第63話 第十四章 アート(2/4)

 スススーーッ


 そこへ、白く汚れのないレオタードの子が、ゆっくりと上方から降りてきた。


 スレンダーなJC(女子中学生)のような体が、仰向けのまま、無風落下を観察したタンポポの種よりも、ゆっくりと降りてきたのだ。


 どこかの巨匠が手がけたアニメ映画のようだ。


 閃光と轟音の後、やっと地上に達したのである。


 スーーーーッ


 このまま降りると、雷神石の上に乗ってしまいそうだ。雷神石には多くのくず鉄がくっついている。錆びてるが刃物だってあるのだ。切れないとは思うけど。


 典高は両手を差し伸べてレオタードを受け止めた。

 ゆっくりと降下しているので軽いと思っていた。


 グワッ!

 腕に乗って、1秒もしないうちに急激に重くなった。ここも巨匠映画のままだった。


「ワワッ! 体重が!」

 大人の男くらいに重い。なかなか、巨匠映画のようにはいかないものである。


 典高は歯を食いしばりながら、下にある雷神石から離れるように体の向きを変える。


 1人では無理と思ったのか、父親が手伝ってくれた。

 父親と2人で、ゆっくりとレオタードの子を石畳の上に寝かせてあげた。


 典高は、この子が閃光と轟音を起こした星渡りのコアと思っていたが、白いレオタードには1つの焦げたような痕はなかった。半信半疑になってしまう。


「なあ、ひ……姫肌、この白い服の子が星渡りのコアなの?」


 典高は、先ほど姫肌に凄まれたので、名前を呼び捨てたが、イマイチしっくりといかない。


 それでも、姫肌は上機嫌である。

「兄様が姫肌と呼んでくれたのです。嬉しいのです~~。


 あ、あー、そ、そうじゃないのです。兄様の言う通りで合っているのです! あたしの母様から聞いた通りの姿なのです。この子が星渡りのコアなのです。


 サマイノという名前と聞いているのです。マサムネ様命と言っていたから、サマイノチのチを省いて、サマイノという名前になったそうなのです」


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! ぞよっ!」


 自分の名前が聞こえたのか、白いレオタードの子、サマイノが大きな声を上げ、目を覚ました。


 ピョーーーーンッ!

 石畳の上に横になっていたが、跳ね飛ぶ勢いで立った。


 バッ! ギュッ!

 途端に、典高に飛びつき、抱きついた!

 両腕もろともだ、まるで羽交い絞めである。


 や、やわい!


 羽交い絞めではあるが、JCに抱きつかれたのと同じである。細身なのに、柔らかい体がなんとも心地いい典高だった。


 サマイノは顔もピッタリと典高の体にくっつける。


 フキアゲが飛び出てきた!

「そいつはアラボシが囲っていた女っす! アラボシが消えて典高に乗り換えたっすね!」


 そう言って、サマイノの腕を解こうとしているが、全然緩まない。フキアゲは典高を落下から助けたあと、力が打ち止めと言っていた。腕力も打ち止めのようだ。


 サマイノは、チラッとフキアゲを見て、すぐに典高に顔をつける。


「ご主人様ぞよ! マサムネ様ぞよ!」


 人違いをしている。姫肌がサマイノの肩を優しく触って、事実を教えた。


 典高はマサムネではないこと、500年が経ちマサムネはすでにいないことである。サマイノは、主人の分身である姫肌の言葉も受け入れず、腕の力が強めていく!


 グググ

 典高はちょっときつくなってきた。でも、相手は、ほぼJCである。我慢するに決まっていた。


 見かねた母親が剥がそうとするが、サマイノは剥がれず、逆にもっと力を強める。


 グググ ググッ!

 まだ我慢できる!


 母親は抱きつくサマイノに嫉妬して、一緒になって典高に抱きつく始末、それを見た姫肌も抱きついてくる。


 モテモテの典高だった。


 ムニュ~ ムニュニュ~

 姫肌の胸が典高の背中に押し付けられる。

 結構久しぶりだった。


「ひ、姫肌、離れて、む、胸が……」


 ダララ~


 典高は鼻から出血、自ら姫肌と呼んで、さらに興奮が増したようだ。

 羽交い絞めには我慢できた典高も、姫肌の巨乳には我慢できなかったのである。


 典高のしずくがサマイノの頭へ数滴落ちた。気付いたサマイノが顔を上げる。


 と、思ったら、あーんと口を開けて舌を見せた。


 ポタポタ ゴクリ

 舌の上に載った血液を飲んでしまった!


「なんと、ぞよ。マサムネ様とは違う味ぞよ」

 確かめたようだ。


 ポンポン

 父親がサマイノの頭を軽く叩いた。

「そうですぅ。そろそろぉ、許してぇ、あげて欲しいですぅ」


 サマイノは顔だけ父親に向けた。

「あーは、誰ぞよ?」

「僕はぁ、この子の父親ですよぉ」


 クンクン

 サマイノは撫でてる腕のニオイを嗅いでいる。


「おかしいぞよ。確かに親子のニオイぞよ。でも、わーが憶えている父様のニオイではないぞよ。父様は2人いないぞよ。おかしいぞよ」


 乗る電車を間違えたような顔をする。


 典高の父親と、マサムネの父親は全くの別人なのである。典高が、改めてマサムネとは違う教えると、サマイノから力が抜けた。


 典高は母親と姫肌にも離れるように促し、やっと、自由を取り戻したのだった。

 まず、常備しているティッシュで、自分とサマイノについた血痕を始末した。


「マナヒメ様ぞよ。マサムネ様はどこなのぞよ?」

 サマイノがJCっぽく、かわいく首をかしぐ。


 姫肌をマナヒメと呼んだ。

「あたしは、今は姫肌と呼ばれているのです。サマイノも姫肌と呼ぶのです」


「分かったぞよ。それで、ヒメハ様、マサムネ様はどこなのぞよ?」


 不思議そうな顔で周りを探している。500年経っていることを聞き逃したか、聞く耳を持たなかったようだ。


 教えると、無垢な顔を歪ませた。


「あーーーーーーーーーーっ あーーーーーーーーーーーっ!

 マサムネ様ぞよーーーーーーーーーーっ!

 あーーーーーーーーーーっ あーーーーーーーーーーーっ!」


 サマイノは誰も寄せ付けないほどに泣いたが、ほんの10数秒、レオタードの裾で涙を拭いて泣き止んだ。


「思い出したぞよ! マサムネ様はここぞよ!」


 ゴロン!

 近くにあった雷神石を、軽々とひっくり返した。大した力持ちである。


 上側に回ったくず鉄をかき分けている。

 顔が華やぐ、お目当ての物を見つけたようだ。


 ブチンッ!

 強い磁力から引き千切るように、一片のくず鉄をむしり取った。


 1センチ角くらいの錆びた板のようだ。掌の上で確認すると、大事そうに胸に押し当てる。


 姫肌はマサムネと言われて、黙っていられなかった。

「それは、何なのです? マサムネ兄様が残した物なのですか?」


 満足顔のサマイノが、嬉しそうに告げる。


「マサムネ様の、置き手紙ぞよ!」


 錆びた欠片かけらが置き手紙だって?


【2580文字】


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