第十三章 アラボシを鎮めろ!

第57話 第十三章 アラボシを鎮めろ!(1/5)




   第十三章 アラボシを鎮めろ!


 神社の入口にそびえ立つ銀色の大鳥居は、校舎の2倍ほども大きい。


 それと同じくらい高く黒い煙の塊のような霊体の星渡りが、裾野を持つ火山のように立っていた。だが、前側は急峻、上の方はほぼ垂直だった。


 火口がある火山のように平らな頂上には、多くの鉄くずが貼り付いた雷神石があるはずであるのだが、頂上の形状と高さのために、地上から確認できない。



 星渡りには、雷神アラボシが融合し、そのまま乗っ取られていた。

 とは言っても、アラボシはすでに雷神ではなく、オチ神でもなく、ただの霊体に成り下がっていた。



 そして、星渡りの垂直な上部の壁には、2人の女の子が眠らされ捕らわれている。双方とも、両手両足を星渡りの霊体に、没するように捕らわれ、その胴体を晒していた。


 女の子と言っても、1人は典高の母親である。JSのような体形だから、女の子といっても差し支えない。かわいそうに見えるが、ジャージ姿なのでエロさは感じなかった。


 しかし、もう1人はビキニ姿である。巨乳に、くびれた腰つき、ムチっとした太腿が高々と掲げられていた。エロさがムンムンであった。


 そのビキニの女の子こそ、妹石姫肌である。


 典高のクラスメイトであり、異星人であり、一緒に住んでいる妹? なのだ。実は先祖の妹と同じDMAを持った女の子である。



 典高は2人を助けたい。そのためには雷神石の磁力を高めて、星渡りのエネルギー源を断つ必要があった。


 幸い典高には、別の金属を介して磁石の磁力を増減できる能力があった。


 早速、典高は神社にあった金属製の宝剣にて、雷神石の磁力を高めようとした。宝剣は人の背丈ほどに長かったものの、雷神石に比べて小さ過ぎたために、失敗してしまった。



 そこへやってきた典高の父親が、3人目の細身な女の子がいると言い出した。

 姫肌が眠る前に言った言葉からすれば、その3人目が星渡りのコアと思われる。


 であるのだが、風神のフキアゲは、アラボシが、その3人目を、愛人のように囲っていると思い込み、逆上してして玉砂利交じりの強風を星渡りに吹きつけたのである。



 強風に飛ばされまいと、大鳥居にしがみつく典高であった。



 このままでは、星渡りに捕らわれた2人に玉砂利が当たる危険があるが、逆上したフキアゲは聞く耳を持たない。


 一度失敗しているが、雷神石の磁力を高める方策を、典高は考える。


 参道に落ちたままの宝剣を見た。強風でも飛ばされてない。でも、その宝剣では小さかった。もっと大きな金属はないだろうか?



 ビビューーーーーーーーーーーーーーンッ!


 さらに風が強くなる。典高は飛ばされまいと、大鳥居の柱にしがみつくばかりだ。




 しがみつく指先が冷んやりとしてるのに気付いた。


「あるじゃん! この大鳥居も金属だよ!」




 大鳥居は銀に輝く金属製だった。おそらくステンレスとか、錆びにくい金属なのだろう。


「目の前どころか、すでに俺の手の内だったのか! すると、この大鳥居と雷神石を接触できれば、俺は能力を使えるじゃないか!」


 雷神石と大鳥居の高さは同じくらいだ。何とかできると、典高は気持ちが高ぶった。


 だが、大鳥居が動くはずがない。星渡りを誘導するとかして、載っている雷神石を大鳥居に触らせないとならない。



 どうすればいいんだ?


