第61話【肝回】第十三章 アラボシを鎮めろ!(5/5)

 シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 ドバキッ!


 雷神石は単独のまま石畳に激突し、めり込むようにして、その一部を破壊した。

 そのくらいに重い石なのだ。


 レオタードの子は相変わらず、仰向けのまま、ゆっくりと降下している。


 だが、雷神石が落ちた衝撃は半端なかった。

 大きな振動となって大鳥居の柱を揺らす。当然、柱に伝わった振動は、横木に達する。


 そう、横木も揺れたのである。

 典高は片手で横木に下がっていた。


 ユラユラ ユララ

 揺れを食らう典高!


 チョンッ!

「やべっ!」


 典高の手が横木から外れた!


「お、落ちる!」

 ヒューーーーーーーーーンッ


 手足を広げても、ブレーキの役になんて立たない!


 ゆっくりと降下するレオタードの子に軽く追着き、抜き去ろうとする。

「ゆっくりなんて、不公平だよ!」


 と、その時、典高の中にいるトドロキが叫んだ!

「放電じゃ! 放電が来るのじゃ!」



 その瞬間!



 ピカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 バリバリバリッ!


 ドドドドッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ! ズドドドンッ!


 閃光と轟音!



 レオタードの子から発せられたのである。


 トドロキが予想していた永久電流が、ここにきて留まる臨界を超えて弾けたのだ。


 光学的ショックを受けるほどの閃光と、体が千切れるほどの轟音が同時に炸裂した!


 雷に襲われた!


 と、思った典高は目をつぶる、くらいしかできない。


 でも、雷と思った光の筋は、1本ではなく複数であり、しかも放射状だった。


 光の筋は電気的なものだから、アースである地面に向かうのが通常であるが、大鳥居は金属製のために、地面と同じようにアースの役目をする。


 このため、光の筋は放射状に複数本分かれて、大鳥居の柱や横木にも届いたのだ。


 つまり、レオタードの子を中心にして、何本もの光の筋が打ち上げ花火のように広がったのである。


 典高は閃光と轟音を体に浴びたが、雷と思った割には電気をチリリとも感じなかった。


 その代わり、弾き飛ばされたように空中を斜めに上昇していた。


 ヒューーーーンッ


 でも、やっぱり途中から放物線を肌身に感じてくる。そう、落下に転じたのである。


 典高が閃光のために閉じた目を開けると、石畳が眼前に迫っていた!


「ぶち当たる!」


 ポワンッ! クルッ!

 ズシンッ!


 典高は透明な風のクッションに弾んで半回転した後、石畳の上に尻餅をついた。

 それほど痛くない。道に転んで尻を打ったくらいだった。


「つつっ! 俺は助かったのか?」

 典高は石畳の上に座り込んで不思議な気分でいた。


「そうじゃな。なんとか放電を防げたのじゃ」

 典高の中にいるオチ神のトドロキだ。


「やっぱ、放電だったの?」

「そうじゃ。永久電流が回路から一気に弾け出たのじゃ。その電流がスパークして、地面と鳥居に吸い込まれたのじゃ。わしはもう電気を操れぬのじゃが、磁界を使って電気を典高かららしたのじゃ」


 強い磁界(磁場)は、宙を走る電気の方向を変えられるのだ。


「ありがとう、俺を助けてくれたんだね」

「放電からはそうじゃ。でも、落下から助けたのは、そこの風神、フキアゲじゃ」


 見ると、紐水着にフンドシ姿のフキアゲがいた。得意げな顔をしている。


「あ、ありがとう、フキアゲ。風のクッションで助けてくれたんだね」

「そうっすよ。でも、これでアタイの力は打ち止めっすよ」

 フキアゲはトホホの顔に変わった。


 その顔を見て、典高は心配を思い出した。

「アラボシが消えて、フキアゲは大丈夫なの?」


「大丈夫っすよ。今は胸にいるっすから」

 ニッコリとして見せた。


 消えたアラボシは、フキアゲの心の中にいるのだと思って、典高はホッとした。


 典高の視界に父親が入った。

 母親を抱っこしたまま腰を抜かしたように、尻餅をついていた。母親は、まだ目覚めていないようだ。


「父さん、母さんは大丈夫なの?」

「光と音にぃ、ビックリしましたぁ。でもぉ、照乃さんはぁ、あの轟音でもぉ、目覚めなかったんですよぉ。今もぉ、かわいい寝言を言ってますぅ。大丈夫ですよぉ」

 2人とも無事のようだ。


 続いて典高は姫肌に気付いた。普段通りのビキニが立っている。

「妹石さんは大丈夫?」


 姫肌は典高の視線に気付いて、ビキニを隠すような仕草。


「恥ずかしいのです! ジロジロ見てはならないのです! それに、兄様は姫肌と呼ぶのです!」


 ハズいポーズでも、呼び方に注文をつける元気があった。



【1782文字】


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