第58話 第十三章 アラボシを鎮めろ!(2/5)

 ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 風が、空気が、典高を吹き上げる。


 フワリッ

 体が宙に浮いた。足が地面から離れ、典高は踏ん切りがつく。


「俺が弾になってやる!」

「行けっす!」


 ビュ ビューーーーンッ ~~ シューーーーーーウ ウウウ……

 ドスンッ!


 典高は石畳に尻から落ちた!

 2メートルほど上がって、すぐに地面に落ちてしまった。



「いってーーーーーーーーっ!」

 典高は尻を押さえて立ち上がった。


「ごめんっす。消耗が激しかったっす。ちっとも、飛ばせなかったっす」

 フキアゲは頭を抱えている。


 アラボシも典高が飛んで落ちた一部始終を見ていた。

「おいおい! 何のパフォーマンスだよ? お笑いが滑ったのか?」

「うるさいっすね! お笑いじゃないっすよ!」

 不甲斐ない顔を向けてる。


「へー、そうかよ! 勝手にやってろ! バーカ!」

「悔しいっす!」

 握る拳に力が入っている。


 典高はまだ尻が痛いがフキアゲの所へ行く。

「テテテ、フキアゲ、どうしたの? すぐに失速したよ」


 フキアゲの眉間にしわが寄っている。

「力を使い過ぎていたっすよ。どうやら、怒りに我を忘れて、たまらなく消耗してたっす。せいぜい、空気のクッションを作るくらいの力しか残っていないようっす」


「クッションって、俺は尻から落ちたぞ!」

 まだ痛い。


「その時は、いきなり力が抜けたからっす。もう、平気っすよ」

 頼り無さそうな顔だが、Vサインだ。


「なら、もし何かあって、妹石さんと母さんが落ちてきたら、受け止めてよ」

 典高の心配は2人にあった。


「もちろんっすよ!」

 典高の父親も母親を受け止めるって言ってたのを思い出し、典高は父親の姿を探した。


 いない。見当たらない。どこへ行ったのだろうか? ……逃げたのか?

 それは違うと、典高は思った。


「父さん、いる?」

 声をかけた。


「いますよぉ、何ですかぁ、典高君ぅ?」

 声はすれども姿は見えない。星渡りの中にいるんだ。霊体に隠れて、典高には見えなかった。


「何でもないよ。風が強かったから、飛ばされたと思ったんだ」

「僕の装束はぁ、絆風には負けるけどぉ、あのくらいの風にはぁ、大丈夫なんですよぉ」

 風雷節の時に吹く強風対策が施してあるだ。


「分かった。ありがとう。母さんたちが落ちてきたら受け止めてよ」

「当然ですよぉ」

 父親は心配ない。


 それよりも雷神石である。フキアゲに頼れない今、どうすれば、雷神石を大鳥居に接触できるのか?


 典高は目が届く範囲を見回した。

 玉砂利や木々の枝田が石畳に散乱し、手水舎ちょうずや柄杓ひしゃくなんて、一つも残っていない。


 宝剣も転がっているが使えない。

 フキアゲはアラボシと再び口喧嘩を始めていた。


 そして、父親は見えないけど、安心?


 !! ん!!

 父親……風雷節……絆風!


「あったぞ! 雷神石にたどり着く方法が! フキアゲ! 星渡りを大鳥居のすぐ近くの内側に釘付けにしておいてくれ!」


 星渡りは拝殿側にいるが、フラフラと動いていた。

「動きを止めるっすか?」


 典高の口が、フキアゲの耳に寄って囁く。


「雷神石と大鳥居を接触させたいんだ。近くなら少しくらい動いていても構わないよ」


 フキアゲは何か気付いたのか、笑顔を返す。

「分かったっす! 任せるっす!」


 典高は、うなづいて見せると走り出した!


 ダダダ ダダダ ダダダ

 表参道を拝殿方面へ向かう。


 ズザザザーーーーッ! ザーーーーーーーーッ!


 100メートルくらい走り、横向きになって、急ブレーキ! スニーカーの底が石畳に削れるほどに、豪快に滑ってから止った。


 横を向いた典高の眼前には、大きな2段の鏡餅があった。



 風神石である。



 近くに寄ってそのかたわらにしゃがみ、風神石越しに星渡りを見た。離れたために、星渡りの頭に載っている雷神石までよく見える。


 フキアゲの挑発で雷神石が少しずつ動いている。狙い目は、大鳥居に近づいた時だ。


 ! 雷神石がフラフラと大鳥居に近づいた!


「今だ!」


 スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 典高が、胸いっぱいに息を吸う。


 フーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!

 典高は岩の隙間に、息を思いっきり流し込んだ!


 風神石の2段に重なる岩の隙間である。


 勢いよく典高の息が抜けていく。


 ブォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 鳴った!

 風神石が鳴った!


【1707文字】

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