第59話【肝回】第十三章 アラボシを鎮めろ!(3/5)
スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
典高が、胸いっぱいに息を吸う。
フーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
典高は岩の隙間に、息を思いっきり流し込んだ!
風神石の2段に重なる岩の隙間である。
勢いよく典高の息が抜けていく。
ブォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
鳴った!
風神石が鳴った!
ビビビ ブブゥ ビュビュビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
風の膜が典高の背中に張り付いた!
その膜が典高の体を押し上げようとする!
絆風である。
絆風とは、風雷節の行事において、風神石に息を吹いて鳴らすと、自動的に雷神石へ向かって吹く風のことである。ちなみに、行事では宮司である典高の父親が雷神石を吹く。
神社の境内であれば雷神石をどこに置いても、絆風は雷神石へ向かって吹くとされ、ある程度の時間続くと言う。
そして、絆風と言う強風は、必ず鳴らした人間を吹き飛ばし、雷神石に激突させるのだ。そんな凄まじい強風なのだ。
典高は絆風を使えば、雷神石を大鳥居へ押しつけられると思ったのだ。
その絆風が典高を乗せて雷神石へ向かって吹く。
ゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
典高は宙を飛ぶ! メッチャ速い!
走ってきた100メートルを一気に飛び越えた!
黒い煙の星渡り! その頂上! くず鉄の錆色!
錆色の雷神石が目前に迫ってくる!
激突する!
邪気が封印される時、隕石が惑星へ落下するように、雷神石へ落ちて貼り付いていた。
典高はそれを思い出して、雷神石を地球に見立てた!
両方の腕を前側から上側へと大きく振り上る!
体が半回転!
滑り止めがついたスニーカーのゴム底が前を向く!
ゴム底から雷神石へ激突!
ドズ~~ンッ!
さながら着地!
雷神石の横側に着地した。
だが、雷神石の磁力は強い。くず鉄は、欠片の1つも飛び散らなかった。
典高の着地は、体操選手が見せるフィニッシュのように、華麗なんてわけがなかった。
学校の塀を乗り越えて飛び降りた時、いや、校舎の2階の窓から飛び降りた時くらいの勢いだった。
尻をつく寸前の着地だった。
【注意:
決して、学校の塀を乗り越えたり、2階の窓から飛び降りてはダメですよ!】
雷神石には衝撃! 大鳥居の上の横木(笠木)へ近づく!
けど、接触には至らない。あと、30センチか?
「そんな攻撃! 俺様には痛くもかゆくもないぞ!」
アラボシは強がる。
しかし、星渡りの霊体は衝撃を受けた雷神石に追随した。引きずられるように形を変えてまで、その下にあろうとした。
コアが無意識的に雷神石を放したくないみたいだ。
ビュビュビュビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
絆風は続いている。
雷神石と典高はその強風を受ける。雷神石に追随する星渡りの上部は、さらに、ひしゃげ、頂上部分はやや
典高は絆風に飛ばされないように、風上から腹を雷神石へ載せ、右手を伸ばせば鳥居に触れる体勢をとって備える。腹にくず鉄が当たって痛いが我慢した。
ビュビュビュビューーーーーーーーーーーーーーーンッ!
大丈夫! 絆風はまだまだ続いている! 雷神石も典高も押されている!
大鳥居へあと少し!
ズゴンッ!
「やった!」
雷神石と大鳥居が接触した!
鳥居の一番上にある横木、笠木の中央部である。
典高は、すかさず右手を大鳥居へ伸ばす。
ペタッ! 触った!
能力発動!
磁力を高める想いを雷神石に与えた。
ギュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
「あれ? いつも通りじゃない! すぐに磁力が上がらないぞ!」
能力は発動できているが、与えたほどの磁力が高まっていない! 思ったほどの効果を感じない。
「俺のパワーが足りてないっ!」
商店街で女性たちを助けるために、パワーを使い過ぎたみたいだ。
まずい! どうしよう。
絆風はそろそろ尽きると思った。このままじゃ、アラボシを止められないぞ!
「あた……が、パ……をあ……るのです!」
ビューーーーーーーーーーーッ!
姫肌の声だ!
強風で目が覚めたのか? でも、今の体勢では姫肌を確認できない。
典高は雷神石の横側から上を向いて大鳥居に手を伸ばし、姫肌は星渡りの霊体に捕らわれているのだ。雷神石は星渡りの霊体に乗っていた。
つまり、姫肌は典高の下にいるのだ! なら、典高が下を向けばいい。
典高は、クルッと頭を下にして、上下逆さまになった。
絆風で押されているので落ちる心配はない。
改めて右手で鳥居に触れる。
見ると、姫肌は煙の星渡りに捕らわれながら、もがいている。もがくほどに位置が高くなっていく。
そう、アラボシの脅し文句を利用してるのだ。
姫肌が雷神石にくっついている典高に近づいてくる!
「目が覚めたの? 何をやってるの?」
ビューーーーーーーーーーーッ!
姫肌からは、呼応した反応がない。典高の声は聞こえてないみたいだ。
姫肌はムニュムニュともがきながら、雷神石のすぐ下まで来た。
もう触れるくらいに近い。
「……び、ゆび、ゆ……、……び」
ビューーーーーーーーーーーッ!
絆風の音が大きい! 途切れ途切れにしか聞こえない。
もしかして、指なのか?
「指がどうしたの?」
典高の右手は、雷神石の磁力を上げるために大鳥居に触れたままでいたい。なので、左手の人差し指を1本立てて見せた。
姫肌は手足が星渡りに捕まったまま、うんうんと、うなずいた。
通じた!
典高は、姫肌の反応のままに、その指を差し出した。
パクッ!
く、
姫肌が典高の指を咥えた!
「お、おい! こんな時に……あれ?」
典高の指へ、何か暖かいものが流れ込んでくる感覚、どんどんと典高の体内に入ってくる!
典高は初日の教室を思い出す。
体温よりも高いような、心地いい暖かいエネルギー的なものを、姫肌から感じたのだった。
でも、今は、そんなレベルじゃない!
たくさんのエネルギーみたいのが、体に入ってくる。
「なんだか、俺に力がみなぎってくるぞ! よし! 磁力アップだ!」
ギュイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
雷神石の磁力が強まっていく感触が、ビンビンと伝わってきた!
雷神石がさらに強い磁石となっていく!
「おい! 人間! 兄石典高! 何をやっている! やめろ! 磁力のバランスが! 電気の力がなくなる! 体に力が入らん! 俺様をどうする気だ!」
今さらながら、アラボシに危機感が走った。
「邪気には消えてもらうよ!」
「や、やめろ、ち、力が、ぬ、抜け……る……」
雷神石に下にあるコアの回路は超伝導体となれる物質でできていた。
超伝導体は条件が整っていないと、超伝導体ではいられない。超伝導体の性質である電気抵抗がゼロも保てないのである。その条件の1つが磁力なのだ。
いくら磁束を通さないという性質を持った超伝導体でも、より強い磁力の束、強磁束を受けると、その性質を維持できなくなるのだ。
雷神石の強磁束を受けて、コアの回路のゼロだった電気抵抗が急速に大きくなっていく。回路をめぐっていた永久電流に、どんどんと電気抵抗いうブレーキがかかっていく。
シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
星渡りを乗っ取っていたアラボシは、永久電流と言うエネルギー源を失った。
霊体でできた星渡りの黒い煙は、湯気が蒸発するかのように、雷神石から遠い下側から消え始めるのだった。
【2960文字】
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