第54話 第十二章 超伝導体(4/6)

 ばっちり、目の前にゴロンと錆びた雷神石、典高は宝剣を振り下ろす!


 ビュンッ! ヒョイッ!


 よ、けた!

 雷神石がアラボシごと、横へスライド! 宝剣は空を斬ったのである。


 アラボシはフキアゲを察知していた!


「何を企んでんのか知らねーが、宝剣で斬りつけるたぁ、物騒だな! でも、まんまと斬られては、やらねーよ!」


 フキアゲにも考えがあった。

「アラボシ! 神妙にするっすよ! さあ、典高、行くっすよ! 今度は回すっす!」


「回すって、何を?」

 意味が分からない。


「典高をっすよ!」

「ちょ、ちょっと! ……」


 グルンッ! グルンッ! グルンッ! グルンッ! …………


 空と地面がめまぐるしく入れ替わる! 石畳や、大鳥居や、黒い塊が、下から上へと急激な速度で飛び去っていく。


 ヘソくらいを軸として鉄棒の前転をしているようだ。典高は宝剣を構えたポーズのまま、クルクルと回っていた。


 周期的に錆の赤が通過していくのに気付いた。宝剣を構えた手を伸ばすだけで、雷神石に当たりそう?

 タイミングを目がけて手を伸ばした。


 ヒョイッ!


 雷神石が横にずれた! 容易に避けたようだ!


 でも、そんな場合じゃない! 目が回る、典高はキモくなってきた。

「止めて! 止めて! これじゃあ、雷神石に当っても、キモくて力が使えないよ!」


 グルンッ! グルンッ! ……ピタリッ


 典高の体は止まったが、目の回転は急には止まらない。地面にいたら、転がっていたところだが、宙に浮いているので、立っている姿勢は保たれていた。


「クルクル回っても、意味ないよ!」

「ダメっすか? 回転した方がぶった斬れると思ったっすよ!」


「始めに言ったじゃないか! 斬るんじゃないよ! 宝剣を雷神石に接触させながら力を使うんだよ!」


「そ、そうだったっすね」

 フキアゲは興奮のあまり目的を忘れていた。


「フキアゲのバーカ! 直線的に突っ込んだり、単純な回転なんてのは、読みやすいんだよ! バーカ! アホー!」


 アラボシが挑発している。

「なら、カーブっす!」


 ビューーーーーーーーンッ!

 典高が雷神石を目がけて飛んでいく!


 クイッ!


 左に逸れ、典高の体が横向き! でも、ピタリと雷神石が目の前だ!

 よっしゃ! 典高が宝剣を打ち込む。


 シャッ! ヒョイッ!

 また避けられた。見計らったように、雷神石が横へずれた!


「ハハハッ! バーーーーカ! 来る前に『カーブ』なんて、変化を言うやつがいるかよ! でも、俺様の頭を狙ってるって分かったぞ!


