第十四章 アート

第62話 第十四章 アート(1/4)




   第十四章 アート


 ここは神社の入口、表参道をまたいだ大鳥居が建っている。


 凄まじい閃光と轟音があったものの、全員無事だった。


 Yシャツの典高も、ビキニの姫肌も、紐水着にフンドシを着けた風神のフキアゲも、神職衣装を着た典高の父親も、その父親に抱っこされ、ジャージ姿で眠っている母親も、みんな無事だった。


 典高はこれで一息つけると思ったが、姫肌は恥ずかしそうにして、フキアゲの後ろに回って、典高からの視線に備えている。


 さらに、ビキニの胸を両腕で抱えるようにしている。

 なんか、寒いみたいだ。


 これまでは、風神のフキアゲが姫肌の体に入って、皮膚の表面に薄い風の層を作り、暑さ寒さから守っていた。


 そのフキアゲが体外へ出たので、その効果が薄れているみたいだった。


 典高はYシャツを脱いで、姫肌に渡す。

 制服の上着を渡したいところだったが、秘密基地で母親に渡したので、すでに着てなかった。


「妹石さん、これを着なよ」

 一旦受け取ろうとした姫肌が、手を縮める。


「兄様! 兄様は、あたしを姫肌と呼ぶのです!」

 先にも聞いた注文を言った。


「どうしたんだよ。今までだって、妹石さんって呼んでたじゃん」

「違うのです。星渡りに乗るかどうか決めるところから、兄様は『姫肌』と呼んでいたのです! 呼び捨てにしてくれたのです! だから、これからは、ずっと、姫肌と呼ぶのです!」


「ええっ! そんな……」

 あの時はかなり気合いが乗っていた。特例と言っていい。


 それに、これまで姫肌を70パーセントの妹と思っていたのである。そこへ、単為生殖の異星人と聞いてしまった。妹でないと知れたのだ。なのに呼び捨てにするだなんて、躊躇して当然だった。


 でも、姫肌は許さない。

「もう、姫肌と一度呼んでいるのです。男は、言葉を曲げては、ならないのです!」

 凄みがある。譲る気、ゼロだ。


 典高は、これ以上言っても無駄と思った。

「わ、分かったよ。そう呼ぶよ。だから、ひ、……姫肌……、これを着なよ」


 改めてYシャツを渡した。

「やったーーーーっなのです!」

 姫肌は万馬券を手にしたように喜んだ。ルンルン気分で、Yシャツの袖に腕を通す。


「兄様の温もりなのです」

 目をつぶって、うっとり。


「なあ、温もりで思い出したけど、お前に指を咥えられた時、暖かい何かが入ってきたんだよ。あれって、お前のパワーだったのか?」


「そうなのです。あたしは仲間にパワーを少しだ与えられえるのです」

 そんなことを言っていた。


「ありがとう、それで雷神石の磁力をアップできたよ」

「やったー! なのです! 兄様の役に立ったのです!」

 Yシャツに太腿が伸びた姿でピョンピョンと跳ねた。


 ハズかったんじゃなかのか?

 と、思いつつも、Yシャツと太腿に嬉しい典高だった。




「ふあーーーーっ なんか、騒がしいのだ。うーーーーん、知らないうちに、眠っていたのだーーーー。ふあーーーーっ」


 母親のアクビが、1つ2つと大きな口を開けた。轟音では目覚めなかったが、姫肌の喜んだ声に目が覚めたようだ。


 父親に抱っこされていると、直ちに気付いた。


「何をやっているのだ! なれなれしいのだ! さっさと、降ろすのだ!」

 母親は、抱っこしている父親の手を振りほどいて、逃げるようにして石畳に立った。


「照乃さんぅ、怪我はないですかぁ?」

 優しく聞く父親は、母親の目覚めに安心して、目を潤ませている。


「怪我など、ないのだ!」

 母親は勢いつけて突っぱねる!


 これには典高も父親の味方となった。

「母さん! 父さんは心配してたんだよ!」



 と、たしなめて、ずっと父親が母親の下で受け止めようと待機していたこと、骨が折れてもいいから助けたいと言ったこと、そして、しっかりと受け止めたことを教えた。



 これには母親もばつが悪い。

「わ、分かったのだ! 少しは認めてやるのだ! それではここに、ひざまずくのだ」


「えっ?」

 『ひざまずく』に、ビックリする典高を尻目に。


「はいぃ」

 と、父親が母親の前に出て、腰を落として右膝を立て、左膝を石畳につけた。そして、お姫様の前に召し出された騎士のように、うやうやしくこうべを垂れたのだ。


「よしよし、なのだ」

 母親が父親の頭を撫でてる!


 いったい、どういう夫婦だったのだろうか?

 身を引いてしまう典高であったが、2人とも少女マンガのように、バラ色となって輝き、とても幸せそうだ。誰も言葉が出なかった。



「……思い出したのだ! 典ちゃん、邪気はどうなったのだ?」

 撫でるのをやめた母親が聞いてきた。


「邪気は消えたよ」

「典ちゃんが消したのか?」

「そうだよ。邪気のエネルギー源を断ったんだ」



 消し方は母親のとは違っていた。そのことを教えたが、母親は理解できない。でも、当の典高でさえ、分かってないと気付いた。

「うーーん、分かったのだ」

 察した母親は、納得した振りの返事をし、自ら一区切りをつけた。



 母親が辺りを見るとフキアゲを見つけた。


「神様なのだ! 罰ゲームを受けている神様がいるのだ!」

 不思議な顔をした。


「何すか? この人間? 罰ゲームとは、どういうことっすか?」

 母親とフキアゲは、今が初対面だった。


「フンドシにかれた挙句、ちっぱいが痛々しいくらいに潰されているのだ! これを罰ゲームと言わずに何と言うのだ」


 フキアゲは始めから、紐水着にフンドシ姿である。


「お前が、ちっぱい、言うなっす! 罰ゲームじゃないっすよ! これはアタイの正装っす!」


 JCっぽい胸を張って見せた。母親はJS体形なのだ。


「大きさはともかく、恥ずかしい格好なのだ! 罰ゲームにしか見えないのだ!」

 なるほど、大人から見れば、深夜のお色気アニメレベルである。


「違うっすよ! これが正装っす!」

 2人は睨み合っている。典高はきちんとお互いを紹介したが、母親にはHでたまらない。


「まるで、エロ神なのだ!」

「アタイは、エロ神でないっす! 風神っす!」


 母親は迫るフキアゲの顔を押し返すと、父親を見て上機嫌な顔になった。

「まあ、よしとするのだ。この神職には見えていないのだからな!」


 神職であるにも関わらず、父親には霊感がないので、フキアゲは見えていない。

 父親がフキアゲのエロさを感じることはないので、母親は安心したのだった。


 と言うことは、息子にはOKなのかな?


【2495文字】

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