「そうだ! 風神だ! フキアゲだ!」



 典高は商店街でフキアゲに飛ばしてもらって、星渡りに捕まった女性たちを助けたことを思い出した。


 星渡りは霊体なので、風では動かないが、風神石は石であるから、強風なら動くかも知れない。


 ビューーーーーーーーーーッ! ヒュヒュヒュ~~ウ…………。


「おーい! フキアゲ! お願いがあるんだ!」


 典高は風が少し弱くなったのを見計らって、地面に立って息を切らせているフキアゲを呼んだ。


「ハァ、ハァ、アラボシ! 囲ってる細身の女を放すっすよ!」

「バーカ! 息を切らせやがって! 逆上して吹かすお前の風は、長続きしねーって分かってんだよ! ゆっくりと力尽きるのを待てばいいんだよ。それにな、俺様が、その女を囲ってるわけじゃねーんだからな! バーカ!」


 典高の声は聞こえてない。もう一度呼びかける。

「おーい! フキアゲ!」


 フキアゲがこっちを見た。

「何すか? アタイは細身の女で手いっぱいっすよ!」


 細身の女とは、おそらく星渡りのコアである。


 典高は雷神石の磁力を高めて、アラボシのエネルギーを断てば、そのコアも解放されると楽観的に考えていた。


「その細身の女の子も含めて、解決できそうなんだよ。だからこっちに来て!」


「アラボシ! ちょっと、休戦っす!」

「俺様も体の4分の1を消されたんだ。境内は回復が早いが、まだ時間がかかりそうだ。待ってやってもいいぜ。んで、回復したら、女狩りを再開だ!」


 アラボシは霊体を削がれても、ぶれてなかった。


「とんだスケベっすね!」

「それが俺様だ!」

 典高には霊体のフキアゲが胸を張ったように見えた。


 プイッ!

 っと、フキアゲはアラボシに背を向け、典高のもとへ歩いてきた。風神なのに飛んでこない。パワーダウンしているように思えた。


「何すか? 細身の女をアラボシから引き離せるんすか?」

 典高は、しがみついていた大鳥居の柱から手を放して地面に立つと、トドロキが提案した雷神石の磁力を高めて、星渡りのエネルギーを断つやり方に再挑戦したいと告げた。


「思い出したっす。星渡りからアラボシが出てくれば、それでいいっす。出てくれば、細みの女を囲うなんてできっこないっす。それに、女狩りなんてもうできないっすからね」


 典高の声もフキアゲの流れに乗る。

「そうなれば、妹石さんと俺の母さんが助かると思うんだ」

「アタイは、どうすればいいっすか?」


 やっと直接的な頼みごと。

「俺と雷神石と大鳥居が互いに接触する必要があるんだ。だから、俺を雷神石の高さまで持ち上げて、雷神石を風で押して大鳥居にくっつけて欲しいんだよ! 一瞬じゃないよ。5秒くらいは接触させて欲しいんだ」


 宝剣の時、フキアゲは雷神石を斬るつもりだったから、典高は念を押した。

 フキアゲの考える時間は僅かだった。


「よしっす! やってみるっすよ! でも、典高を弾にするっす! 雷神石にぶつけて、そのまま風で押し切るっす!」


 弾?


「お、俺を弾にするのかよ! 風で雷神石を押せないの?」

 自分が弾になるなんて、ちょっと怖い。


「丸っこい雷神石を風で押すより、人間を押した方が風効率がいいんすよ」

「危なくないの?」

「それなりの衝撃はあるっすけど、姫肌を助けたくないっすか?」


 2人の救出を盾にされると典高は弱い。

「助けたいよ! ああ、いいよ! 俺を弾にしてくれ!」


 そう、女の子を助けるのに、リスクはつきものなのだ。


「なら、行くっすよ!」


 ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 風が、空気が、典高を吹き上げる。


 フワリッ

 体が宙に浮いた。足が地面から離れ、典高は踏ん切りがつく。


「俺が弾になってやる!」

「行けっす!」


 ビュ ビューーーーンッ ~~ シューーーーーーウ ウウウ……

 ドスンッ!


 典高は石畳に尻から落ちた!

 2メートルほど上がって、すぐに地面に落ちてしまった。


【2853文字】


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