 だがなあ! フキアゲの動きは、昔と同じなんだよ! 500年経っても進歩がねーな!」


 アラボシの太い声が小バカにする。


 典高はもっともと思った。変化球の名前を言ってから投げるピッチャーなんていない。それに、第一撃も直線的過ぎた。避けるのは容易だったかも知れなかった。


「操風術の鍛錬はしてたっすけど、新技しんわざは全然考えてなかったっす!」

「ざまみろ! バーカ!」


「ぐぅーーーーーーっ! 悔しいっす!」

 フキアゲは2つの拳を握り締めている。


「ねー、フキアゲ、作戦を立てようよ」

 このままではダメと典高は思った。


「分かったっす! そのままだったら、疲れて消耗するだけっすね」

 フキアゲも少し息が上がっているようだ。


 反対にアラボシは余裕だった。

「少しくらいなら、待ってやるぜ! 面白そうだ! 回復までの暇潰しだ。また、バカにしてやるぜ!」


 悔しいところだが、典高とフキアゲは少し離れた空中で相談する。声は届かない距離だ。




 典高は、星渡りの体が大鳥居と同じ位の高さを利用して、大鳥居にアラボシを追い詰めるように提案した。


 体は霊体であるが、雷神石はモロ固体である。すり抜けることはできないと思ったのだ。


 フキアゲは鳥居と挟み撃ちを理解したが、典高にはもう1つ提案があった。

 大鳥居との間に挟んだら、鳥居に当てるくらいの勢いで一直線に自分を飛ばして欲しいと頼んだ。


「典高が鳥居に当たるっすよ! それに一直線だと、また動きを読まれるっす」

「だから、油断すると思うんだよ。予想通りアラボシも避けると思うよ、でも、すぐ後ろには鳥居があるんだ。ノーマークの俺が鳥居を蹴って動きを変えるんだよ」


「そうっすね。アタイの操風術は読まれるっす。風を読んでいるうちに、典高が単独で動けば、アラボシも予測できないかも知れないっすね」


「そういうこと、意表をつけると思うんだよ。だけど、神的に、鳥居って蹴っちゃまずいかな?」

 神様なら怒るかも。


「アタイ的にはOKっすよ。鳥居は単なる結界っす。鳥がとまるくらいで、神が宿るものじゃないっすよ。ここからが、神域って境を示しているだけっすからね」

 フキアゲ個人の見解である。


「よかった!」

「面白くなってきたっす! 早速、やってみるっす!」




 典高がアラボシに向かって構えをとった。


「ふーん、やっと、やる気になったようだな。どーれ、お手並み拝見っと」


「いくっすよ!」

 まずは、大鳥居へと星渡りを追い詰める。


 ビビューーーーーーーーンッと、飛んで、シャッと典高が打ち込むと、ヒョイッと、アラボシが避ける。


 ビュワーーーーーーーーンッ! シャッ! ヒョイッ!

 ビビューーーーーーーーンッ! シャッ! ヒョイッ!


 宝剣を何度も打ち込む。アラボシは、右へ左へ宝剣を避けた。やっぱり横の動きが主体だ、大鳥居に追い込めると典高は思った。


「相談した割には、一直線の攻撃ばかりだな、フキアゲ! バカの一つ覚えもいいところだ! がっかりしたぞ!」


「て、手数で勝負っす!」

 適当なことを言って油断させてる。


「こりゃ、フキアゲか人間が、疲れ果てて終わりだな!」

 ビューーーーンッ! シャッ! ヒョイッ!


 よし! 星渡りが大鳥居のすぐ前に来た。


「今だ!」


 典高の合図。典高は、後ろにある大鳥居とで、アラボシを挟んだ! 挟み撃ちだ。


 ビュワーーーーーーーーーーンッ!

 フキアゲは典高を、大鳥居へぶつける勢いで、風に乗せて叩きつける!


 ギュイーーーーーーーーーーーーンッ!

 ヒョイッ!


 避けた! アラボシが避けた!


 でも、左右のどちらでもない!


 下だ!


 ここにきて初めて、アラボシは身を沈めて避けた! 雷神石が鳥居の下へ下へと、遠ざかる!


「何かやってくると思ったぜ! 空中は三次元、地上の動きとは違うんだよ、人間!」

 作戦会議の時間があったのだ。アラボシも十分に予想していた。


「それも想定の範囲内!」


 典高は鳥居に当る寸前で身を返し、足から横向きに鳥居の島木(上の横部材)に着地!


 ダンッ!

 蹴る!


 方向は作戦会議になかった下向きだ! さらに、島木の下の貫(下の横部材)も蹴る!


 ズダンッ!


 典高の速さが、自然落下を超えた!


「やーーーーーーーーーーっ!」


「やべっ!」

 慌てた星渡りは、避けた勢いのまま下向きにしか逃げられない!


 ガチーーーーーーーーンッ!

 宝剣が雷神石を直撃!


 勢いあまって弾かれそうだが、直前に典高は雑巾を絞る要領で柄を握りつけ、力を入れた! 宝剣の勢いを殺す。


 磁力ためか、雷神石に載ってるくず鉄は、その一欠片も飛ぶことはなかった。

 典高の体重をあずけるように、ピッタリと宝剣を雷神石につけることに成功した。


 高さはもう、地上1.数メートル!


 フキアゲの操風術で完全に静止した。


「チェックメイドだ! アラボシ!」


「ざまみろっす!」

「くっ、うごけねーっ!」


 アラボシは限界まで縮んでいた。


 典高は磁力を強くする力を使う!

 グィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 バチンッ!


 弾かれた! 雷神石から宝剣が弾かれてしまった!


 弾かれた勢いは、典高の握力を超えた! 宝剣は手から放れ、ゆっくりと回転しながら、宙に円弧を描いて飛んでいく!


 典高の顔が、失態にゆがんだ!


【3033文字】

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