第53話 第十二章 超伝導体(3/6)

「分かったよ! 雷神石に金属を当てて磁力を高めれば、母さんと妹石さんが助かるんだよな」


「そういうことじゃ」

 典高の行動方針が決まった!


 だが、トドロキには懸念があった。


「じゃがな。雷神石を浮かせるほどの永久電流は強大じゃ。いきなり電気抵抗が回復すると、強大な電流が急速に減衰するのじゃ。


 放電や閃光が、あるやも知れんのじゃ。


 人質もおるのじゃ。放電や閃光に注意せんと、落雷を受けたのと同じことが起きるのじゃ」


「雷はまずいよ!」

 典高は雷に撃たれた痛みを知っている!


 フキアゲが寄ってきた!

「星渡りが消えれば融合が解けて、アラボシが出てくるっす! アタイも手伝うっす! 放電や閃光はアタイに任すっす!」


 元気に見えるが、アラボシの復活を諦めたフキアゲである。典高はちょっと心配する。


「アラボシはもう、雷神に戻れないけどいいの?」

 フキアゲには何かを吹っ切ったような笑み。


「いいっす! それは諦めたっす! アラボシが出てくれば、それでいいっす! 

 今の霊体を乗っ取っているアラボシが鎮まるまで協力するっすよ。


 それに、姫肌はずっと一緒だったっす。アタイだって助けたいっす。もし放電とかがあったら、風を操って電気よりも速く、巫女と母親を救出してやるっすよ」

 頼もしいほどだった。


「放電を浴びんように注意するのじゃぞ」

 トドロキはアラボシを諦めさせた張本人である。フキアゲの空元気からげんきっぽい様子を見かねて声をかけた。


「アタイは雷神のパートナー、風神っす! 雷を避けれられなきゃ、コミュニケーションなんて、とれないっすよ!」


 アラボシへの想いが少し残っているようだが、典高は安心した。次は自分の番だった。



 典高には磁石の磁力を増減させる能力がある。それには、媒介する金属が必要だった。使えそうな金属を探そうと典高が辺りを見回す。

 それらしいものは見当たらない。


 商店街だから、バイクや自転車はあるが、とても使えない。ほぼ同じ組成の金属でないとダメだし、対象とする磁石に見合う大きさの金属が必要だった。


「宝剣を使うっすよ」


 フキアゲが提案した。宝剣の姿が典高の頭に思い浮かぶ。柄まで金属だったし、それなりに長いし太かった。


「宝剣か、大きさ的にも最低限のサイズだな。そのまま使えそうだ。ちなみに宝剣って、磁石にくっつくのかな?」


 磁石につく金属でも構わないし、くっつくのであれば、くっついたまま能力が使えるし都合がいい。


「宝剣は磁石につかないはずっす」

「残念、つかないのか」

 なら、10円玉を使った時のように自分でくっつければいい話である。


 なのであるが、実のところ、一抱えもある大きな磁石の磁力を、典高は変えたことがなかった。ぶっつけ本番である。


 ただ、これまでの経験からして、宝剣の大きさはギリギリだった。大きさに懸念があったが、他にないのでしゃーないと思った。


「磁石につかなくても問題ないよ。で、宝剣って、どこに置いたっけ?」

 色々あり過ぎて忘れている。


「風神石の近くっす! アタイが風に乗せて持ってくるっす。しっかり受け取るっすよ」

 フキアゲが念じて風を起こしている。


 典高はフキアゲによって、スカイダイビングのように宙に浮いている。フキアゲが縦横を調節して、剣を持ちやすいように垂直に立つポーズにしてくれた。


 ビューーーーンッ!

 そこへ、宝剣が風によって運ばれ、典高の眼前に立つように浮いている。

 さすが、風神といったところである。


 シャッ!

 典高は、しっかりと宝剣をつかみ取った。


 軽い!


「なんだか、宝剣が軽くなったよ」

 星渡りを復活させた時よりも、はるかに軽かった。剣道の竹刀くらいだ。


「アタイが吹き上げて重さを操作してるっすよ」

「でも、大きさに対する重さ(密度)が俺とは違うだろう。続けられるの?」


 密度が違う物体を同時に操るのは難しいと思った。

「この程度の調整は、お茶の子さいさいっすよ」

 問題にすらしてない感じだ。


「そうか、よし! この宝剣を雷神石へぶち当ててやる! フキアゲ! 星渡りの頭に連れてって!」


「よし来たっす!」

 ビューーーーーーーーーーンッ!


 高い!


 アラボシが乗っ取った星渡りより、はるかに高い! 下界に航空写真を見るようだ。


 ゴチャゴチャと、小さな建物が典高の足元にひしめいており、そこを商店街の通りが1本貫いている。後ろは駅へ、前は神社へ、気持ちいいほどに一直線だ。


 前の神社には湖のように森が広がっている。商店街の一直線が、その森に入り込むと、湖を東西に分けほどに太くなる。石畳の表参道である。

 その森に入り込む地点に大鳥居が銀色の線となって見える。


 もう、ほぼ真下だ。

 商店街から神社の外周道路を渡って大鳥居へ近づこうとする黒い塊が見えた。


 星渡り、アラボシだ。


 今まさに境内に入ろうとしている。神社へ逃げ込むところだった。



 典高には、アラボシの位置はよく分かるが、地図上の1点である。

「フ、フキアゲ、た、高過ぎるよ!」

 声が震える。


 高い空になびく凧の糸を綱渡りをしているようだ。高所恐怖症でなくてもビビるだろう。


「アラボシの不意をつきたいっす。気付かないような高い所から突っ込むっすよ!」


 確かに、航空写真の高さから見下ろしているとは、思っていないはず。


「分かった、任せるよ。雷神石の位置は分かる?」

「大鳥居の近くにある黒い塊がアラボシっす。その真ん中に見える赤い点が雷神石っす! そこへ向けて急降下するっすよ。アタイの一撃を食らわせてやるっす!」


 フキアゲは一太刀入れることを考えている。一瞬じゃダメだ。

「何秒か接触させないと効果が出ないんだよ。通り過ぎないでよ」


「そうっすか? なら、ピタリと止めてみせるっすよ!」

 やっぱ気付いてなかった。典高はホッとして身をまかすことにした。


「なら、お願いするよ」

「行くっすよ!」


 ビビューーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 典高は真っ逆さま、雷神石めがけて、頭から急降下!


 森が、表参道が、大鳥居が、ずんずんと大きくなっていく! アラボシの黒い塊は大鳥居のそのすぐ隣だ!


 典高の目が、錆びの赤に染まる雷神石をとらえた!


 ビューーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 加速度的に雷神石が迫ってくる! 典高は宝剣を振りかざした!


 ビシューーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

 急ブレーキ!


 ピタリッ! フキアゲには1センチの狂いもない。

 ばっちり、目の前にゴロンと錆びた雷神石、典高は宝剣を振り下ろす!


 ビュンッ! ヒョイッ!


 よ、けた!

 雷神石がアラボシごと、横へスライド! 宝剣は空を斬ったのである。


【2612文字】


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