第56話 第十二章 超伝導体(6/6)

 父親が上を見ながら気のない声を出す。

「ねえぇ、典高君ぅ、心配があるんですけどぉ」

「何が心配なの?」


「少し離れた位置にもう1人ぃ、浮いているんですぅ。


 3人目はぁ、受け取められないですよぉ」


 3人目? 変なことを言い出した。



 一般人の女性たちは全員助けたはずだった。典高が見上げても、母親と姫肌しか見えない。


「3人目って、どこにいるの?」

 父親は真上を見上げて、指を差す。


「ほらぁ、あそこぉ、んなじ高さですがぁ、離れていますぅ。ありゃりゃぁ! もしかしてぇ、雷神石も浮いているんですかぁ?」


「今頃気付いたの?」

 今さらなことを言っている。父親はアラボシが見えないのだから、もっと前から気付いていても、おかしくなかった。


「雷神石は、3人目の女性と重なってぇ、すぐに気付きませんでしたぁ」

「女性? 重なってる? どんな風に浮いてるの? もっと詳しく教えてよ」


 父親は雷神石のすぐ下に3人目が浮いていると言う。


 雷神石を浮かせているのは星渡りのコアである。永久電流を持った超伝導体だ。

 コアとは機械のようなものと、典高は勝手に想像していた。


 女性とは、思ってもみなかったのである。さらに、500年間ずっと雷神石の下にいたはずなのだ。

 典高は父親が来た時の言葉を思い出した。


 雷神石がなくなり、その地面に穴が開いたと。その女性が埋まっていたのか?


 女性と聞いて、典高は思った以上に興味が湧いた。

「ねえ、父さん。見える女性って、どんな人なの?」


「白っぽいレオタードみたいなぁ、服を着ていてぇ、姫肌さんくらいの年だけどぉ、2人のようにぃ、よい寝顔じゃありませんねぇ。

 悪夢でも見ているようにぃ、苦しんでる顔ですよぉ。細身だけにぃ、つらそうですねぇ」


 コアは、白いレオタードを着た細身の女性、しかも姫肌と同じくらいの年齢である。

 でもって辛そう。アラボシがエネルギーを奪っているからかも知れない。


「キーーーーーーッ! アラボシは細身の女を隠してたっすね!」


 フキアゲが声を荒げた!

 母親と姫肌を挟んで、アラボシと争っていたが、父親の声が聞こえたようだ。


「また、細身の女っすか! アタイと同じ体形の女を囲うなんて! ひどいっす! 500年前、どうなったか憶えてないっすか?」

 過去にも因縁があったようだ。


「ち、違うぞ! こ、この女はそういう意味じゃ……」

 アラボシの言い訳なんて、聞くはずもない。


「許さないっす!」

 ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 バチバチ!

 表参道の玉砂利が何個も吹き上がり、アラボシに向かって飛んでいく。


 フキアゲは怒ったら風を吹き上げるから、フキアゲって名前になった。


「無駄無駄! 焦ったけど、今はただの霊体だった。そんな小石なんて素通りだ」

 アラボシには何のこともない。


 フキアゲは逆上して、さらに風を強める!

 ビビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 バチバチバチバチ!


「フキアゲ、やめて! 妹石さんと母さんに当たっちゃうよ!」


 ブビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 フワッ!

 やめないどころか、典高も持ち上げる勢いだ!


 なのに、父親は風の影響を感じない。

 着ている何とかと言った名前の神職衣装が、耐絆風用なのだ。強風に耐性があった。

 でも、典高は飛ばされそう。


「フキアゲ! ちょい、待ち! 俺もヤバいって!」

「細身の女はどこっすか? 早く放すっす!」


 フキアゲは聞いてない。


「フキアゲ! だからー、それは違うんだって!」

 アラボシの言葉も耳に入らない。


 ビビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 さらに強風!


 風に流されそうな雷神石を、アラボシが霊体に力を入れて引き戻すくらいに強風だ。


 ヒッシッ!

 典高は大鳥居の柱にしがみついた。


 銀色で太くて丸い柱だ。典高の両腕でも柱の半周に届かないし、指のかかる凹凸などもない。


 ギリギリで我慢する。

「このままじゃ、母さんと妹石さんを助けられないよ! どうしよう?」


【1627文字】


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