことを話せる友達がいなかった。

亮は箸をおいて、椅子を引いた。

そのまま階段に向かう。颯がいた中央階段とは反対の、北側階段だ。

何も考えずに、二階の踊り場に向かって降りる。

いや、落ちる。

亮は足を離したのだ。自分の生きる価値を考えるために。

鈍い音がするのを待った。血が飛び散る様子も想像した。

目をつぶる直前、十二段のはずの階段に見慣れない穴のような段が目に入る。

そこから手が伸びているようにも見えた。

時計のベルトが見えた。白と黒がきれいに混ざっている。間違いなく颯のものだった。

「亮、お前……そうか。俺を追いかけてきたのか。」

心の声が聞こえた気がした。

すべてわかった気がした。

颯が亮を避けるようになったのか。なぜいなくなったのか。

亮の学校の七不思議でこんなものがあった。

階段を降りていき十二段目に差し掛かると、突然十三段目が現れる。

気づかずに足をついてしまうと、そのまま吸い込まれる。

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