第65話 第十四章 アート(4/4)
姫肌は、サマイノが眠っていた空白の時間に、未来に向けた生まれたばかりの時間を一気に注ぎ込んだのだった。
でも、サマイノには決断の重さや、それに至る過程は関係なかった。
「帰らないのぞよ。なら、問題ないぞよ」
方針さえハッキリすれば、それでよかった。
「はい、問題ないのです」
姫肌は晴天の笑顔に、
人生を左右する決断に、迷いはなかった。
典高はこれからも、姫肌をサポートしてやろうと思っていた。
本当の妹ではないが、先祖の妹である。これまでと同じように、妹として接していこうと思っていた。
ただ、サポートと言っても、もう邪気はいない。
邪気は、集めて、封印して、星渡りとして蘇らせて、あ、でも、蘇ったのはアラボシで、アラボシはエネルギーを断たれて消えてしまった。
あれ?
消えたアラボシは、どこへ行ってしまったのだろうか?
大きな疑問が典高の脳裏をよぎった。
「なあ、それで、アラボシはどうなったのかな? 霊体だから死んだということはないよね。どこへ行ったの?」
その疑問に、そこにいる全員が、いや、違う。父親を除く全員が、である。
一点を指差した!
典高だった。
「兄様から邪気を感じるのです!」
「典ちゃんの中に邪悪が潜んでいるのだ!」
「わーを支配したものは、あーの中ぞよ」
「さっきも言ったっすよ。今は胸にいるっすって、典高の胸っすよ」
言葉は違うが、意味は、そろいまくっている!
フキアゲに至っては、すでに口にしていたようだ。
「アラボシが、お、俺の中に? でも、どうして? 俺の中にはすでに、トドロキがいるんだよ」
元神の2人(2柱)が1人の個体に入れるのだろうか?
「関係ないみたいなのです! Hな類は、Hな友を呼ぶのです! それに尽きるのです!」
姫肌はいつもそうだった。典高イコールスケベの図式だ。
「俺はそんなにスケベじゃねーよ! ……でも、邪気が中にいて、俺って大丈夫なの?」
邪気が男に入ると女性を襲うことになっている。
「今は眠ってるっすよ。アラボシは眠っているっす」
「わしの足元で汚い霊体が、グースカと、いびきをかいておるのじゃ」
フキアゲもトドロキも、同じことを言っているようだ。
「眠ってるのか。ひとまずは安心だな」
「アタイも安心っす! オチ神も霊体も人間の中では、すぐに消えないっす。ひとまず安心っすよ」
フキアゲは、尖った刃が新しい鞘に収まったかのように、ホッとした笑顔になっている。
500年もの情が、そう消えることはないのだ。
母親が背伸びをして、トンと典高の背中を軽く叩く。
「でも、いつ目覚めるか分からんのだ。典ちゃんは心しておくのだな!」
目覚めの不安を、ちらつかせた。
「そんなーーーーっ!」
典高は時限爆弾を体内に埋め込まれた気分だ。
父親がトコトコと、その場の中心に入ってきた。
「こんな所で立ち話はよくないですぅ。日も暮れてきましたよぉ。みんなで社務所へ戻りましょうぅ」
父親の提案で家に帰ることになった。神様のフキアゲも一緒に来るみたいだ。
父親はそのままにはできないと、落ちていた宝剣を片手で軽々と持つ。
さらに、神職の衣装が錆で汚れるのも気にせずに、宝剣を持ったまま、雷神石を片手で持ち上げ、肩に載せてしまった。
手伝うと言う典高の申し出も断って、一抱えもある岩のような雷神石を、10キロの米袋であるかのように1人で担いだのだった。
確かに、父親は大鳥居の高さくらいから落ちてきた母親を受け止めてた。ヒョロヒョロでも力持ちなのである。
思い出してみれば、あの母親と夫婦だったのだ。何かおかしな特技を持っていても不思議じゃないと、典高は小さく納得した。
「さあぁ、戻りましょうぅ」
一番大変そうな父親の掛け声をもって、みんなで社務所へ歩き始めた。
20メートルくらい歩いて、典高は今日の大鳥居が名残惜しくなった。
大鳥居のお陰で星渡りの黒い煙を消せたのだ。もう一度、その勇士を目に焼き付けておきたかったのである。
立ち止まって、1人振り向いた。
「な、何だよ! あれ!」
思わず声になってしまった。見えたのは間違いなく大鳥居であったのだが、見たこともない鳥居だった。
銀色の大鳥居には黒く太い線が、何本も放射線のように描かれていたのだ。
鳥居の縦からも横からも中心となる点から、放射線が何本も伸びて、鳥居の柱や横木がある場所にだけ、黒を塗ったって感じである。
黒は、ペンキでいえば『つや消し黒』で、銀色との組み合わせが、メッチャ渋い!
それに、黒ではあるが、旭日旗を鳥居に重ねたようでもあった。
それまでは、近過ぎて気が付かなかったみたいだ。
鳥居の大きさもあって、典高の心は高ぶった。
「かっけーなー!」
典高が発した、それらの声につられて、全員が振り向いた。
「
母親は天晴れと言わんばかり!
「人間を引き込むようっす。人を呼び寄せるような線っすね」
フキアゲは神様なのに嫌がってない? そういえば、鳥居は結界と言っていた。
「神社としてはぁ、困るなぁ。きっとぉ、直すのに費用がかかりますよぉ」
父親は宮司だ。現実的である。
ようやく、典高は放射線の原因に気が付いた。
「あっ、分かった! 雷で焦げたんだ」
500年も前の雷が、思いも寄らない傷跡を残したのだ。
サマイノが姫肌に不安な顔を向けた。
「わーがしでかしたことぞよ、わーが悪いぞよ?」
叱られる寸前の女の子のようだ。
姫肌はサマイノの頭を撫でてやる。
「サマイノは心配しなくていいのです。どうせ、雨が降れば、消えてしまうのです!」
そう言いつつ、姫肌は気付いた。
「あたしも、分かったのです。サマイノは兄様の持ち物なのです。
きっと、これは、マサムネ兄様が描いたのです。
マサムネ兄様は、爆発するようなアートを目指していたのです。爆発が鳥居と合わさったのです!」
芸術は爆発だ! 有名な言葉が重なった。
典高の先祖、異星から来たマサムネは、爆発するような鳥居のアートを求めて、この地球へやって来た。
サマイノに吹き込んだアートの魂が、500年の時を越えて、現実のアートとして出現したのだ。
典高は芸術家の執念を、ここに見たのだった。大きく納得したという。
――後日談
フキアゲが言ったように、鳥居の怪現象として、翌日から参拝者が増えることとなる。
意外にも、その後の雨にも消えなかった。また、すぐに修復費用を捻出できず、そのままとなってしまう。
お陰で駅から表参道に続く商店街が大いに潤ったのである。
そのため、姫肌が宮司の代理として、再び市長から感謝状をもらうのであった。
どんな服装で、もらったのか?
それは、みさなさまのご想像にお任せしましょう。
おしまい
【2625文字】
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