止まらぬ日記

月乃天使

第1話・疲れた

カタカタカタ。

部屋にキーボードをたたく音が響く。

さやかは、もう12時なろうとしている時計を一瞥して、パソコンを閉じた。

もう嫌だ。こんな世界も、こんな日常も。

今に始まったことではなかった。

学校では、今まで仲良くしていたクラスのリーダー、花音にシカトされ続けている。

原因は、さやかが美咲と仲良くし始めたことらしかった。

美咲と花音は、小学校時代からの親友だ。

さやかは最近隣の席になった美咲とよく話すようになっていた。

体育の授業でも、花音とではなく、さやかと一緒に組むようになっていた。

とってしまったつもりはないけれど、おそらく似たような気持ちになったはずだ。

さやかだって、ついこの間まで好きだった隣のクラスの良哉と花音が付き合い始めた時には、少なからず取られたと思った。

つきあっていたわけでもないのに。

それだけではない。

中学三年生の十月になるというのに、さやかが行きたい学校と親が行かせたがっている学校が違うことで、大喧嘩になっていた。


さやかはそのまま、ベッドに寝転がった。

熱心にキーボードを打っていたのは、あるニュースが話題になっていたからだった。

『10月9日未明、○○中学校三年生の藤塚美咲さんが学校の屋上から転落し、死亡したとのことです。警察は自殺とみて、調査を進めています。』

朝起きると、母親がテレビをつけながら皿を洗っていた。

父親はまだ、単身赴任から帰ってきていないようだった。

「ねぇ、さやか。これって、あなたが通っている学校でしょ?美咲ちゃんって、仲良くしてた子よね?」

信じられなかった。あんなに明るくて元気いっぱいの美咲が、自殺?

母親の言葉が耳に入ってこないほど、さやかはショックを受けた。

唯一の頼み綱だった美咲が自殺したと知って、もう生きる気力はゼロになっていた。

気づいてあげられなかった。自殺をしたいほどに美咲の心が萎えていたなんて。

学校に行っても、気持ちは晴れないままだった。

はっきり言って、美咲がうらやましいとさえ思ってしまっていた。

美咲がいなくなったら、さやかはいったい何のために生きて行けというのだろうか。

さやかはたった一つの希望を失って、ぼんやりしていた。

ぼんやりとしたまま、一階に向かう。

さっきまで書いていたのは、遺言書だった。

自分が死んだ後、自分のものをどうすればいいのか、自分はどんな気持ちだったのかを、伝えたいと思った。

でも、そんなものを書く気力も残っていない。

歩いて学校に向かうと、裏口からこっそり入って、屋上までの階段を駆け上がった。

さやかは勢いよく屋上のドアを開けると、外の空気を目いっぱい吸った。

これが最後になる。ここでの思いをすっかり吐き出してしまおう。

これ以上無理だという限界まで息を吐くと、おなかが痛くなった。

ゆっくりと工程がある方の手すりまで向かう。

手すりの上に片足をかけて、ハッとした。

声が聞こえた気がしたのだ。美咲の。

「ねえ、ここにいちゃ危ないよ。にげて、さやか。」

危ないってどういうこと?それに逃げてって・・・

イヤな予感がして後ろを振り向くと、花音が立っていた。

そのまま、さやかを突き飛ばす。

「じゃあね。」

その時初めて思った。

美咲は自殺したんじゃない。

美咲は・・・

ドサッ

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