第64話【超肝回】第十四章 アート(3/4)
「マサムネ様の、置き手紙ぞよ!」
錆びた
聞くと、どうやら記録チップのようだ。サマイノは錆びていても読めるという。
姫肌が読んで欲しいと頼んだ。
ポンッ
サマイノはその欠片を口へ放り込んだ。でも、飲み込まずに、口に含んだ感じだ。
「マナヒメ、ウールグーデ、ウォリメ、フクーク……」
男の声が意味不明な言葉を口走った。サマイノがしゃべったのだが、聞こえた声は男だった。
録音データを再生したようだったが、全く意味が分からない。
「サマイノ! なのです! 言葉が分からないのです。翻訳するのです」
やはり、姫肌の故郷、ヒルヒ本星の言葉だったようだ。
「分かったぞよ。翻訳するぞよ。
マナヒメ、この音声を聞いているということは、目が覚めて……」
男の声ではない。サマイノの声である。でも、本人であるかのように
手紙は続く。
「サマイノも無事に復活したようだな。オレも無事だから心配無用だ。
悪い宮司は懲らしめて追い出した。安心していいぞ。
星渡りの本体が回復するには時間を要するから、空き家になったこの神社で待つといい。神社にあった食べ物も、境内の井戸水も毒性はなかったから、消毒せずに食べたり飲んだりしても問題ないぞ。
あのな。それでな。この国には鳥居があちこちにあると聞いたんだ。種類も色々とあるらしい。
だからな、オレは鳥居を見聞する旅に出ることにした!
オレのアート魂を吹き込んだサマイノを、連れて行けないのが、心残りではあるが、鳥居の見聞に満足したら戻ってくるつもりだ。でも、気に入った鳥居があったら、その土地に長居してしまうかも知れない。
よって、お前はオレの帰りを待つ必要はない。星渡りの本体が回復したら、1人で帰ってくれ。
調整はオレしかできないが、サマイノが居れば問題ないはずだ。
ただ、調整キーだけは残しておいてくれよ。それがないと、星渡りを呼べないからな。
もし、オレを探したいなら、始めに決めた通り、『兄石』の名前を探せ。オレも『妹石』には気をつけるようにするよ。
でも、どんな危険があるかも知れないから、お前は、すぐに帰った方がいいな。
親父やお袋には、俺は、もう少しこの星に居ると伝えてくれ。
じゃあな! 鳥居を堪能したら、帰って来るよ。
愛しい妹、マナヒメへ。
お前の兄、マサムネより。
これで終わりぞよ」
サマイノの声なのに、マサムネ本人がしゃべっているようだった。
マサムネは神社を乗っ取ってから旅に出たらしい。星渡りはすぐに復活すると思っていたようだ。兄石と妹石の苗字は始めから決めていて、それが、典高の苗字になったと分かった。
この後、どこへ行くとも言っていない。マサムネの消息は不明だ。子孫を残したことくらいしか推測できなかった。
聞いた姫肌は、先祖の感慨に浸ったのか、涙を流している。
フキアゲは目をつぶって聞いていた。もしかしたら、その時の記憶が残っているのかも知れない。
だが、典高の母親が一番の反応を示した。
「おい! その欠片をママによこすのだ!」
サマイノに詰め寄っている!
「ダメぞよ! これは、マサムネ様の手紙ぞよ! 誰にも渡さないぞよ!」
「そんなこと言うでないのだ! それは未知の欠片なのだ! 手に入れようのない研究材料なのだ! とっとと吐き出すのだ!」
母親はサマイノ首を絞めてる!
サマイノも怒ってる!
こいつは雷神石をひっくり返すくらいの力持ちだ。反撃されたら危険だ。
典高は慌てて母親をサマイノから引き離した。母親は子供のように駄々をこねたが、サマイノがその欠片に気付く前に、気付けなかった母親が悪いと、典高はメッの顔を見せて、たしなめた。
すると、母親の矛先が変わった。
「うーん、ここは典ちゃんの顔を立てるのだ。でも、悪い宮司とは、よく言ったものなのだ! 今も悪い宮司がいるのだ!」
母親は父親を指差した。
「ぼぉ、僕はぁ、悪い宮司じゃありませんよぉ」
「浮気する宮司は、悪い宮司なのだ!」
意地悪く言う母親に、父親はなぜか余裕な顔。
「照乃さんがぁ、言っている浮気はぁ、僕が宮司になる前でしたぁ~、だからぁ、悪い宮司ではないのでしたぁ~」
小バカにする。
「きーーーーーーっ! さっき撫でてやったのに、もう生意気を言ったのだ! でも、浮気は認めたのだ!」
「認めてないですよぉ~」
夫婦喧嘩になりそうだ。
「母さん、やめて、終わらなくなるよ! 父さんもだよ!」
今度は2人にメッの顔を見せる。
「分かりましたぁ」
「我慢するのだ」
「思い出したぞよ。わーがこの星に着いてすぐなのぞよ、夫婦喧嘩の雷に撃たれたぞよ。そのエネルギーを吸って、眠ってしまったぞよ」
サマイノは、夫婦喧嘩? を見て思い出したようだ。
「風神雷神っす~~。夫婦じゃないっすよ~~」
フキアゲは、なんか嬉しそうだ。
「でも、っす。その雷は、アラボシが落ちたっすよ」
恐る恐る事実を明かした。
「なるほどなのじゃ、その雷がこのサマイノなる者の超伝導体回路に、永久電流として保存されておったのじゃな」
典高の中にいるトドロキが気付いたようだ。
聞いた典高も小さく納得。
「そっか! 結びついたよ! あの放電は、500年前の雷だったのか!」
サマイノからの放電は、500年の時を越えて落ちた雷だったのだ。
「たぶん、そうっす。典高の言う通りっす」
フキアゲは申し訳なさそうにしている。
それにしても、サマイノは500年間も雷エネルギーを内包していたことになる。とんでもないテクノロジーだ。
そのサマイノも申し訳なさそうに口を開く。
「ヒメハ様ぞよ! わーのエネルギーは、一緒に放出されたぞよ。もう、ほとんど残っていないぞよ。ヒルヒ本星へは戻れそうにないぞよ……」
姫肌は爽やかな笑顔をサマイノへ返してやる。
「それでいいのです!
初代マナヒメ様は故郷の星に帰りたかったと思うのです。その願いが500年も膨らみ続けてきたのです。
だけど、その願いの中身は空っぽだったのです。
つまり、願いはマナヒメ様の願いであって、あたし、姫肌の願いではなかったのです!
ここにきて、やっとそれに気付いたのです。
だから、もう、あたしはヒルヒ本星には帰らない、違うのです。ヒルヒ本星には行かないと決めたのです!」
姫肌は、サマイノが眠っていた空白の時間に、未来に向けた生まれたばかりの時間を注ぎ込んだのだった。
【2538文字】
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